always
ぽかぽかと暖かい日射し。 誰もいない召還課の部屋はとっても静かで・・・・・。 窓越しのやわらかいぬくもりはどんなに逆らっても自然と瞼を押し下げる。 一行も書いていない目の前の白い紙も、ぼやけてきた。 頭の中はさっきから『眠い』という言葉だけが繰り返している。 「あ〜だめだ!」 都筑は持っていたペンを放り投げ、開いていた本を閉じるとその上に俯せた。 転がったペンが床に落ちる音がしたけれど、気にしない。 「まったく何でこんな目にあうんだよ!」 お昼近く・・・・お腹も空いてきた。 誰もいない部屋で一人文句を言って目を瞑った、伸ばした指がメモに触れる。 「・・・・ば〜か・・・・」 小さく小さく呟いて、それをギュッと握った。 今日は日曜日。本当ならまだ布団の中で夢の中・・・・のはずだった。 でも朝一番の巽の電話でたたき起こされ、急な呼び出し。 突然のことに文句を言いながらも朝ご飯もそこそこに来てみれば、自分の机の上に書類と筆記用具、そしてご丁寧に資料が山積みされていて・・・・。 どうやら昨日帰る時に巽がセッティングしたものらしい事が分かった。 ・・・・用事って、これ?・・・・ 机の上の書類を手に取り眺める。 そしてふと横に添えられている紙に気付く。 『今日中にこれらの書類を仕上げること。 巽』 それだけ、他には何もなし。 都筑はたった一言書かれたメモ用紙を指で弾いた。 急ぎの大切な用があるから来てください、そう言われてやってきた。 こんな休日にわざわざ電話して来るから、何があったのかと思えばこの有様。 「何考えてんだ、あいつ!」 数えるのも嫌な程の書類と無愛想な走り書き。 てっきり顔が見られるのかと思って来てみたのに・・・・。 「・・・・馬鹿・・・・」 そう言って都筑は椅子に座り込んだ。 カチャ。 ドアを開けて入った瞬間見えたのは、机の上の黒い塊。 ・・・・やっぱりね・・・・ 予想は出来たが、実際の姿を見ると溜息が出る。 と同時にそれがいつもと変わらない姿であることに、どこかで安堵している自分もいて巽は苦笑した。 ・・・・ま、逃亡してないだけましですか・・・・ 机に近づくと寝息が聞こえる。楽しい夢でも見ているのか、少しだけ口元に笑みがあることに気付く。 こういう顔を見ているのが好きな自分がいることなどきっと都筑は知らないだろう。 いつまでも見ていて飽きないその表情がどれだけ自分に幸せを与えてくれているのか・・・なんて。 しかしだからといって、いつまでもこうしているわけにもいかない。 巽は軽く咳払いをして表情を改める。 そして机の上のファイルを手に取ると都筑の頭の上にかざした。 「えっ!?」 頭に受けた突然の痛みに都筑は顔を上げる。 目の前には散乱した書類。 「な、なに?」 目覚めきってない頭でそれをかき集めながら、頭をさすった。 「居眠りとはいい根性です、都筑さん。」 低く良く通る声が聞こえた。 途端、動きが止まる。 おそるおそる顔を上げるとそこには意地悪そうに笑う巽の顔があった。 「たつみ・・・・」 「良い夢は見られましたか?」 「な、なんだよ!・・・あー、おまえこれで今殴ったな!」 くしゃくしゃに集めた書類の束をぐっと巽の目の前に突き出す。 「おや、起こして差し上げたんですが・・・・気に入りませんでしたか?」 「おまえねえ、今日は何曜日だ!日曜日だぞ、日曜日!急に呼び出しやがって・・・・何かと思って急いで来てみれば、おまえはいなくてさ!」 「・・・・いい加減な用事で呼んだわけではないはずですが? それにそれだけ仕事が滞っているのは誰のせいだと思っているんですか? まさか私のせいだとは思っていないですよね?」 「そうじゃないけど・・・・お、俺は〜日曜日ぐらい休ませろって言ってるの!」 「へえ?」 「へえ?じゃないよ!