| 嵐のように 〜3〜 都筑は食事の片づけをする巽の後ろ姿をぼんやり眺める。 すっと背の伸びた姿勢は職場で見るそれと変わらない。 変わっている所といえば多少ラフな格好をしているとこと 自分を見る目がずっと優しいということ。 職場でもほんのちょっとした瞬間に優しくなることはあるが 場所柄長い時間は続かない。 基本的に公私混同は嫌いな方なんだろうな・・・と 食後に出されたお茶をすすりながら考えていた。 体の怠さはだいぶん楽になった。 それでもいつもに比べて余程顔色が良くなかったのか 巽の家に来てからもあれやこれや世話を焼かれた。 都筑としては・・・・ すぐにでも抱きしめて欲しかった。 それなのに帰るなりお風呂の用意をされ、都筑が入っているうちに 食事の用意をしていた。 そして今こうやって過ごしているわけで。 ・・・・お風呂でも入ってこなかったし・・・・ と、都筑は湯飲みを置いて頬杖をつく。 二人で入ればただでは済まないことは事は百も承知だが いつあの扉が開くのか・・・・とちょっと期待する自分がいたのも確かで わざとゆっくり風呂に浸かっていた。 ・・・・馬鹿みたいだな、俺・・・・ もちろん巽が自分の身体を気遣ってくれているんだというのは 頭では分かっている。 けれど・・・・時には・・・・ そう、あいつのように・・・・とそこまで、考えて都筑は頭を振る。 巽と邑輝は違う、何考えてるんだ俺は・・・・ 自分の考えが浅ましく思えて、都筑は溜息をついた。 「今日は客室のベッドで寝てくださいね。」 巽が風呂から上がってくるのをテレビを見ながら待っていた都筑は、リビングに入って来た彼にそう告げたれた。 「え?なんで?」 「なんでって・・・・その方がゆっくり休めるでしょう?」 冷えますよ、とパジャマ姿の都筑に上着を掛ける。 「・・・・都筑さん?」 巽は何も答えない都筑の表情を覗き込むようにかがみ込んだ。 「どうしたんですか?」 「イヤだ! 巽と寝る。」 一生懸命、今の今まで気を紛らわしてきたのに、またもやあっさりと巽に言われて、もう都筑は我慢が出来なかった。 「でも・・・」 「寝るったら寝るの! それとも巽は俺と寝るのイヤ?」 「イヤとか・・・・そんな問題じゃないでしょう? 貴方具合が良くないのに・・・」 「大丈夫だよ!」 都筑はガバッと巽の首に手をかけ抱きつく。 「言ってよ、俺と寝たいって! ちゃんと巽の口から言ってよ!」 求めて欲しい・・・・思うだけでなく言葉に出して・・・・ そうでないと、割り切ってつき合っているあの男の方に流されていく自分がいる、それを感じるから・・・・。 「言って、言ってよ巽!」 まるで子供が駄々をこねるように抱きつく都筑の背中に巽の腕が回る。 「まったく・・・・どうしたんです?・・・・ん?」 宥めるように都筑の背中を巽の温かい手が往き来する。 「巽・・・・・」 ふーっと吐いた息が都筑の耳元をくすぐった。 「じゃ、いらっしゃい。」 「わっ!」 急に横抱きに抱きかかえられた都筑はつい声を出す。 巽がめったにしない抱き方で都筑は寝室へと連れて行かれた。 ドサッとベッドの上に降ろされる。 首から手を離して恐る恐る顔を見上げると、 吸い込まれそうな瞳が都筑を映し出していた。 「たつみ・・・・」 あまりにも近い距離で見つめ合うことにちょっと照れてしまう。 「何今更、照れてるんです?」 目を泳がせる都筑の頬に手をあてる。 「いいんですね・・・・・」 「うん・・・・」 欲しい言葉は・・・・言われないままに、またこうやって流れていくことに 少しだけ淋しさを感じるけど・・・・・ それは自分の我が儘だと思い直す。 都筑がそっと目を瞑るのを合図に、二人の影が一つになっていった・・・・・。 カタカタカタ・・・・ キーボードを叩く音、電話の鳴る音・・・・ 今日も様々な音が鳴り響く中、都筑はやっと遅れに遅れた書類を仕上げることが出来た。 「はあ〜やっと出来たよ!疲れたー。」 次々と打ち出される書類を見ながら、大きく背伸びをする。 「結局、再提出と言われてから4日目だな。」 都筑の声に顔を上げたパートナーが突き放したように言う。 「今週中でいいって巽が言ったんだよ!」 トントンと書類を揃えながら確認する。 いくら何でも再々提出は避けたいところだ。 「これでよし!」 と、課長室へ向かおうとして机を離れた時に内ポケットの携帯が鳴り響いた。 「はい。都筑ですけど・・・」 (こんにちは、都筑さん) 「げっ、むら・・・・」 邑輝と言いそうになって、慌てて口をふさぐ。 振り返って密を見たが、ちょうど亘理達と話していて気付かれなかったようだ。 都筑は書類をとりあえず置きっぱなしにして廊下に出た。 「何だよ、電話ならいつもこっちからかけてるだろ?」 (これはまた、随分なご挨拶ですね。たまには私からかけてもいいじゃないですか) 「で、何だよ!今仕事中なんだ!」 (いえ、この前の旅行の件でお会いしたい・・・と思いまして) 「旅行?行くなんて言ってないだろう、俺は。それにこの前、おまえ勝手に人の精気を吸いやがって!」 (ああ、そんな小さいことをまだ気にしていたのですか?) 