TIME TIME TIME



「巽、これはどこ?」
「・・・あの棚の上です。」
「じゃあ、これは?」
「・・・その箱の中・・・・」
「じゃあ、これ! あっ!」バキっ!
「・・・・・・つづきさん・・・・」もう文句も言う気もない。特大のため息をつきながら巽はソファに座り直した。
さっきから同じ事の繰り返しだった。


朝食の準備をしている巽の家に珍しく早起きをした都筑がやってきたのは今朝のこと。
電話も入れずに来ることはいつもの事だが、驚かされたのはその後の言葉。
「今日と明日の2日間、都筑麻斗、家政夫しまーす!」
「か、かせいふ?」突然の宣言に二の句がつげない巽の横をすり抜けずんずんと部屋にあがってしまう。
「ちょっと、待ちなさい、都筑さん。どういうことです?」
そんなこと聞いてませんよ!とあわてて後を追えば、事も無げに都筑は答える。
「だって、決めたの、昨日の夜だもん。巽、このところ忙しかったから、疲れているだろう? 
この休日はゆっくりして貰おうと思って来たんだ。」と、にっこり笑いながら掃除から始める気なのか腕まくりをはじめる。
「誰のせいで忙しかったと思っているんです? あなたが先日ぶっ壊した建物の件で大騒ぎ・・・」
「ストップ! その件については反省しています・・・・。だから今日こうやって手伝いに来たんだよ? 亘理にレシピも教えて貰ったし、料理はまかせてよ!」
「えっ!?」料理と聞いて巽は顔色を変えた、それだけは阻止せねば!
「り、料理は結構です。今日の夕食の分の下ごしらえは済んでいますし。」
「そんなあ〜、せっかく色々食材持ってきたのに・・・・」情けない声を上げる都筑を一瞥すると、やりかけだった朝食の準備を再開し始めた。
テキパキと支度を整える巽の後で、コトンと持ってきた荷物をテーブルの上に置く音がする。
その音にそっと振り向くとつまらなそうに床を見つめる都筑の姿があった。・・・・まったく・・・・。
「で、あなたはもう朝食は済んだのですか?」突然かけられた言葉に都筑は顔を上げる。
「ううん、まだ。起きてすぐ来たから・・・・」
「じゃあ、一緒にどうです? 少し多めに作ってしまったので。」
「うん、ありがと!」途端にぱあっと明るくなる表情に、巽は苦笑した。


料理を作る事を拒否された都筑は掃除、洗濯、風呂の掃除、庭の手入れ等々、その味覚センスが発揮されない家事を巽から言い渡されていた。
物を片付けているのか、壊しているのか分からない状態になりつつもなんとか巽の役に立ちたいと思っているのは伝わってきたので、
もう気の済むようにさせることにした。大事な物は書斎にあり、そこ以外の掃除を伝えてあるのだから多少のことは、もういい。
何よりも楽しそうにしている姿が見られるのだから・・・淋しそうな瞳を見るよりは、よっぽどいい。
巽はバタンバタン聞こえる音を聞きながら、本に目を落とした。



「あーお腹空いたぁ〜」庭の草抜きから戻ってきた都筑はテラスで土を払い呟いた。時計を見ると11時半。そろそろお昼だ。
巽のことだからきっとおいしいランチを用意しているだろうとリビングへ戻るが、その気配はない。
「あれ?」たつみ・・・・と声をあげかけて、あわてて口をふさいだ。
そこにはソファに背を預け首を前に垂れて寝込んでいる姿の巽がいた。
その珍しい光景に一瞬びっくりした都筑だが起こさないよう静かに回り込んで隣に坐る。
・・・・んーこのままじゃ辛いよね・・・そうだ!
都筑はそーっと巽の手から本を取ると、肩を引き寄せる・・・・どうか起きませんように・・・・そう心で願いながら巽の身体を横にさせ、頭を自分の膝の上に載せた。
「ふーっ」ほっと一息、都筑は眼下にある巽の顔を眺める。
そして眼鏡を外してテーブルの上へと置いた。

公私を含め巽とは長いつきあいなるが巽の寝顔は数えるほどしか見たことがない。
まして、こんな風に膝枕で・・・なんて初めてかもしれない。いつも自分がして貰う方だから。なんかすごく貴重な瞬間なんじゃないのだろうか・・・・。
そう考えると都筑は顔が緩んで止まらない。
「ふふ、巽って美人だよねぇ。」伏せた長い睫や形の良い顎、そして口元から目が離せない。
きっと子供の時も綺麗な子供だったんだろうなあ。
親が自慢したくなるほどに・・・頭も良くて、しっかりしてて・・・・見たこともない巽の幼少時代を色々思ううちに、都筑の胸には不思議な感情が芽生えてくる。それはまるで母が子を想うような気持ち・・・・。
都筑は静かに巽の髪を梳いた。

身体に触れるぬくもりでふと意識が戻ってくる。
ゆっくりと目を開けると、自分を見つめる優しい瞳に出会った。
深く儚いその瞳に自分が映っているのを巽はぼんやり眺めた。
「目が覚めた? 巽。」じっと視線をはずすことなく静かに問う都筑の声で我に返る。
「つ、都筑さん、これは!」ガバッと起きあがろうとした巽の肩をぐっと押さえ込む。
「あーダメダメ! しばらくこのまま・・・・ね!」
「ちょっと、離しなさいって! 都筑さん!」
「いいじゃん、たまにはさ。」いつもと違うアングルに巽の方はどぎまぎしてしまう。顔が火照ってくる。
自分が見下ろすことはあっても、見下ろされることは少ない、ましてや寝顔を見られていたなんて、恥ずかしくてたまらない。
でも都筑の力は強くて・・・・。
「いつからこうしてるんです?」半分やけくそで聞いてみる。
「うーんと、お昼前だったから・・・・3時間くらい?」時計を見ながら都筑が答えた。
3時間・・・3時間も寝顔を見られていたのか・・・自分でもそんなに疲れているとは思わなかった・・・久しぶりにぐっすり寝ていたように感じる。
・・・・・巽は身体の力を抜いた。
「都筑さん・・・」再び目を閉じ都筑の体温を感じる。
ん?と髪を梳く彼の手が気持ちがいい。
「・・・・もう少し・・・・こうしていても・・・いいですか?」小さな声。
「たつみ・・・・うん、いいよ・・・・」そっと額に口づけを落とす。
本当は・・・・お腹が空いているけれど、ちょっぴり足も痺れているけれど、巽の重さを感じるこのひとときを少しでも長く感じていたい。
「俺もこうしていたいから・・・」

いつもとちょっと違った休日は始まったばかり・・・・。こんな日も時にはいいのかもしれない。

2001・7・30
     M・Hinase

★リクエスト「巽を甘やかす都筑」だったのですが、書いていても巽が甘えてくれませんでした・・・・(T_T)。いつもの二人じゃないか・・・。 せめてもの膝枕です・・・・。お待たせした上にこんなんで申し訳ないです。