| Call me 「あなたは本当に『人間』なのですか?」 その言葉を聞いた途端、都筑は突然身体が浮くような感覚に襲われた。 支えるモノのない空間に思わず、目を閉じる。 ・・・聞いちゃいけない・・・・こいつの言うことなんか聞いちゃいけない・・・ そう言い聞かせる。 しかし思えば思うほど邑輝の声が身体の隅々まで行き渡る。 「本当に『人間』なのですか?」 同じ言葉が繰り返し繰り返し体の中に響いてくる・・・・ 「言うな!言うな!言うなっ!」耳を押さえて叫んだ。 それは昔、都筑が自分自身に幾度も、幾度も問うたモノ。 「『人間』なのか・・・・?本当に人間なのか?・・・・俺は一体誰なんだ・・・・・」 頬に当たる冷たい床の感触に意識が戻る。 「・・・っ」手をついて起きあがった都筑の目に映ったものは何もなかった。 いくら目を凝らしても暗闇が広がるばかり。 手元を見る・・・しかし自分の身体さえ見えない。 「ここは一体・・・?」都筑はゆっくりと立ち上がった。 「ようこそ、私の空間へ。」 背後からの声に慌てて振り返るとそこには白く浮かび上がった邑輝が立っていた。 「む、邑輝! どういうことだっ! これは一体!」 「ちょっとした場所へ、あなたをご招待したまでです。」 「招待だと? こんな所へ連れてきやがって!!」 「無理矢理ではありませんよ。同意の上です。」 表情一つ変えずに少しずつ都筑の方へとやってくる。 それに押されるように都筑は一歩、また一歩と後ずさりする。 「な、何が同意の上だ! それに薪能はどうした?俺達はあそこにいたはずじゃあ・・・・。」 と、その時遠くからかすかに能のお囃子が聞こえてきた。これは先ほどまで聞いていた 『紅葉狩』・・・演者がダンダンッと、足を踏みならす音も聞こえる。 都筑は辺りを見回した。しかし見えるのは闇のみ・・・そう目の前の白い男以外は。 「何なんだ・・・」もう訳が分からない。 「あなたと私は、薪能を見ていますよ。あなたが心配でついてきた坊やも二人が座っているのを見ているはずです。ただの器をね・・・。」 「うつわ・・・?」 「そう器です。心がないですから・・・なぜならあなたの心は今ここに、私の作りだした空間にいますからね。」 そういうと邑輝はスッと手を伸ばし都筑の腰を捉えた。 短い問答のうちにこんなに近くまで来ていたことに驚き、腕から逃れようと 都筑は身をよじった。 「離せよ!」 「離しませんよ。あなたとこうやってせっかく二人きりになれたのですから。」 ぐっと身体を引き寄せられる。 自分を見つめる銀の目が細められるのを間近で見た時、初めて都筑は彼が怖いと感じた。 目を逸らしたいのに逸らせない。 邑輝の顔が近づいてくることに思わず都筑は目をぎゅっと閉じた。 すると邑輝は都筑の額に口づけをおとした。 「え?」 てっきりキスをされるのかと思った都筑は少々拍子抜けの状態で目を開ける。 「かわいいですね、あなたは。」 からかうような邑輝の言葉に都筑は顔が火照るのを感じた。 「そうやって坊やもあの秘書殿も・・・あなたの虜にしてきたのですね?」 「なっ」 でも・・・・と邑輝は言葉をつなぐ。 「あの人達にはあなたを受けとめることは出来ませんよ。あなたを真に理解し、解き放つのは、この私ですから。」 「邑輝・・・」何を言ってるんだこいつは・・・・。 薄く笑った顔を見つめながら都筑はだんだん身体の力が抜けていきそうな感覚に襲われる。 「人間ではないあなたを誰が理解などするものですか・・・・そうでしょう?」 またあの感覚が戻ってくる、上も下も分からなくなってくる感覚。 「や、やめろっ!」耳をふさぎたいのに邑輝に阻まれて出来ない。 「ね、あなたも分かっているはずですよ、自分は誰にも受けとめられないと、理解してはもらえないと、 ・・・そうですよね?都筑さん・・・」 耳元で囁く声が都筑の力を奪っていく。 「や、やめてくれ・・・っ」 これ以上何も言わないで欲しい。もう手足に力が入らない。 「でもあなたは求めている。自分の居場所を常に・・・。それは何処でしょうねえ。」 抱え込まれた身体を持ち上げられる。 身体を揺すり抵抗をしてみるが、そんなものは何も役に立つはずもない。 都筑はゆっくりと床に横たえられる。 邑輝は都筑の顔の両側に手をつくと紫の瞳をのぞき込む。 口元に笑みを浮かべながら片手で都筑のシャツの釦をはずしていく。 「・・・っ!」 胸に冷たい指を感じた時、都筑は反射的に邑輝の腕を押さえていた。 「やめろって言ってるだろっ! こんなことして何が楽しい、俺の居場所は・・・!?」 突然ふさがれた口の中であとの言葉は発することが出来なかった。 どのくらいの時間、キスをされていたのか、 角度を変え何度も何度も吸われた・・・・その度に都筑の心の中に暗いものが広がっていく。 「あなたの居場所は、私の側だけです。他の誰の側でもありません。」 漸く都筑を解放した邑輝は囁いた。 「私とあなたは同じモノ、同じ運命を歩むモノ、それから逃れることは出来ないのですよ。」 動かぬ体で都筑は邑輝をにらみつけてくる。 「いい目です、綺麗だ・・・その目が出来るうちはまだあなたをお呼びすることは出来ませんね。 ・・・いいでしょう、今は帰してあげましょう。すぐに迎えにまいりますから。」 そして邑輝は再び都筑の唇へと顔を近づけていく。 邑輝の体温を感じながら、都筑の意識は暗闇へと再び沈んでいった・・・。 紫園大学の廊下を邑輝は歩いていた。 心を帰した都筑は今頃断片的な記憶に苛まれていることだろう。 もうすぐ、もうすぐですよ、都筑さん。 あなたが私の所へ戻るのも。 大丈夫、ちゃんと用意はしています。 あなたが望むモノをあなたに・・・そして私の望むモノをあなたから・・・ ですからほんの少しだけ待っていてくださいね。 あなたの心を壊すのは、私だけです。 邑輝は研究室の前で止まった。 「さあ、始まりますよ、都筑さん・・・」 ・・・私を呼んでください・・・・ |
2001・8・23
M・Hinase
| ★「京都編のようなシリアス系」のリクエストに、まんま京都編を使ってしまった、とんでもない奴です。 お待たせした上にこんなんですいません・・・・m(_ _)m。 薪能のシーンはドクターの追いつめ方が印象的だったのでちょっと脚色してみました。 お気に召すかどうか・・・・(汗)。 |