普段の激務で疲れた身体を休ませる大切な日を・・・イテテテ」 喋り続ける都筑の頬を巽がつまみ上げた。 「は?今何とおっしゃいました? 激務?誰が?まさかと思いますがあなたがですか、都筑さん!」 「痛い・・・・痛いってば、たちゅみはなひて・・・・」 「言わせておけば何、勝手な事ばかり言ってるんですか。ええ?」 巽は指の力を少しだけ強めた。 「たちゅみ〜痛い!」 「反省してます?」 「・・・・ふぁい・・・・・」 痛さで涙目になっている都筑はコクコクと頷いた。 それを見て巽はやっと手を外す。 「まったく・・・・全然進んでないようだし・・・・困ったもんですね。」 ふう〜っと大きな溜息をつく。 つまみ上げられた頬を両手でさすりながら、 「ごめん・・・・」 「ま、こんな事だろうと思っていましたけど・・・・。」 大げさにがっかりしたように息を吐くと、しゅんと項垂れる姿になる。 その様子に微笑んでしまいたいのを必死で堪えて、壁の時計を見る。 もうすぐ正午だ。 巽は近くの机に置いたままの包みを手に取った。 「はい、どうぞ。」 目の前に出された風呂敷の包みに視界が覆われる。 「え?」 「お腹空いているんでしょう? どうせアンタのことだからろくに朝も食べてないのだろうし・・・・。」 「もしかして・・・お弁当?」 「他に何に見えると言うんですか?」 包みからかすかに匂ういい香りは都筑の顔を崩すには充分だった。 「いいの?これ・・・・」 「かまいませんよ、気にせずどうぞ。」 そっと巽から包みを受け取る。 まだほんのりと温かいのは、出来たてであることを示していた。 「・・・・ありがとう。」 他に言う言葉が思いつかずに都筑が言う。 言葉はきついけど、手間のかかる事を自分のためにしてきてくれた、そのことが嬉しくて・・・・。 「・・・・・いえ、別に・・・・。」 包みを抱きしめて見上げてくる都筑を直視できずに巽が目を逸らす。 都筑に電話して大急ぎで作ったもの。 彼の好物を詰めて、春らしくさくら飯にもして・・・・。 「・・・・中庭に行こうっか。」 少しの沈黙の後、都筑が声をかけた。 その声に巽は窓の外から都筑の顔へとゆっくり視線を戻す。 「一緒に食べようよ。」 2重になっているであろう、そのお弁当を抱えなおす。 「ね、巽、そうしよう!」 少しだけはにかんだ顔で言われたら、誰が断れるだろう。 巽はくすっと笑った。 「・・・・そうですね、午後からも頑張ると約束してくれるなら・・・。」 素直ではないな・・・・自分でもそう思う。 「うっ、うん、頑張るよ。でも・・・・また寝ちゃうかも。」 「それは大丈夫です。午後からは課長室で付きっきりでやっていただきますから。」 「えー?!」 「おや、ご不満でも?」 「・・・・いえ、何にもありません。」 「では行きましょう、お昼休みはきっかり1時間ですからね!」 「わ、分かったよ!」 口を尖らせながらも、何処か嬉しそうに都筑は立ち上がる。 その時机の上の小さなメモを都筑が素早く上着のポケットに入れるのを巽は見た。 それだけで、そんな小さな事が幸せな風を運んでくれるように感じる。 「早く!巽!」 お弁当を抱えて自分を呼ぶ声に応える。 いつも側にいたい・・・・願うのはただそれだけ。 少しずつ近づいていけたら、今はそれで充分だ。 巽は早足で都筑の後を追った。 |
2002・3・22
M・Hinase
| ★リクエストSSです。 キリ番代理申告で2枚もイラストを描いてもらったのでほんのお礼の意味を込めて・・・・v 巽都ならば内容はお任せと言うことでしたので、こんな風にしてみました。ほんのり甘い感じでしょうか。 いつもながら力不足で申し訳ありません。 でも「ありがとう」の気持ちは込めまくっております〜vv お昼休みの後は課長室で二人っきりですわ(*^_^*)。 |