星空の下で・・・

巽は少し前を歩く都筑の背中を見つめた。

そして溜息をつく。

見慣れた姿なのに、こうやって都筑を後ろから見ることがあまり無かったことに今更ながら気づいた・・・・。



珍しく残業がなく早く帰ろうとした矢先に呼び止められ

『行きたい所があるんだけど・・・』

と誘われた。

何処に・・・と問う巽に、ふわっと笑って

『内緒』

と言われて。


都筑の突飛な行動には巽は慣れている。

今に始まったことではない。

最近は仕事にかまけてあまりプライベートで話していなかったことを思い

素直にその言葉に従うことにした。

巽の運転で1時間あまり・・・ようやく冬が終わりを告げようとする時期、日暮れは思ったよりも早くやってきた。

そんな中ふたりは小高い丘にたどり着く。

途中車の中で話すのは都筑ばかり。巽はそれに相づちをうつのみ。

話したくなかった訳ではない・・・・・話す間がなかったのだ。

次から次からとりとめのない世間話をする都筑。

その様子に巽は少しだけ過去のことを重ねて、そして先週まで行っていた都筑の仕事のことを考えた。




「ふー、やっと着いた!」

車を降りて20分、ようやく視界の開ける場所に出てきた。

歩き始めてからは、あれだけ話していた都筑が黙り込んで・・・・・。


「う〜ん、今日は星の出方がいまいちかなー。」

都筑が空を仰ぎ見る。

巽も視線を空へと移した。都筑はそう言うが、都会に比べればそれでもかなりの数の星があった。

遠くに見える街の灯りと山とそして冬空の星空が一体になって見える。

「・・・・・・よく来るんですか?」

首を上に上げたままで巽が問う。

「そうでもないよ。月に1回ぐらい?」

それが多いのか少ないのかは分からない。

「そうですか・・・。」

そして会話が途切れた。




『何があったのか』

とか

『何を考えている』

とか

聞くことが出来ればどんなに楽だろう。

心の中で次から次へとわき出てくる言葉を押さえ込む。


いつも笑顔でいて欲しい

いつも幸せで・・・と願うだけの自分は、ずるいのかも知れない。

その幸せを与えない・・・・与えてやれないと思うだけで何もしない自分は・・・。

巽は星を見つめたまま唇を噛んだ。

自分がいかに非力なのか・・・・そのことが悔しかった。



「巽・・・・」

呟くように呼ばれて巽は、はっと我に返る。

目を戻すと、微笑んだ都筑が巽を見つめていた。

「都筑さん・・・・私は」

未だ踏み込めない・・・・

踏み込む勇気を持てないままに側にいることがいいのか悪いのか、誰かに判断して欲しい。

いっそのこと離れてしまえれば・・・・でも、それが出来るぐらいなら・・・・。

どう言えば伝えられるのか・・・・そのことが頭の中を空回りする。


「巽、ありがとう。」

「え?」

思いもかけない言葉に頭が真っ白になった。

「今日付き合ってくれて・・・・ありがとう。」

「・・・・・・・」

巽は何と答えればいいのか分からない。

「あの・・・」

「ここは一人で来ると落ち込んじゃうんだよね。この前は酷くって・・・・しばらく眠れなくって・・・・。でも綺麗だからまた来ちゃうんだ・・・。街の灯りも星も綺麗だろう? いつまでも見ていたいなあって。」

けどね・・・都筑は言葉を続ける。

「圧倒されちゃうんだよね・・・・空に。悩んでいることとか考えていることが小さいぞ!って。 よく空や海に元気をもらうとかいうけど、あれも時と場合だね。それに一人で見るよりやっぱり誰かがいてくれる方がいいな。」

「都筑さん・・・・」

「ごめん・・・・何も言わないで付き合わせて。」

「いえ・・・・」

もっと何か言葉が出ればいいのに・・・・。




「・・・さて、戻ろうか。やっぱり寒いや。」

そう言って歩き出した都筑は、数歩歩いて・・・・ふと振り返った。

・・・・巽が立ちつくしたままでいる。

「巽?・・・どうし」

「いいんですか?」

言葉を遮ぎって巽が問う。

「なにが・・・?」

「私でいいんですか・・・・ここにいるのが・・・・・」

絞り出すように発せられたセリフに都筑が目を見開いた。

「巽・・・?」



俯いて肩を震わせているその姿はいつもの・・・・いつもの姿とは遠くかけ離れたものだった。

都筑はしばらくそんな巽を見つめて・・・・・そして近づいた。


「・・・・・俺、またおまえを苦しめた?」

俺も苦しんだけど・・・・都筑は巽を見つめる。

でもきっと・・・・きっと・・・・巽も傷ついてきたんだ。

今までも気づかないところで、見えないところで。


「いつまでも・・・・・巽に甘えてばかりだね。」

ごめんね・・・・そう心の中で呟く。

声に出すと泣いてしまいそうだったから。



都筑が巽の前に立つ。声に出して謝れないけれど・・・・。

何を言えばいいのか分からないままに、声をかけようと顔を覗き込んだその瞬間、思いっきり抱きしめられた。

「ちょっ・・・巽・・・・」

「・・・・・・」

無言のまま巽は都筑の身体を抱き寄せる。

辛そうに震える身体は冷たくて・・・・・・。


少しだけ

少しだけ迷って都筑は巽の背中に手を廻した。

肩に頬をよせる。

そうすれば・・・・巽の声にならない言葉が聞こえてくるような気がして・・・・・都筑は目を閉じた。






             今更・・・・昔に戻りたいとは思わない。

             あの時感じた幸せはすぐに壊れたから・・・。

             でもまた共に歩めるのかという自信も今はない。

             ただ誰よりも心が安まるという事だけ・・・・・

             それが何を示しているのか考える事は怖くて・・・・・
  
             でももう逃げていてはいけない・・・・・・そう思った




             思いあまって抱きしめた身体は温かくて

             昔・・・そう、昔・・・・・同じように抱きしめて失ったもの

             もう一度手に入れてもいいのだろうか
   
             もう一度だけ・・・・

             「愛している」

             その言葉が言えなくて苦しんだあの頃とは自分も少し変わったと信じたい・・・






都筑は目を開ける。

そして巽も都筑を抱きしめたまま目を開けた。

互いの身体越しに見える空の星が瞬く。

言葉を繋がなくても、きっと今同じ想いでこの空を見ている・・・・・2人は星を眺めた。



「都筑さん・・・・」

「巽・・・・」

そっと身体を離して、そして目を合わせる。

そして微笑んだ。

それだけが全てだ・・・・・。



「愛してる」

小さく呟いた声はどちらの声だったのか。

けれどその言葉は確かに2人の耳に、胸に響いていた。



今度は涙を流さないように・・・・

もう二度とそのぬくもりを失わないように・・・・・

2003・3・1
M・Hinase

★素敵なイラストを描いてくださった御礼で書かせて貰いました。「闇末で書きやすい物を・・・」というリクエストだったので・・・・巽都で少し切なげなのを。
まだこれから少しずつ歩み寄っていく2人だと思っていただけるとv
感謝を込めてお贈りします。