| 「おい、いいかげんその顔の緩みをどうにかしろ!」 1週間かかった仕事も無事に終了し、帰り道ずっと何やら思い浮かべてはへらへらしている都筑に密は怒鳴る。 「え? そんなに?」 言われた都筑は慌ててパンパンと頬を叩く。 「まったく・・・・」 今回は対象者との関係がこじれなかったせいか、それほどまでは都筑がダメージを受けていないことにほっとしながらも、密は溜息をついた。聞かなくても彼の頭の中はよく分かる。 最近いつも仕事が終了すると巽が夕食を用意して、振る舞ってくれるらしい。密もたまに誘われるが、今まで行ったことはない。 それはこのふたりが醸し出す何とも言えない雰囲気を職場以外で味わいたくない・・・というのが大きな理由だった。本人達にはけして言えないことだけど・・・。 1週間ぶり歩く廊下にはもう定時を過ぎているせいだろうか、人気はなく、ふたりの話し声と靴音だけが響いていた。 そしてふたりは久しぶりの召喚課のドアを開けた。 「ふう・・・・」 もう何回目だろうか、携帯を見つめて都筑は溜息をつく。 夜、部屋には賑やかなテレビの音だけが流れていた。 「どうしたんだろう・・・・・。」 都筑は携帯を手に取り寝ころぶ。暗い画面が光るのをずっと待ち続けてもう2日・・・・出張に出た巽からの連絡を待ち続けて2日も経ってしまった。 あの日・・・・・出張から戻って課長室に赴いた都筑は、そこにいるはずの姿がないことに気づいた。聞けば、巽は3日前から急な出張で出掛けてしまっていると言う。てっきり笑顔で迎えてくれると思っていた都筑は肩すかしをくらった状態になった。 それも今回はかなり忙しい仕事だとかで、こちらから連絡はしないようにとも課長から言われてしまった。でもだからといって巽の方からも連絡がない・・・・。 出張途中、一度報告を入れた時に声を聞いたから、かれこれもう1週間以上も話していない。課長には定時報告が入るようだが、それはいつも都筑のいない時ばかり。 いつもは・・・・・どんなに忙しくても都筑が戻ってくる時にはちゃんと課長室にいて、小言をもらいながらもその日は一緒に巽の家に行って、ご馳走してもらって・・・・・・という習慣。それが楽しみで、仕事帰りはあんなに気持ちが弾んでいたのに・・・・。都筑は帰り道、密に注意された場面を思い出す。 いくら今回こじれなかった仕事とはいえ、やはり心の負担は残る。それをいつも癒してくれた巽だったのに・・・・・。 都筑は携帯をテーブルに置いて目を瞑った。 帰ってから夜もあまり眠れない・・・・・あるはずの姿が、聞けるはずの声がないだけで、こんなにも心がふさいでいくものなのか・・・・・寝付いてもあまり気持ちの良くない夢でうなされているようで、すぐ目が覚める。 今回は大丈夫かも・・・と思っても、やはり心は晴れなくて。 こんな時いつも抱きしめてくれる腕を、そしてかけてもらえる声がどんなに大切なものか・・・・・・。 都筑は自分で自分の身体を抱きしめた。 ・・・・いつ戻るんだろう・・・・・どうして連絡くれないんだ・・・・ 一度だけ、夜中にかけた携帯は電源を切られていて、切なさを増した。 まるで巽に見捨てられたような気分にまでなってくる。 ・・・・そんなこと・・・もうないはずのに・・・・・ 心の中で呟く声が弱々しいことに、都筑は苦笑し・・・・・涙を流した。 trrrrr・・・・・・ 突然鳴り響く電子音に都筑は飛び起きる。画面も確かめないままボタンを押した。 「もしもし!」 『都筑か?』 流れてきたのは、密の声だった。 「あ・・・・・密。」 落胆を隠した都筑が応える。密相手では無駄なことだろうけど・・・・。 『・・・・・寝てたか?』 「ううん、起きてた。・・・・何?」 『・・・・俺もさっき知ったことなんだけど・・・・』 ボソボソと話し始めた密に都筑は耳を澄ませる。 