「小さい事じゃないだろう、散々に疲れさせておきながら!もうしばらくは会わないからな!」 じゃあ、と電話を切ろうとする都筑の耳に低い邑輝の声が響いてきた。 (貴方が欲しいのです・・・・・) ボタンを押す手が止まる。 (都筑さん・・・・わかるでしょう? 私はいつでも貴方を感じていたいのです) 「邑輝・・・・」 どうしてこいつは・・・・・ (貴方を感じさせてください、私に・・・・いいでしょう?) 「もう、やめろ・・・・」 意図的に発せられる声のトーンは、情事を思い起こさせるには充分だった。 黙り込んだことを了承の意味にとったのか (今夜いつもの場所で・・・・お待ちしています) 邑輝はそう告げると電話は切られた。 都筑は通話の切れた画面を見つめる。 いつもこうだ・・・・・ 邑輝はいつもいつも都筑が欲しい言葉を、都筑が聞きたい言葉を言ってくる。 あの日、巽に言って欲しかった言葉・・・・ 事がある間も・・・・ 事が終わっても・・・・ その手で唇で、何よりも慈しみ大事に愛してくれたけれど 言葉だけは無くて・・・・ それを望むのは贅沢で我が儘なことだと逆に自分を責めたりしていたのに。 こうもあっさりとその言葉を与える男は何なのか。 そしてそれにどうしようもなく引き寄せられる自分は一体・・・・ 都筑はいつまでも切れた電話を見つめ続けた。 「いいでしょう、OKですよ。」 出来上がった書類を巽に提出しに都筑は課長室にいた。 「あー良かった!これで一安心だよ!」 「まだ、沢山あるでしょう?」 「それを言うなよ!今は達成感に浸っていたいの!」 ぷーっと膨れる都筑を見て、巽は苦笑する。 「じゃ、俺これで・・・」 「あ、都筑さん。」 片手をあげて立ち去ろうとした都筑の手を巽が掴んだ。 「・・・・何?」 掴まれた手の力が、いつもよりも少し強いことに戸惑う。 「今夜、うちに来ませんか?」 「え?」 「貴方の好きなもの作りますよ、何がいいです?」 優しく微笑む巽の顔を見ながら、ふいに邑輝の言葉がよぎる。 『貴方が欲しい・・・』 巽に言って欲しい言葉なのに、もうその言葉自体に引きずられる自分がいる。 「あ、あの・・・・今日はちょっと。」 「何かあるんですか?」 握られた手の力が少し弱くなる。 ・・・・離さないで!巽!・・・・ 「亘理達と飲む約束しちゃったから・・・・」 ・・・・それは嘘だ、と言って欲しい・・・・・ 「そうですか・・・・・」 ・・・・納得しないで・・・・・ 「それでは仕方ないですね。来週にでも回しましょう、いいですか?」 すっと温かい体温が離れていく・・・・ 巽は掴んでいた都筑の腕を放した。 「都筑さん?」 掴んでいた腕を放したのに、まだ掴まれたままの状態で立ちつくす都筑に声をかける。 「え?ああ、そうだね・・・・うん、そうしてよ・・・・」 都筑はぬくもりの去った腕をもう片方の手でさすりながら巽を見つめる。 「ごめんね、巽・・・・」 それは都筑だけが知る謝罪。 どうしようもなく強欲な自分への嫌悪でいっぱいになる。 「じゃあ、また来週・・・・」 「ええ。お疲れさまでした。」 落胆しつつも笑顔で見送る巽の視線を背中に感じながら都筑は課長室のドアを閉めた。 薄暗い店内はテーブルに置かれた蝋燭の光で幻想的な雰囲気を漂わせていた。 出迎えた店の者に軽く会釈をしながら都筑は歩を進める。 いつもの場所。 暗い空間に蝋燭に照らされた白い背が見えた。 「来てくださって嬉しいですよ。」 気配を感じたのだろう。 邑輝は後も振り向かず、吸いかけの煙草を灰皿に置く。 都筑は何も言わず、邑輝の座っているソファの横に立った。 すっと手が差し伸べられる。 一瞬の戸惑いの後、都筑は手をその手に重ねる。 あの男とは違ったひんやりとした感触はいつまで経っても慣れない。 「・・・・・俺も会いたかったよ・・・・・」 都筑の言葉に僅かに口元を緩ませ笑う。 「愛していますよ、都筑さん。」 低く囁くように投げかけられた言葉に都筑は目を瞑る。 そして・・・・ ゆっくりと目を開け邑輝に微笑んだ。 「俺もだよ・・・・邑輝。」 蝋燭の炎の揺らめきの中で都筑はひっそりと呟いた。 与えられる言葉で、 感情で、 溺れてしまいたい・・・・・ 自分の中に巣くう孤独を紛らわせることが出来るのならば 例えそれがどんなものでも自分はその手を取るだろう。 |
2001・10・23
M・Hinase
| ★え?終わり?って思われるでしょう。終わりです、はい! 1から比べてダークになったような気がしますが・・・・でもこれでいったん終わりです。何を都筑が求めているのか、そこはかとなく感じてくれれば、嬉しいですv ここの都筑は自己嫌悪に苛まれつつも邑輝との関係を続け、それでも巽も手放したくない都合のいい、勝手な都筑です。 これを書いていて、ちょっとダーク系を思い出したような気がするので(笑)そのうちまた何か書くかもしれません。 それでは短い連載でしたがおつきあいくださりありがとうございました(*^_^*)。 この後の二人は皆さんのご想像にお任せします。(書き逃げとも言う・・・・) |