「説明って・・・俺が出かけるって言ったら巽がついてきたっていうか」
「また無駄遣いするから心配したんですよ」
「無駄遣いって・・・ちょっとケーキを食べるぐらいじゃん」
「都筑さんのちょっとはどっさりですから」
「巽が最近作ってくれないのもあるんだけど・・・」
「それは・・・」
「話を進めて貰えませんか」
無駄に広がっていく話をどうにか止めなければ・・・
「だから、俺はケーキを買いに来て・・・巽は後をつけてきたんだよ」
「じゃあ、もういいでしょう? 都筑さんには私が奢るのですから、巽さんは心配しないでお帰りただいても」
「何を冗談言っているんですか」
あんたと二人っきりにするわけがないでしょう!と言わんばかりの目つきで邑輝を睨み付けてきた。
「無駄遣いをさせないのですからもう心配はいらないでしょう?」
「別の心配がなければ即刻帰りますけどね」
「別の心配とは?」
「あなたが一番ご存知でしょう? Dr」
「あ、すいませーーーん! 注文良いですか?」
暢気な声が2人の会話に割ってはいる。
「ちょっと都筑さん、まだ注文は・・・」
「えー呼んじゃったよ? あ、あのね」
都筑の声に呼ばれた店員が足早にやってきて、注文を書き留めた。
「少々お待ちくださいませ」
軽く一礼して去っていく彼女に、よろしく、と声をかけて都筑が目の前のパフェに取りかかる。すごく幸せそうに・・・。
「都筑さん・・・人の言うことを少しは聞いてください、勝手に注文して」
「聞いてるよ〜、抹茶の頼んだよ?」
スプーンを加えたまま都筑が答える。
「あんたね・・・」
・・・あなたも人の話を途中で投げ出さないでください、巽さん!・・・
さっきから話が進まない。
街で偶然、都筑を見かけて食べ物を餌に喫茶店に入ったはいいが、10分も経たずにこの秘書がやってきた。
それからずっとこういう会話の繰り返しだ。
こんなことなら声をかけた瞬間に、さっさと攫っておくんだった・・・と今更ながら悔やまれる。
少しの間、巽は都筑を見失っていたようだから、絶好のチャンスだったのに・・・。
「ほらほら、口の周りにクリームが!」
そう言いながら、ハンカチを取り出し口元を拭いてやる。
「まったくいつになったら子供のような食べ方をしなくなるんだか」
邑輝が自分の行動を悔いている間も都筑は食べ続け、巽はかいがいしく世話をしている。
・・・文句の割にはすごく嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか・・・
「食べ終わってからまとめて拭くってば」
「いいから!ほらっ」
・・・・・・・
「あ、これ美味しい! 何だろう・・・桃?」
「どれです? ああ、ラフランスですね」
「ラフランス?」
「洋なしの一種ですよ」
「へえ、俺これ好き」
「そうですか、じゃあ今度・・・」
・・・もしかして、今自分はすごくくだらない時間を過ごしているのかもしれない・・・邑輝は思った。
この2人を前にまともな会話は成り立たないのかも知れない。
さっきから何度修正をしようとしても、元に戻ってしまう。
いつもこうなのだろうか・・・・いつもこうだったら・・・・と、ふと彼らの周りに同情した。
まだまだ自分は修行が足りないらしい。
ならば、今とる行動はひとつだった・・・。。
「今日の所はこれで・・・」
邑輝は立ち上がる。
「え?帰るの? じゃあ、さっきの注文・・・」
その台詞にどっと疲れを覚えつつ・・・
「・・・払っておきます」
短く答える。
「お疲れ様です」
帰るのが遅いという言葉が言外に聞こえてきそうな巽の言い方だった。
「都筑さん、また今度・・・・」
「会えたらね」
「・・・・」
ちょうどやってきたデザートに心が飛んでいる都筑は立ち去る邑輝に振り返りもしない・・・・。
・・・・虚しい・・・・
久し振りにそんな思いを胸に抱いた邑輝だった。
まだまだだ・・・・そんなことを考えながら、帰途についた・・・・。
「あいつの用事ってなんだったんだろう?」
「さあ、暇だったんでしょう?」
カップを口に運びながら巽が答えた。
「んーーーあ、そうそう今度家に来ないかって言われたよ」
「行く必要はありません!」
「なんか専用のシェフがいるって、すごい料理作ってくれるって」
・・・・また食事ですか・・・・
「・・・何が食べたいんですか・・・・」
ふとスプーンの動きを止めて都筑が巽を見る。
「・・・作ってくれるの?」
ここ最近多忙を極め、随分と一緒に食事をとっていなかった。
「・・・それ食べたら買い物に行きましょう」
「わ、ありがと巽。じゃあじゃあねえ、今夜は・・・・」
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
いつの間にか店中の視線を集めまくっているバカップルがそこにいた。
ある休日の昼下がり。
街角の喫茶店での光景。
それなりに平和な光景だった・・・・・。