「・・・・・・え? なんだって?」 話が進むに連れ、都筑は大きな声をあげていた。 「まいりましたね・・・・。」 巽は脇に挟んでいた体温計を見て天井を見上げた。 一時の高熱は下がったとはいえ、もう3日微熱が続く。微熱とはいえ食欲はないままに身体は怠く、起きあがる気もない。流石に何か食べないと・・・と思いつつも、作る気力もなかった。 都筑が出張から戻った時のデザートにと買っておいた果物を少し口にしたが、やはりそれ以上は何も入らなかった。 深い溜息をつきながら・・・・・都筑のことを思う。 もうとっくに出張から戻ってきているはずだ・・・・今回は大きなトラブル要素はないと聞いている。 本来ならいつものように出迎えて、食事を・・・・と思っていたのだが、都筑が戻る3日前に突然発熱をしてしまった。どうやら過労が原因らしい。 課長からすぐ休養するようにと言われ、自宅で療養していたがどうにも熱が下がる傾向はなく・・・・・都筑が戻ってくる朝、仕方なく巽は課長に頼み事をして・・・・。 ・・・・・今頃どうしているだろう・・・・ 思い浮かべるのは都筑の顔だ。泣いてはいないだろうか、笑っているのだろうか・・・・それが気になる。おそらく連絡もしてこない自分に苛立ちをかかえているのでは・・・とも思う。 出張という芝居が何処まで通じるか・・・とも思うが、正直いつも健康管理について都筑に煩く言っている分、今回のことは自分でも情けなくて。 それに何よりも避けなければいけないものもあった。これだけは譲れない。 「予定では3日で治るはずだったんですがね・・・・」 そう呟きながら時計を見る。夜中の1時・・・・。 朝には熱が下がっているように・・・・そう思いながら、巽はまた目を閉じた。 ひんやりとした感触に意識が戻る。 ゆっくり開けた目に心配そうに覗き込む都筑の顔が見えた。 「・・・・つ、都筑さん!」 驚いて起きあがった巽は頭を抱える。 「・・・っ」 「あ〜ダメだよ、寝てなきゃ!」 都筑は巽の身体を支えながらゆっくりとベットに身体を寝かした。 「・・・・・大丈夫?」 布団を整えてやりながら聞いてくる都筑は、額のタオルをとり氷水に浸す。 「・・・・・どうして、ここに?」 「密が・・・・亘理に聞いたって。」 タオルを絞りながら都筑が俯く。 「またあの人ですか・・・・・まったく・・・・」 息を吐きながら、巽が額に手をあてた。 「まったく・・・・って何・・・・・」 小さい声が聞こえる。 「はい?」 「・・・・・巽のバカっ!」 都筑は洗面器にタオルを叩きつけた。水しぶきが散る。 「ちょっと、何するんですか、濡れるで・・・」 自分に向けられた濡れた瞳に巽は言葉を飲み込んだ。 「なんで? なんでだよ・・・・・・俺に内緒にしとくなんて酷いじゃないか・・・・・」 「そ、それは・・・・」 巽は目を泳がす。 「・・・・・・出張に出てるって言うから、仕事が忙しいんだろうって思って・・・・携帯がつながらないけど・・・・仕事してるんだと思って・・・・」 なのに・・・・・酷いよ・・・・、と都筑は巽を睨みつける。だんだんその顔が悲しそうに歪む。 「そんなに・・・・・俺が嫌?」 「馬鹿なこと言わないでください、誰がそんなふうに言いました?」 「同じだよ、俺に秘密にして・・・・ずっとずっと待ってたんだから! 巽の声が聞きたくて・・・・・巽の顔が見たくて・・・・・ずっとずっと・・・・。」 とうとう泣きじゃくり始めた都筑に巽は黙り込んだ。 秘密にしていたことは悪いとは思う・・・・・。でもその片隅で、秘密にしておきたい理由もあることを分かって欲しいと思う巽がいる。 目の前の恋人が下手の横好きで料理をやりたがるのでなければ・・・・・そして看病といいながら、仕事を増やすだけの(割られた食器は数知れずだ・・・)訪問になることくらい軽く予想できたのだから。 