求めるもの


手を伸ばせば届きそうなのに
それには触れることが出来ない
もし境界を越えて
おまえの中に深く深く入っていくことができたら
それを手にすることが出来るだろうか・・・



ビクッと身体が動いた後、小さいため息が聞こえた
背中越しに伝わるその声は小さいけれどはっきりしていて
彼が自分を起こそうとしているのが分かる
起こしたいのなら
もっとはっきりと声を出して自分を呼べばいい
身体に触れて揺すればいい
なのに彼はそれはしない・・・
いつもいつも待っている
振り向いて
「どうした?」って声をかけられることを待っている
振り向いてなんかやらない・・・密は唇をかんだ


仕事の後の落ち込みを引きずった都筑を密は家に招いた
帰庁の報告をしている時
縋るような目を彼に向けていた都筑
そしてその瞳から微妙に目をそらし続けた彼
そんな二人を見ていると密は無性にイライラした
課長室を出て課に戻る時 少し俯き寂しそうな背中を眺めていたら
自然と言葉が出た・・・「家に来るか?」


しばらくごそごそした後 都筑がベッドから出ていく気配がする
さあっと冷えた空気が入ってきた
背中に視線を感じる
(だから呼べよ! 何で黙っているんだ!)
・・・こうなったら意地でも振り向いてやるもんか
密は目を固く閉じる
パタンッ・・・・玄関のドアが開いて、そして静かに閉じた・・・

カチカチカチ・・・・
秒針の音だけが響く部屋で密はため息をつく
あんなに強く抱きしめたのに
あんなに強く求めたのに
全てが幻のように思える
さっきまでのことがまるで夢のように思える
どんなに言葉を綴っても
どんなに熱い目を向けても
自分は彼の中に入っていけない
いつもいつも感じる、行為の後のこの例えようのない虚しさ
あの人も、こんな気持ちを感じているのだろうか・・・
・・・ふと、わき上がった考えにおかしくなった。
「ばかみてぇ・・・」嘆いた言葉が闇に溶けた。


「風邪引くぞ・・・」
結局迎えに来てしまう自分の甘さに辟易しながらも声をかける。
ブランコを揺らしていた都筑はゆっくり顔を上げた。
「また悪い夢でも見たのか?」
紫の瞳が潤んでいる。
「・・・・どうして声、かけてくれなかったの?」
(それはこっちのセリフだ!)
「・・・帰るのか、帰らないのか、どっちだ! 俺を寝不足にしたいのか、おまえは!」
また俯く。
「・・・都筑・・・」迎えに来てやっただろう! 声をかけているだろう!
これ以上俺にどうしろって言うんだ、おまえは。
口を開けば言葉がこぼれそうで、それ以上何も言わなかった。
肩にかけた手を都筑はぎゅっと握ってきた。
「ごめん、密・・・」


再び横になった部屋で密は目を開けた
冷えた身体を温めるようにピタッとくっつけて寝ている頭を抱える
こんなに側にいるのに
こうやって抱きしめることも出来るのに
おまえの求めるものを俺は与えられないのか・・・
片方の手を上に伸ばす
その手さえも見えないような暗闇
早く朝が来ればいい・・・ただそれだけを願いながら・・・


2001・6・18
M・Hinase

★リクエストもされてないのに密都です。そこはかとなく巽都もありますが・・・。
 この二人の場合も純粋に恋愛にはなりきれないような気がしています。
 どうでしょうか(^_^;)・・・。