「Sweet time」



「うわっ・・・」
駅前の時計を見上げて小さく呟く。
夕方の6時半。
約束の7時までまだ30分以上ある。
「ちょっと早すぎだよね・・・・。」
いつもは時間にルーズなのに・・・・時計を見上げたまま苦笑する。
もしかしたら相手は少し遅れるかも知れない、だって休日出勤しちゃう程の仕事人間。
うまく仕事が終わらなかったら遅れることもあるだろう。
・・・・でも今日は自分が待ちたかった・・・・何時間でも・・・・今日は。
そのまま視線を動かして、空を見上げる。
あいにくと星の見えない空・・・少し風も冷たかったけど気にはならない。



くるっと周囲を見回すと、みんな人待ち顔で立っていて、
中にはなかなか待ち人が来ないのか時計を何回も見ている人もいる。
何となくその風景に微笑んでしまう。
幸せの色っていうのがどういうのかは分からないけれど、待ち合わせている時ってそんな色に一人一人が包まれていそうで嬉しい。
それは自分勝手な考え方かも知れないけれど・・・・今、自分がとても幸せだからそう感じるのかも知れないけれど。




待ち合わせなんて、こんな風に人を待つことなんて何年ぶりだろう・・・・。
街のネオンがきらきらする中、行き交う人々を見ながら考える。
もう一度こんな思いが出来るなんて・・・・。
朝、目が覚めた時からもうそわそわして・・・・全てが上の空。
テレビを見ても雑誌を見ても、全然頭に入らなくて・・・・だからもう家を出た。
早く会いたくて、早くこの場所に来たくて・・・・。


昔・・・・遠い昔、自分で全てを断ち切ったつもりでいた。
待つことも待たれることも、全て含めて。
でも、やっぱり・・・・・願ってしまった自分。
幸せになりたい、幸せにしたい、その想いだけで生きてきた。
でもそればかりが先走って、いつも何処か空っぽで・・・・段々・・・段々何も感じないものになっていって。

そんな時・・・出会った。
真っ直ぐに自分を見つめてくれた人。
・・・出会った瞬間、空っぽだった心に色が付いた。
勿論楽しいことばかりではなかった。
出会ったことで泣いて苦しんで・・・・。
色んな苦しみも教えられたけど、それでも出会わなかったら・・・とは考えたくない程に愛しい人。
あの辛い別れの言葉の後もずっと、そっと見守ってくれて・・・・ようやくようやく近づけた。
長い年月を経て縮めた距離・・・・・。

これからが新しい始まり。
きっとまた涙を流すこともあるはず・・・・きっと。
でもふたりとも同じ事は繰り返さない・・・・何故って問われたら困るけど・・・・でもそう信じられる。
それは小さな自信、時というものが生み出したもの。






「都筑さん!」
名前を呼ばれ、都筑はその方向に顔を向けた。
はあ、はあ・・・と息を弾ませた巽に都筑は目を丸くする。
「どうしたの? そんなに・・・・まだ15分前だよ。」
「はあ、それは・・・こっちの言い分です・・・よ。」
はあ〜っと巽は深呼吸をする。
「余裕で出てきたはずなのに、もう来ているのが見えたものですから・・・・。」
「・・・で駆けて来たの?」
「ええ、あなたみたいな黒づくめ、そういないですからね、すぐ分かりましたよ。」
まだ整わない息で、いつも口ぶりの巽に都筑はにっこりする。
「いつからいたんですか?」
とても優しく自分を見る都筑にどきっとしながらも、巽が尋ねる。
「う〜ん・・・・6時半ぐらい?」
「え? そんなに・・・・ちょっと・・・」
「わっ、たつ・・・」
すっと都筑の頬に手を伸ばす巽に、つい声をあげてしまった。
巽の暖かい体温が頬に当たった。
「冷たいですね・・・・どうして風の当たらない所にでもいなかったんですか。」
柱に寄りかかる都筑の正面に立って、頬に手をあてている巽は溜息と共に嘆く。
「風邪引いたらどうするんです?」
「・・・・大丈夫だよ。」
周囲の視線を感じながらも、都筑は真っ直ぐに見つめてくる巽の瞳から目が離せなかった。自分だけしか映っていないその瞳がとても嬉しい。
「それにこんな薄着で・・・・もう陽が落ちたら冬みたいなもんですよ、セーターとか持ってるでしょう?」
「まだ服入れ替えてないんだよ。」
えへへ・・・と笑う都筑。
「まったく・・・・でも珍しいですね・・・・本当にどうしたんですか?」
「え?」
「こんなに早く・・・何かあったんじゃ。」
「ううん、何も・・・・なんで?」
「いえ・・・・いつも遅刻魔ですから・・・。」
その言葉に、えーっと口を尖らせる都筑を見て巽は苦笑した。