「・・・・さあ、泣かないで。すみません、心配をかけたくはなかったんですよ・・・・予定ではもう治っているはずだったんですが。」 ぽんぽんと都筑の頭を軽く叩く。いつの間にか病人なのに半身を起こして、都筑を抱き込んでいた。 「酷いよ・・・・酷い・・・・」 「はいはい・・・・さ、泣きやんで・・・。」 これではどっちがお見舞いをしているのかもうわからない状態だった。頭やら背中を撫でて慰める。 ・・・・病人なのに・・・・・ という思いと同時に何処かほっとしている自分もいる。 ・・・・・・久しぶりの感覚に自分が欲していたものはこのぬくもりだったと思い知らされた。 ふと時計が目に入った・・・・・4時前だ。 いつから来ていたのか・・・・・夜中に駆けつけた都筑を愛おしくも思う。 「ほら、都筑さん。とりあえず寝ましょう。」 巽は身体をよけて都筑にベッドにはいるように勧めた。 「でも・・・・・それじゃ巽が休めないよ。」 神経質な巽が同じベッドで寝付くことはないことを都筑は知っている。 「大丈夫ですよ、ほら。」 今日は、あなたがいてくれる方がいいかもしれません・・・・・そう心の中で呟く。 もそもそと布団に入り込んだ都筑を抱き込むようにして横になる。 「狭くない・・・?」 「ええ、大丈夫。」 「巽・・・・・・俺怒ってるんだからね。」 「・・・・そうですね、分かってますよ。」 「これからは・・・・・・・秘密にしないで、言ってくれよ。」 「・・・・はい。」 それでも我が身が可愛いと思う巽は苦笑する。こうなったらよりいっそう健康管理に気を付けるしかないようだ。 「ねえ、朝ご飯・・・・・俺作るよ。」 眠りにつく前に都筑が小さく囁く。頭を撫でていた巽の手が一瞬止まる。 「・・・・ありがとうございます・・・・・・さ、寝てください。」 「うん・・・・。」 巽の言葉に安心して都筑はすうっと眠り込む。 いつもよりもずっと寝付きがいい。 ・・・・・きっと・・・・・この数日眠れなかったのでしょうね・・・・・・でもまあ、なんて屈託のない寝顔なんだか・・・人の気も知らないで・・・・・ 巽は微笑む。手がかかるけれど誰よりも愛しい。 そう言えば、いつの間にか頭痛も治まっているし、お腹も空いた感じがしてきた。 「あなたのおかげですね・・・・・。」 そう耳元で語りかける。 「ん・・・・」 もうすっかり夢の中の都筑が返事をするかのように声を出した。 もっと早くこの顔を、この声を感じていれば治りも早かったのかも知れない。 どうやらこの腕の中にいる恋人はどんな薬より良く効くらしい。それに気づかないとは、とんだ愚か者だ。 巽は目を閉じる。 一眠りしたら、都筑のために朝食をつくってあげなくては。 いくら愛しくてもこれだけは譲れない。 泣かせたお詫びで今晩の食事も・・・ということになりそうだが、それはそれで楽しい時間だろう。 いつもより少しだけ遅れたふたりの食事会だ。 静かな寝息を聞きながら、巽もまた久しぶりの安らかな眠りへと落ちていく。 腕の中のこのぬくもりに身体が癒されていくのを感じながら・・・・・・。 |
2002・10・1
M・Hinase
| ★50000のキリ番リクエストSSです。 リクエストは『甘い巽都で、「巽のバカッ」とか都筑に言わせて、巽が倒れたり・・・とか。』ということだったので、まんま巽に倒れて貰いました(笑)。 私あまり病気ネタは書いていないのですよね・・・何でだろう? ということで、今回巽に寝込んでもらいましたv・・・・ベタな内容です・・・・; でも、これもしかして・・・・甘いという仮面をかぶったコメディ-かも知れない・・・・と思います; すみません・・・・でも巽、やっぱり譲れないと思うんですよ、この線は。 甘く切なくコメディ-で・・・・というSSになってしまいました(>_<)。 |