ハプニング



「どうするんだよー」
「まったくですよ、亘理さん!なんでこんなものばっかり・・・・」
「・・・・だから、悪かったって・・・・そう怒るなや。」
怒りと諦めの混じり合った空気の中で3人同時に溜息をつく。
「大体さあ、何でこんな薬を作るんだよ、おまえは!」
とは都筑。
「都筑・・・・この際薬のことはもういい。亘理さんが変な実験ばかりやることは今に始まったことじゃないだろう。」
と言うのは密。
「坊、それはないで・・・・俺は・・・」
情けない声を出すのは亘理。
「薬はもういいです、ただどうして、ジュースの瓶になんか入れて冷蔵庫に入れるんですか?それも2本も!」
庁内の大掃除にかり出された都筑と密が亘理の実験室に寄ったのは先刻。
『喉が渇いたよー』と都筑が勝手に冷蔵庫を開けて中に入っているジュースを密にも渡し2人で飲んだ。
そしたら・・・・・。
これが事の顛末。
1本なら、まだこいつだけで済んだのに、と都筑を見る。
「おい密、自分さえよければいいのか?」
「ああ、そうだ。」
「ひどいよーー。」
「煩い!亘理さんの実験に巻き込まれるのはおまえだけで充分だと言ってんだ!」
「まあまあ2人とも、喧嘩はあかんで〜仲良うせんと!」
「亘理さん!」
「亘理!」
誰のせいだと思ってるんだ!と睨みつける。
本当にどうすればいいいんだろう・・・・都筑はまだ亘理に文句を言い続けている密を見ながら溜息をついた。
今日は久しぶりに会える日なのに・・・・本当についていない・・・・。



夕方、召還課に戻った巽が見たものは熱心に机に向かう都筑の姿。
「おやおや、どういう風の吹き回しですか? 嵐にならなければいいですけど。」
珍しいものを見たという風に近づく巽に都筑が顔を上げる。
「巽さん。」
「え?巽・・・・さん?」
聞き慣れない言葉に巽が聞き返す。
「信じられないかも知れませんが、俺、黒崎です。」
「は?」
真っ直ぐに自分を見つめてくる紫の瞳を見つめながら巽は立ち尽くした。




夜8時、待ち合わせのホテルのロビーに座りながら都筑は楽しく行き交う人々をぼんやり眺めた。
2週間ぶりのデート。
珍しく仕事が立て込んで時間が取れなかった。ようやく一息ついた昨日、タイミング良く邑輝からの連絡があって・・・・・楽しみにしていたのに・・・・。段々と視線が下がりやがて自分の足元を眺める。
今日はあのプレゼントされたコートを着てこようと思ったのに、それも叶わなかった。
今の自分の姿を見たら邑輝はなんと言うのだろう。
姿形が変わっても自分に気付いてくれるだろうか・・・・それが不安だった。


「こんな所で何してるんです。」
頭上から響く声に都筑は顔を上げる。
コートを片手にかけながら邑輝が見下ろしていた。
「あ、邑輝・・・・・」
何と言おう、何を言えばいい? そう考える間、口だけがぱくぱくして上手く言葉にならない。
「子供がうろうろする場所でも時間でもないでしょう、帰りなさい。」
「あ、あの・・・・」
「都筑さんの後でも追ってきたのですか?」
そう言うと邑輝はタバコをとりだして火をつける。
「あの・・・・俺・・・・」
冷たく自分を一瞥して視線を外す邑輝を見つめた。久しぶりに会えたのに、自分とは分かってもらえなくて・・・・本当のことを言わなくっちゃと思う気持ちだけが空回りする。
ダメだ、やっぱり・・・・。都筑は泣きそうになって下を向いた。
今日は帰った方がいい、そのうち薬も切れるだろう。そしたらまた・・・・会える・・・・きっと。
黙り込んでしまった都筑を邑輝は見つめる。
「ごめん、帰る。」
密の姿の都筑が立ち上がった。その様子にはっとして邑輝が腕を捉える。
「待ちなさい。」
顔を見るのが辛くて振り解こうとする腕を力強く掴まれた。
「待ちなさいって言っているでしょう、都筑さん!」
その邑輝の言葉に驚いた都筑が振り向くと、口元に笑みを浮かべた邑輝がいた。


