Over The Distance
side-Tatsumi 『巽のことは・・・好きだよ』 あの日・・・・この場所で貴方が言った言葉が蘇る。 『大切に思っている』 そう貴方は言った。 『でも・・・・でも俺は行かなくっちゃ・・・・』 そう告げられた時の貴方の顔を思い出せない。 ただあの時のセリフが繰り返し繰り返し聞こえる。 波の音だけが聞こえる空間。 もうシーズンも終わり周りに人影はない。 靴底に絡む砂が歩く速度を緩める。 細く長く続く海岸をただ一人歩いていた。 ・・・もうあれからどれくらいの月日が経つのか・・・・ 色彩を失った自分には過ぎゆく時は関係なくて あらゆる事は意味を成さなくなった。 ただ1日1日をやり過ごす日々。 そうあの時から自分の時計は止まっている。 気がつくとテトラポットの側にやってきていた。 腰を下ろして海を眺める。 うち寄せては返す波を見、音を聞いていると またあの声が蘇ってくる。 無邪気な、明るい、大好きな声・・・・ 『たつみー、ほら見て変わった貝がある!』 波打ち際に走っていて歓声を上げる。 『海って気持ちいいねー』 うーんと両腕を伸ばして笑う。 『海の色は・・・巽の瞳と同じ色だ・・・』 抱きしめた腕の中で呟かれた言葉。 一つ一つが宝石のようにキラキラ輝いていて 自分の心を彩る美しい光だったのに なぜ・・・・どうして・・・・貴方は今、ここにいないのか・・・・。 それは徐々に二人の間に出来た溝。 屈託なく笑う貴方の笑顔に少しだけ陰りが見え始めた時・・・ 出張の度に自分に見せる笑顔が少なくなって ある時抱きしめた貴方からかすかに感じた香水の香り。 触れれば・・・抱きしめれば抵抗なくこの腕におさまるのに 貴方の腕が私の背中に回らなくなった時・・・・ そして 貴方がここで別れを告げた時・・・・私は光を失った。 都筑さん・・・貴方は覚えているだろうか。 ここで私は、貴方に自分の気持ちを伝えた。 何十年も胸の中に秘めた思い。 伝えることはないと一時は諦めた事もあった。 けれど自分の闇を次々と暴かれていくたび弱って行く貴方を前に もう自分の気持ちを止める術はなかった。 抱きしめたかった、守ってやりたかった、 誰よりも誰よりも大切にこの胸の中で貴方を感じていたかったのに・・・・。 ただそれだけだったのに、それさえも貴方は私に与えてはくれなかったのですね。 「ごめんなさい・・・・」 消えるような声で貴方が言った言葉は今でも耳に残っている。 どうして自分ではなかったのか。 どうしてあの男でなければならなかったのか。 あんなにも近くに感じた貴方をどうして簡単に手放してしまったのか。 自分の両手を握りしめる。 かつて感じたぬくもりを覚えているこの腕が憎い・・・・・。 私は貴方の何を抱きしめていたのか・・・・ この手の中に掴んだものは幻だったとでも言うのか。 見つめる両手が涙でにじむ。 ・・・・・・!? あの時、貴方から別れを告げられた時にさえ流れなかった涙が今・・・・頬を濡らす。 ・・・・・もしも・・・・この涙を貴方の前で流すことが出来たなら 今ある二人の運命を変えることが、出来たのだろうか・・・・・ 海から吹く冷たい風が身体を突き抜ける。 今でも 貴方がいない今でも 私は誓える。 誰よりも貴方を愛しています。 これだけは変わらない永遠の呪縛・・・・解き放たれたいとも思わない。 もし一つだけ願いが叶うならば 貴方に逢いたい そしてあの頃の私達を あの腕に抱いたぬくもりを もう一度だけ・・・・・・ |
2001・10・10
M・Hinase
| ★曲名シリーズ第一弾(*^_^*)。 6000番のキリ番リクエスト「攻めの人に涙を・・・」という分のシリアスバージョンです。巽の独白・・・・という形になっております。途中で止まっていたものを書き上げてUPしました・・・・。都筑サイドも後日UP予定v これをイメージした曲は、矢井田瞳の「Over The Distance」です。 初めて聞いた時から巽都ソングでした。それも不幸編の・・・。 聞く機会があれば是非一度・・・・・切ないです。 |