言えない言葉
| 「・・・あっ・・・・たつ・・・・」 ぎゅっと両腕を巽の首に巻き付ける。 抱きかかえられた身体は休みなく揺らされていた。 「やっ、すご・・・・」 息が苦しくて、言葉が出せない。 「都筑さん・・・・」 耳元に囁かれるとそれだけで、余計感じてしまう。 「あ・・・・やっ」 都筑は閉じた瞳の中で、今日何度目かの光を見た気がした・・・。 週末。 約束をしていなくても・・・巽の家で食事をし、酒を飲みながら世間話をする。 それは世の中の出来事だったり、召喚課の仲間の話だったり、亘理の発明品の事とか・・・・それはもうここ何年繰り返されたふたりの習慣だった。 この日もいつものように都筑が仕事帰りに巽の家に寄り、都筑のために作った食事に舌鼓をうち、食後のワインで話をしていた。 いつもの事。 しかし今日は違っていた・・・・・。 そんなに量は、いっていないはずなのに、疲れていたのか早々に都筑はうつらうつらとし始め、途中課長からの電話を受けに立った巽がリビングに戻ってきた頃には、もう都筑は夢の中だった。 どんなに遅くなっても泊めることはしたくなかった巽は頬を軽く叩いたり、身体を揺すったりしたのだが、まったく反応がない。 その昔、同じように起こすのに苦労したことが巽の脳裏に浮かんだ。 あの時も酒を飲んでいたように思う。 巽は苦笑した。まるで昔が戻ったようだ・・・・・。 お互いがお互いのためにあると信じられたあの夢のような日々。 もう2度とあの頃のふたりには戻れはしないのに。 結局客室を用意し、眠り込んだ都筑を抱え上げ、ベッドに運び薄い布団を掛ける。こっちの苦労も知らずに、天使のように眠っている顔を巽はしばし見つめた。薄く開いた唇から目が離せない。 そっと指でそこに触れる・・・・温かい息が愛しい。 もう何十年も同じ想いを抱き続けている・・・・。 出来ることなら、この手の中に包み込んでけして何処にも飛び立たせはしないのに。 部屋に戻り身体を横にした巽は暗い天井を見つめる。 眼鏡を外した目には全てがぼんやりと映る。 今夜は月も雲に隠れて部屋を照らす事はなかった。 同じ屋根の下に都筑がいる。 静かな寝息をたてて・・・・。 先程触れた指先が熱い。 無意識にその指先を唇にあてている自分に気づいて苦笑する。 もう・・・・とっくの昔に諦めた想い。 生前からの性分が招いた過去。 そして別れ・・・・・。 先が見えない関係に 涙を見せ続けるだけの彼に耐えられなくなって・・・・捨てた。 あの時の判断は今でも間違ってはいないと思う。 でも愛しい人を苦しめたことは確かで、そしてまた巽は自分をも責める結果に追いつめられた。 やっと・・・・やっと・・・・・だ。 あの人に笑えるようになったのは。 あの人の側に自分ではない誰かがいてくれる、その事実が巽を解放してくれた。 そう思っていたのに・・・・・・やはり捨てきれない心の奥にともる灯火。 何度も消そうとしたのに息づく想い。 ・・・・もう・・・・・戻れやしないのに・・・・・ 自分にそう言い聞かせながら巽は目を閉じた。 どれくらい経った頃だろうふと意識が戻る。 静かに揺れるベッドに巽は目を見開く。 背中側に感じる気配に巽は横を向いたまま振り返れなかった。 「たつみ・・・・」 小さく囁かれる声に身体が固まる。しばらくしてもう一度名を呼ばれる。 何のために彼が此処に来たのか、 何をしようとしているのか・・・・それは分かる。 しかし、何故そうなのか。 あんな辛い過去を自分だけではなく、都筑だって乗り越えたのではなかったのか・・・・、何故、何故、何故・・・・。 この年月は何だったのか・・・。 「もう、起きてるよね?」 「・・・・・」 「何でこっち向いてくれないの?」 「・・・・・・早く出て行きなさい。」 「嫌だって・・・・言ったら?」 「・・・・・・」 「我慢できるの?巽。」 巽は目を閉じる。相手にしてはだめだ・・・・・もう繰り返したくはない、あんな想いもしたくないし、させたくもない。 あの頃と何ら変わりのない自分に何が出来るというのだろう。 カサッとシーツが動く。 と、同時に巽の下半身に都筑が手を触れた。 「ねえ、巽・・・・・しよ? ね?」 そう言いながら都筑は動きを止めない。 「つ、都筑さん、やめなさい!」 振り向かないままで巽が諫める。 自分でも意外なぐらい呼吸が乱れているのが分かった。 「やだ・・・・・巽がこっち向いてくれるまで止めない。」 ますます動きを早くする都筑の手を上から押さえ込むが、効果はない。 「や、やめなさい・・・・・・と言ってるでしょう!」 高ぶる熱に耐えられなくなってしまう。 「あっ・・・・やめっ」 息が苦しい。 こんな場面に感じているのか、もう限界が近い。 ・・・・・・・・巽はようやく振り向いた。 「やっと振り向いた・・・」 巽が身体の向きを変えるとあっけないくらい都筑は手を離す。 代わりに悪戯っぽい色を浮かべた瞳が巽を射る。 深い紫の色に何もかも吸い込まれそうで、巽は用意していた言葉を吸い込まれた。 「たつみ・・・・」 都筑が巽の頬に手を添える。 「しようよ・・・・」 そう言うと、無言のまま見つめてくる瞳を見ながら、唇を寄せて来た。 「はっ・・・・」 お互いの息づかいだけが暗い部屋響く。 巽は口づけを求めてくる都筑の好きなようにさせ、そして身体をその間に組み敷いた。 「・・・・・・どういうつもりですか?」 都筑は笑う。 「別に・・・・・ただこうしたかっただけだよ。」 「あなたは・・・・」 「何?」 「・・・・・・」 さっきまで幼い表情は既に消え、そこには男を誘う娼婦のような都筑がいた。 「・・・・・・抱けよ、巽。」 「都筑さん。」 「俺の身体・・・・・懐かしくない?」 「・・・・懐かしいですね、確かに。」 「でしょう? ならいいじゃん。」 都筑が両腕を巽の首にかけて抱き寄せる・・・・・。 巽は少し微笑んだ。 都筑も微笑む。 過去の続きを見てみるのも・・・・・・悪くないかもしれない。 そうでも思わなければ、自分があまりにもみじめだ。 そして今おさまらない熱を冷ます方法も他には知らない。 巽は都筑の首筋に唇を近づけた・・・・・。 「好き! 好き! 好き・・・・」 身体を揺らされながら、叫ぶ都筑が口づけを求めてくる。 それに応えてやりながら、巽は無言でその身体を貫いた。 「都筑さん・・・」 時折囁くその言葉以外、何も与えることなく・・・・。 もう与える役目は自分ではないのだから。 言えない 言ってはならない どんなに求められても そして求めても・・・・・・。 それだけは言葉にすることは許されないのだから。 夜は更けていった。 |
2002・9・27
M・Hinase
| ★ずいぶん前にお約束したrin様への捧げ物です。 お誕生日のお祝いに・・・と思っていたのですが、もう季節も変わっていまいました; 本当にすみません(>_<)。 暗い内容をご希望だったので、こういう形の巽都にしてみました。 いかがでしょうか? 本当に遅くなり申し訳ないです。 もう忘れておられるかもしれません; 久しぶりにこういうSSを書きました。 おめでとうございます、rin様♪ |