抱擁 +改訂版+

  
「認めたくありません!!!」
普段の彼からはけして聞くことのない大きな声で密は叫んだ。
それは巽と亘理の諍いを責めるようにも・・・また何よりも自分自身に言い聞かせるようにも叫んだ言葉だった。
密は瓦礫の先端へと足を進める・・・熱が身体を包み込む。
「黒崎くんっ!!」
巽の声が背中に響いた。
密は足元に広がる炎の海を見つめた・・・この先にいる彼を。
「ごめんなさい! もし生きて帰れたらどんな罰でも受けます!!」
そしてゆっくりと二人の方を振り向いた。
「でも俺・・・」
その目には純粋なまでの想いが満ちている。

・・・・自分にはもうない、持ちうることの出来ない光だ・・・・

巽は密を見つめた。
「後悔したくないから・・・ッ」
・・・・少年の身体がふわっと浮き上がったと思うとあっという間に燃えさかる炎の中に姿が消えていった。



残された巽は自分の声を振り切って飛び込んだ密に呆然として佇んでいた。
彼の直情的な行動に思考が止まってしまったように目の前の炎を見つめる。 熱風が下から吹きつけてくる。

都筑が騰蛇を召還した・・・・それが示すものはただ一つ。
死神である彼の完全なる死・・・・消滅・・・・
そしてそれは都筑の長年の願いの成就を意味する。
あれだけ人の生死に敏感な都筑が、魂を刈り取る死神として生き続ける・・・ その行為に苦しむ様を・・・辛さをいつも側で見てきた。
誰よりも近くで。
・・・・そう誰よりも都筑の事はわかっているつもりだった。
自分以上に彼を理解している者などいやしない、それが巽を支える柱となっていた。
たとえパートナーとして側にいなくても・・・・。
だからこそ都筑が死を選ぶというのなら、巽はそれを叶えてあげたかった。
そのことで巽の心はきっと壊れていくだろう・・・じわじわと虚無に蝕まれながら・・・・。
それでも! 
それでも・・・・都筑が楽になれるのなら、彼が死ぬことでしか幸せになれないというのならそれに付き従おう・・・殉教のように。
・・・・そう思っていたのに、召還課の年若い少年は、都筑を家族のように慕うあの少年は、 都筑を救うために炎の中に飛び込んでいった。
こんな所で死なせたくない!と・・・・
巽は苦笑したくなった。
彼は知らないのだ。
どれだけ都筑が死を望んでいるのか、
生きることに苛まれているかを・・・・・。
だからあんなにも真摯な瞳で飛び込んで行けたのだ。
そのまっすぐな行動に・・・その気持ちに笑いたくなった。
そしてそれをぶつけられた時・・・・自分は動けなかった。




「我ァ通すんは何も悪いことやないで巽 都筑かて自分通そうとしてるんや・・・」
色んな思いが交錯し立ちすくんでいた巽は横合いから声をかけられた。 はっと我に返った巽は同じように熱風にあおられ足元の火の海を見つめる亘理を見つめた。
ざっと一歩大きく踏み出した足に体重をかけるように下をのぞき込みながらも亘理の目は火を見ていないないように感じた。
「俺達は俺達の思いを押し通せばええ!!」
それは静かな・・・そして力強い言葉だった。
何も言えずただ亘理を見つめる巽に視線を戻した亘理はなおも言葉をつなぐ。
「どっちが正しいかなんて今ここで決めるこっちゃないやろ?」
ん?・・・と問いかける彼は・・・・・もういつもの亘理だった。
巽は再び黒焔へと目を戻した。
・・・・思いを押し通す・・・・
亘理の言葉が巽の中で繰り返される。
都筑の思いは思いとして、今ここで問われているのは巽自身の思いということ。 都筑が楽になるかならないかなど考えずに、本当に、本当に自分が願うこと。
願いながらも目をそらし続けて来たもの。
自分の我を通す・・・・
巽は目を瞑った・・・・・

瞼に浮かんでくるのは都筑の笑顔、そして聞こえてくるのは自分を呼ぶ声。
いつもいつも彼を見ていたい・・・そう思った。
彼の幸せそうな笑顔を・・・
そして側にいてそれを守りたい・・・
もう涙を流すことのないよう・・・いつも・・・・いつも・・・・
そう思いながら歩んできた日々が頭の中を駆けめぐる。
「そう・・・ですね・・・・」
巽はゆっくりと目を開く。
真に私の望むもの・・・・・
それは・・・・・都筑のいる世界。
ならば・・・・・・・答えは一つだった。


自暴自棄になった都筑をおそらく密は連れてくることが出来ないだろう。
それだけに彼の思いは強く複雑だ。
巽は影を出し自分自身をその中に同化する。
一瞬、巽は亘理を見た。
亘理は何も言わず、ふっと口元を緩ませる。
暗闇が巽を包む・・・もう黒焔も見えなければ焼け落ちる音も聞こえはしない。
目指すはただ都筑のもと。
命をつなげることが彼をまた苦しめる事になるだろう。
助けた自分を都筑はなじるかもしれない・・・・・憎むかもしれない。
でも、それでも今は都筑のもとへ、あの命を終わらせることだけは、絶対に出来ないと巽は思った。





影は一直線に都筑と密がいるであろう場所へと吸い込まれるように降りていった。
Copyright (c) 2004 M・Hinase All rights reserved.