場所を変えましょう・・・・と連れてこられたのはホテルの部屋。
年若い密の姿である今の都筑を連れて店に入るのは憚られたし、格好がホテルのレストランを利用するには少々不釣り合いだった。
ロビーでは少し取り乱した都筑も落ち着きを取り戻し、大人しくソファに座り込んでいた。
「食事はルームサービスを頼みましたから。」
簡単に事の経緯を聞いた邑輝がワインを用意しながら言葉をかける。
「・・・・初めから気付いていたのか?」
「遠くから見た時はさすがに分かりませんでしたよ。何故あの坊やがいるんだろうって。てっきり、都筑さんと別れろ、とか言いに来たのかと・・・・。」
くすっと笑う。
「でも、近づけばすぐ分かりましたよ。姿は確かにあの坊やですが・・・・気は貴方の気ですから。」
「じゃあなんであんな事を言ったんだ。俺、やっぱり分かってもらえない・・・・って悲しくなって・・・・」
邑輝が都筑の隣に座り込む。
「そのことは謝ります。ちょっと意地悪をしたくなって・・・・拗ねてたんですよ。」
「拗ねる?なんで・・・・」
邑輝はそっと頭に手を置いた。
「だって2週間ぶりですよ。その間クリスマスもあったのに、貴方は仕事で会ってくださらないし、連絡もよこさなかったでしょう。ちょっと意地悪をしたくなったんですよ。」
「邑輝」
その言葉本当に・・・・? 俺に会えなくて淋しかったって、おまえがそう感じたって信じていいの? 都筑は邑輝の目を見つめた。
と、邑輝がソファから立ち上がる。
「邑輝?」
「本当なら今ここですぐにでも押し倒す所なんですが・・・・そうもいかないでしょう。いくら人格が貴方でも身体は坊やのなんですから。」
昔ならともかく・・・・と心の中で言葉を繋ぐ。
「あ、そうだね・・・・・うん。」
あらためて自分の身体を都筑は見た。この身体で邑輝と何かする訳にはいかない。いくら自分が望んでもそれだけは出来ないことだった。
「ごめん・・・・」
早く薬が切れればいいのに・・・・慌てて地上へ出てきたから詳しいことは何も亘理から聞いていなくて・・・・。
都筑は唇を噛みしめる。
「今夜は泊まっていけますよね?」
「え?でも・・・・いいの?」
こんな身体だよ、と都筑は首を傾げた。
「何もしませんが、そっと抱きしめて寝るくらいは許されるでしょう?」
「そう・・・・かな?」
密が聞いたら凄く嫌がりそうな気がするけど・・・・ごめんね密・・・・胸の中で手を合わせる。
だって邑輝を感じていたいんだ俺・・・・都筑は邑輝に微笑んだ。
邑輝の腕枕で、そっと包まれるように眠りに落ちる幸せ・・・・都筑はそのぬくもりを抱きしめていた。



「今までの人生の中でこんなに辛い夜はなかったかもしれません。クリスマスの時の分もまとめて、しっかり返していただきますよ、覚悟してください。」
翌朝、息苦しさに目を覚ますと、既に邑輝が都筑の唇をふさいでいた。
すっかり元の身体に戻った都筑の腕を捉えながら、にっこり笑う邑輝に顔色を失う都筑。
気付くとすでに全裸で、おまけに両腕の自由はきかない状態で。
「あ、ちょっと待って・・・・あっ、ああ・・・・。」


その日、2人は部屋から出てこなかった・・・・・・。

2001・12・31
M・Hinase

★16000キリ番リクエストの作品です。
リククエストは「性格の入れ替わり」でした。誰と誰が入れ替わるかはお任せだったので、都筑と密になってもらい都筑が邑輝とデートを・・・・ということにしました、いかがでしょうか?
性格の入れ替わり・・・・翌朝運良く都筑に戻ったのは作者の都合です(^_^;)。
密に戻るのが自然ですけどね・・・・。そこは目を瞑ってねv
だってそれじゃあ、修羅場ですよね、きっと・・・・(爆)。