どうせまたぎりぎりに来るのだろう・・・そう思いながら巽はやってきた。
でもこうやってプライベートで待ち合わせるのは初めてで・・・・長く待つのかも知れない・・・・そう思っても気ばかりが先走って早めに庁を出てきた。
少しだけ早足でやって来た駅前。
多くの人が集うその場所で、いつもの姿を見つけた。
こんなに早く来ている都筑にも驚いたがそれよりも気になったのはその横顔。
何かを思い、考え込んでいるような表情で柱に寄りかかる都筑を見つけて、不安で柄にもなくつい駆けだしてしまった。
でも振り返った都筑は思いがけない優しい顔で・・・・・。



「本当に・・・・大丈夫ですか?」
「ん? うん、俺2月生れでしょう、寒さには強いんだ!」
巽は尋ねたことと微妙に違う事を返されて、言葉に詰まる。
でも目をくりくりさせて話すその表情に、ほっと安堵の息を吐く。
「・・・・ならいいんですけど。でも早く暖かい所入りましょうか。」
「何処行くの?」
「和食のお店、予約してあります。」
「え、ホント! あ、でも・・・・俺あまり高い所は・・・・。」
「今日は私の奢りですから。」
「・・・・良いの?」
首を傾げてくる都筑に巽は笑う。
「誘ったのは私でしょう?」
「でも・・・・」
「今日は気にしないでください。私がしたいのですから・・・・。」
「うん、分かった。ありがとう。」
目があって微笑みあう。
「じゃあ・・・・行こうか。」
「はい。」
巽が少しだけ先に行くようにして歩き出し、都筑もそれに続いた。




腕を組む恋人達。
愛しい人の肩に手を抱いて歩く恋人達。
様々なカップルとすれ違う。
何となくそれらを目で追ってしまう。
・・・・ふわっと巽のコートの袖が都筑のと触れあった。
ふと顔を見上げると、巽が少しだけ笑ったような、照れたように前を見つめる表情をしている。

・・・それって・・・

都筑は俯いた。

・・・いいのかな・・・

そして・・・・・そっと指を巽の指に絡める。
すると、待っていたかのように力強く指先を握りしめられた。
そこから伝わる暖かさが身体全体を包むようで・・・・・。
「巽・・・・あったかいね・・・・」
「・・・・あなたが冷たすぎるんですよ。」
そう言い返されたけど、でも嬉くて顔がゆるんでしまう。

きっと

きっと

今の自分達は他のどの恋人達よりも幸せだと信じられる。

・・・・ありがとう・・・・

都筑は言葉に出来ない思いを心の中で呟いた。
この言葉が触れ合った指先を通して巽に伝わることを願いながら。

2002・11・5
M・Hinase

★50000企画のリクエスト作品(個人)です。
リクエストは幾つかテーマをいただいて・・・その中からどれか・・・ということでいただいたのですが、どれにでも当てはまるような話を書いちゃいました; 良かったでしょうか。 とにかく幸せな巽都ということで・・・・。
実はもっともっと楽しいデート(おふざけありの)にしようと思ったのですが・・・・少しだけ『切なさ』ふりかけてみました・・・・でも甘いはずですv(当サイト比・・・笑)
朝からそわそわして落ち着かなかった都筑さん、デートが気になって仕事にならなかった巽・・・・想像してみるとまた萌えかもv

これを読んで幸せを感じてくれると嬉しいです(*^_^*)。