| ただ逢いたくて ただ声を聞いていたくて そしてただ・・・・・側にいて欲しくて それだけで幸せになれると思ったのに 愛しい人から告げられた言葉は あまりにも残酷で 冷たかった あんなにも強く抱きしめてくれたのに あんなにも優しく見つめてくれたのに まるでそんなことはなかったような言葉が思いを切り刻む そのことばが過去のことを切り捨てていく もう・・・一緒に歩んではくれないんだね その瞳を見つめながら・・・・・・泣きそうになる自分を抑え、 彼の言葉が終わらないうちに・・・微笑んだ 「都筑さん。」 少し離れてかけられた声に都筑はゆっくり振り向く。 「またここですか。課長がお呼びです。」 「そう、わかった。」 無表情で返事をしてきた都筑はまた前を向く。 木の幹に背中を預けて座る様はまるで子供のようだ。 でももう都筑は笑わない・・・あの時を最後に巽は都筑の笑顔を見ていなかった。 あれを笑顔というのならば。 巽は少し様子を見ていたが動こうとはしない都筑にまた声をかける。 「都筑さん、早くしないと・・・」 「煩いな!行けばいいんだろう、行けば!」 吐き捨てた言葉と同時に立ち上がった都筑は巽の方を見ようとはしない。 ずっとあの日から、都筑は巽を見ていない・・・。 トントンっと巽は書類の束を整える。溜息をつきながら少しネクタイを緩める。 現場の仕事から課長秘書に就任して1ヶ月。 ようやく一通りの仕事の手順を覚え、意外にも性に合っていることに気付き、それはまた自分に対しての驚きでもあった。 都筑とのパートナーを解消して他の課への移動を申し出た巽に課長は秘書という任に就くことを勧めてきた。 お互いのことを思えば顔を合わさずに済ませたかったが、やはり一方的な終わりを告げてしまった負い目からか、 都筑のことが気になった巽は熟慮した末、その勧めを受けた。 その選択は間違っていないと今は信じている。 けれどあんな都筑の様子を見続けるのは正直辛かった。 自分では癒せなかった彼の心が、1日も早く他のものによって癒されるように・・・・ 今願うことはただそれだけ、それしか出来なかった。 帰り支度をして課長室のドアを開けるともう他の職員達の姿はなかった。 つけっぱなしになっている電気を消す。 一つ一つ明かりが消えていくと何処かで緊張感のほぐれる自分が居ることに気付き苦笑した。 全ての明かりが消え薄暗い部屋を見渡す。 此処に来てまだ4ヶ月余りなのに一生分の事を体験したように感じるのは何故だろう。 それほどまでに都筑との付き合いが密度の濃いものだったと言えるのかもしれない。 死んでまでこんな思いに苦しむなんて思わなかった・・・ ふと考え込んでいる自分に気付き頭を振る。 気を抜くといつもこうだ。 巽は気を取り直してドアの方へと向かった。 ガチャ。 ノブを握ろうとしたその時、ドアが開いた・・・・都筑だった。 「まだ、いたんですか。もう帰ったのかと・・・」 驚きを隠し巽が言う。 チラッと巽を見て都筑は脇を通り抜ける。 「・・・荷物・・・まだ置いてあるじゃん、俺。」 見ると確かにコートが椅子に掛かったままになっていた。 「ああ・・・すみません。気がつかなくて・・・。」 「いいよ、別に・・・。」 ゴソゴソとコートを羽織る。 「先行ってもいいよ。俺、閉めとくから。」 背を向けて身支度をしながら都筑は言う。 男のくせに華奢なその背中を何度抱きしめただろう。 ・・・帰った方がいいのだ・・・何も言わない方が・・・ 巽はじっとその背中を見つめ続けた。 「何?」 動こうとしない様子に都筑が振り向く。 「・・・都筑さん、少し話をしませんか?」 その言葉に都筑が向き直った。 