抱擁 +改訂版+

  
黒く燃え上がる焔・・・
かき分けてもかき分けても吹き出してくる。
影を使いながら巽は前へと進む。
”早くあの人を見つけなければ!”思いはそれだけ。
・・・・どれくらいそうやっていたのか、ふいに火が途切れた。
周りは火に囲まれていたが不思議に熱さは感じなかった。
離れた所に人影が見える。

『都筑さん!』

大声で呼びかけながら駆け寄ると、ゆっくりと彼は振り向いた。
今にも泣きそうな辛い顔。

『都筑さん、行きましょう。これ以上ここにいては危険です』

さあ、と手を取る。

『行けないよ・・・巽』
彼は首を振る。

『えっ!?』
途端握っている手の感触が変わる。
『?』
目を手元に落とす。
そこには黒く炭化した手が握られていた。

『ひっ・・・!』
思わず力が加わったせいか、炭化した手はぼろぼろと巽の手から落ちていく・・・・

『つ、都筑さ・・・・・ん』

あまりのことに見上げた視界には焔に包まれた都筑が映る。
少し哀しげで・・・・それでいて微笑んでいるような・・・・穏やかな顔 震えながら伸ばされた巽の手には黒いものだけが残された・・・・・





はっと開いた目は見慣れた天井を捉えた。
遠くで自分の叫び声を聞いたような気がする。
ずっと叫び続けていたのか、喉が少し痛い。

・・・・夢なのか・・・・

ようやく意識がはっきりしてくる。
巽は上半身を起こし時計を確認すると、水を飲みにベッドを降りた。
コップに水を入れ飲み干すと段々と胸の動悸も治まってくる。
またベッドには戻る気がせず、巽はテーブルの椅子に腰かけた。

またこの夢を見た。
もう何度目になるだろう・・・・
始まりはいつも違う夢・・・・でも最後はいつも都筑が炎に飲み込まれるシーンで終わる。 そしていつも都筑は逃げようとせず、巽も彼を救い出す事が出来ない。
毎回びっしょりと汗をかいて、叫んで叫んで目が覚めている・・・・・
いつもいつもいつも・・・・
目覚めた後の苦い思い・・・
巽は自分の手を見つめる。
そう、夢の中での都筑の拒絶、彼はいつも巽の救いの手を拒むのだ。






「よう!具合はどうや?」
ベッド上で本を読んでいた密はその声に顔を上げた。
「亘理さん」
「んー、だいぶん顔色も良くなったな、これなら退院もすぐやな。」
顔を覗き込んで、そう言うと密の頭に手を置き、ぽんぽんと叩く。
召還課で一番年若いせいか、巽も亘理もあの都筑さえよくこうやって密の頭を触ってくる。
それは励ましだったり、褒める時だったりと色々だが何時までも子供扱いされるようで密は 余り好きではなかった。
でも今はずいぶんと心配をかけたという思いからか亘理の手を温かく感じる。
「ありがとうございます・・・・」
心持ち俯いた密の様子を見て、亘理はベッドの端に座った。
「・・・都筑のことやろ?」
「はい・・・・あいつまだ・・・」
「もう2,3日様子見てこっちへ移す予定や、大丈夫ちゃーんと回復しとるから」
「やっぱり怪我・・・酷かったんですね」

密は炎の中の事を思い出す。
あの時は無我夢中で都筑と一緒に、という思いで必死だった。
『疲れたよ・・・』
そういう彼を1人に出来なかった、こんな淋しい表情をさせたくない・・・・そう思ったのだ。
でも・・・・あんな最期の時でも都筑は自分を庇っていてくれたように思う。 密に炎が当たらないよう自分の身体で・・・着物で包み込んで・・・・
あんな激しい火の中でそれが無駄であったとしても、都筑は出来る限り密を守っていた。 2人で死ぬ覚悟であそこに自分はいたのに・・・・。

「まあ、騰蛇の火やからなあ。でも、ま手当もうまくいったし、心配せんでも大丈夫や。 それよりも・・・・」
亘理はちょっとため息をついた。
「?」
ベッドから立ち上がって密を見下ろす。
「巽の方が重症やな・・・・」
「え!?」
・・・・巽さんが?
「都筑の顔を見に行こうとせんしな。なんかもう意地になっとるな、あれは。昔からの悪い癖や。 全部自分のせいや、とか考える奴やからなあ〜。」
今までもこんなことがあったのだろうか・・・・
こんな風に亘理が時折に口にする言葉に密は自分の知らない巽と都筑の歴史を感じる。それを悔しがっても仕方ないとは思っても自分が知り得ない時間があの2人には存在している・・・・それは確かな現実だった。
ふと密は先日『彼を助けたのは君だから』と言った巽の辛そうな表情を思い浮かべる。
「今回のこともやっと吹っ切れたかと思っとたら、またや。どんどん袋小路に自分を追い込むしな」
困ったもんや、そう付け足しながら亘理は苦笑した。もう何度もきっと彼はこんな2人を見てきているのだろう・・・・また後で来ると言いながら部屋を出ていった。




密は窓から見える空を見つめた。
都筑があの状況でギリギリまで自分を守ってくれていたことを考える。
あのとき都筑の中に、少しでも”そのこと”がなかっただろうか。
だとすれば巽は自分を責める必要はないはずだ・・・・
青く広がる空に向かって、密は短くため息をついた。
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