やすらぎを君に・・・





召還課の部屋に足を踏み入れた巽は

机の上に突っ伏した黒い塊を見て眉をひそめた。

・・・またあの人は!・・・・

今日は忙しくて、朝から気に留めることが出来なかった。

・・・ちょっと目を離すと、これなんですから!・・・

休み明けの月曜日から、こんな状態では今週も先が思いやられる。

巽はその黒い塊に向かってツカツカと歩み寄った。



すうっと息を吸い怒鳴りつけようとしたその瞬間、ガシッと腕を掴まれた。

えっ?と振り向いた巽の目に密が映る。

「待ってください!巽さん。」

「黒崎君?」

「すみません・・・・そのままそいつを・・・・眠らせてあげてください。」

申し訳なさそうに言う割には、NOとは言わせない様な気迫が密にはあった。

いつもなら率先して寝ている頭を叩いてでも都筑を起こす密が

そこまで言うには何か訳があるのだろう。

巽は都筑から少しから離れた所で密の話を聞くことにした。

「すみません・・・・巽さん。」

「いえ、それはかまいませんが・・・・どうしたんです?」

密はこの週末の事を巽に話した。



金曜日、うっかり窓を開けたまま寝付いた密は見事に翌朝から高熱を出してしまった。

そこへ朝ご飯を一緒に・・・とやってきた都筑が看病をしてくれた。

密の熱は丸2日間続き、その間都筑は一睡もせず付きっきりで密の熱を下げるよう努力

してくれて・・・・。そのおかげでようやく密は昨日の晩に熱が下がったのだった。


「そうだったんですか・・・・それで君は大丈夫なのですか?」

一通り事情を聞いた巽は密の身体を気遣う。

「はい・・・熱が下がった後も・・・・あいつが・・・都筑が様子を見ていてくれたから・・・。」

「わかりました・・・・今回は特別ですよ。」

巽は俯いた密の肩に手を置いて、ポンポンと叩く。

「ありがとうございます。」

密は、無理をしないでください・・・と言う巽に頭を下げた。



ゆっくり眠らせるのなら、いっそ保険管理室へでも連れて行った方がいいとは思う。

でも変なとこで都筑は頑固で、ここで起こしたら密に気を遣わせまいと眠い目をこすりな

がら、きっと仕事を続ける・・・・そんな姿を見るのはイヤだった。

密はそっと眠る都筑の顔を覗き込む。


熱を出している時・・・・

うっすらと開けた目に映った都筑の心配な顔。

密の顔を覗き込んでは『大丈夫だからね・・・すぐ楽になるから・・・ね、密。』

ほんのりとした温かさに頬や額を撫でられる心地よさ。

繰り返し繰り返し耳元で囁いてくれた言葉に安心して眠りについた事を思い出す。

だから・・・だから今この眠りを守りたい。それは自分が今出来る唯一のことのように思えた。



バーンッ!思いっきり開けられたドアに密は慌てて振り返る。

「坊!やったで〜、とうとう出来たんや!見てくれや〜・・・
この薬・・・・」

亘理の喜びにあげた声がだんだん小さくなっていく・・・・

それは目の前に今までで見たこともないような怖い顔をした密が仁王立ちになったからだ。

「・・・・亘理さん!」

「へっ?」

「部屋は静かに入ってください・・・・それにまた、くっだらない実験をしていたんですか?」

「くだらないって・・・・坊、ひどい・・・・」

いつになく厳しい密の言葉に、つい涙声になる亘理。

「とにかく音を立てないでください!いいですね!」

そう静かに言い放つと密は踵を返す。

「坊・・・・今日は怖さ3割り増しや〜」

すごすごと引き下がるしかない亘理だった。


それからの3時間あまり・・・・

密は大奮闘した。

ドアが開くたびに鋭い目つきをドアに向け、睨まれた職員は訳が分からず怯えまくる。

途中密がふと目を離した隙に課長が都筑を起こそうとするのを

慌てて止めに入ろうとして椅子に引っかかって見事にひっくり返ったり・・・・

端から見れば、何一人でバタバタしているのだろうと思われる様だった。

でも今出来ることはこれだけだから・・・・その思いだけで密は頑張った。


「ん・・・・」

密の活躍(?)ですっかり誰もいなくなった部屋で都筑は目を開けた。

「あれ?俺・・・いつの間に・・・・あ、密!」

寝ぼけて周りをキョロキョロ見回しながら体を起こした都筑は密を見てにっこり笑う。

その笑顔を、ふっと息をついて見つめる。

「ふあ〜〜、よく寝たなー。」

思いっきり背伸びをしながら都筑は、いつもならファイルで叩かれるか巽の怒声で起こされるのになあ〜と不思議に思う。

それにこんな長い時間こんなとこで寝たのなんて初めてだった。

欠伸をしかかった都筑は自分を見つめる密を見て思わず動作が止まる。

「ん?どうした?」

驚いたような困ったような顔をした都筑に気づき声をかける。

「あ、あのね・・・・密がとっても優しい顔をして・・・・俺を見てたから・・・」

「ば、馬鹿っ!何言ってんだか・・・」

ふいっと逸らされた顔は赤く染まっていて・・・でも二人を包む空気はとても優しくて・・・。

いつもと少し違う密の様子に少々驚きながらも、

胸の鼓動までもが聞こえてきそうな密の表情に、都筑は穏やかな幸せを感じていた。

2001・10・30
M・Hinase

★3500番のキリ番リクエストです。
リクエスト内容は「都筑の眠りを守る密」で予期せぬ出来事にワタワタする密が見たい!というものでしたが・・・ごめんなさい、そこら辺のドタバタが書けませんでした・・・・すみません(>_<)。
都筑を思いやる密の心とそれに甘える都筑を感じてくださると嬉しいです。
本当にお待たせした上に満足いただける内容ではないかも・・・・。
何となく巽が出張ってるし・・・・。