「話?・・・何の話?俺と話すことなんかないだろう。」 もう関心もないくせに・・・と冷たい目で言う。 「関心がない?そんな訳ないでしょう、私はいつだって。」 「いつだって、何だよ。もう会わないだろうと思ったから・・・・それなのにどうして此処に居るんだよ!」 「聞いてください、私は。」 「いやだよ!」 「都筑さん!」 「聞きたくもない!・・・おまえの言葉なんかもう二度と聞きたくないんだ。 ・・・もう俺に構うなよ、どっかに行ってくれ!」 叫んだ言葉が部屋に響いた・・・・沈黙が訪れる。 あの時言いたかった事がこぼれ落ちた。 ・・・本当は笑いたくなんかなかったんだ・・・泣いて喚いて・・・引き留めたかった・・・ でももう会えないと思ったから、だから笑ったのに。 なんでおまえは此処に居るんだよ・・・・。 俯く都筑の耳に靴音が近づく。 はっと顔を上げる都筑が見たものは月明かりに照らされた巽の顔だった。 何も言わず怒ったように近づく顔に都筑は息をのむ。 反射的に後ずさった都筑の背中に壁があたった。 「な、なんだよ・・・」 巽と壁に挟まれるように追いつめられた都筑は睨み返した。 「・・・・言いたいことはそれだけですか。」 「な・・・」 「言いたいことがあるのでしょう?」 「巽・・・」 「言えばいいでしょう、全部。」 「・・・・」 「さっきのように、私に言いたいことを言えば・・・」 巽はそう言うと壁に押しつけるように都筑の唇に自分のを重ねた。 突然のことに驚いた口の中に巽の舌が入り込み、絡め取られそして・・・吸われる。 「うっ・・・・や・・・・っ」 貪られる音だけが聞こえる。 ・・・こんなのいやだ!・・・なんで・・・・なんで・・・・ 息も出来ないほどの強さで壁に押しつけられる。 この胸に抱かれて幸せを感じたのは誰? 優しさに溺れていたのは誰? 苦しさと辛さに都筑が涙を流した。 口づけがこんなに痛く悲しいものだと初めて知った。 拒否する言葉も発せられないまま、都筑は巽の背中を叩き続けた。 </PRE> <PRE>ようやく唇が離れた頃には、都筑はもう立っていられなかった。 ずるずると壁づたいに腰を落としていく都筑を巽は見下ろす。 お互いの荒い息づかいだけが静かな部屋に響いていた。 「明日から新しいパートナーがきます。・・・遅れないように。」 「はっ、仲良くやれってか・・・・」 溢れる涙も拭わずに都筑が見上げる。 濡れた瞳が月明かりに照らされる。 この瞳が愛おしくて・・・そして怖くて離れたのに。 「都筑さん・・・・私は貴方に幸せになって欲しいだけです。」 「何・・・・・勝手なこと・・・・言ってるんだ。」 おまえが不幸にしたんじゃないか・・・・溢れる涙が止まらない。 「貴方がまた笑えるように・・・・私はいつも貴方を見ていますから。」 そして巽は落ちた上着と鞄を拾い上げ背中を向けた。 ほら・・・そうやってお前は去っていくんだ・・・・ みんな自分を置き去りにするんだ。 「何言ってんだ・・・巽。」 遠ざかる靴音が廊下に響いている。 やがてやってきた静けさの中で都筑は膝を抱え座り込んだ。 「何言ってんだよ・・・・・」 どうしてそんなことが言えるんだ・・・・笑ってたじゃないか、俺。 いつだって、いつだっておまえにだけは笑ってたじゃないか・・・・。 「笑ってたじゃないかあ・・・・・」 これ以上どうしろって言うんだ・・・ 俺から笑顔を奪ったのはお前じゃないか。 ・・・もう苦しめないで・・・・・。 壁の冷たさに心も身体も冷え切っていくのを感じながら 都筑は一人涙を流し・・・・・・・・・笑った。 2002・2・26 M・Hinase |
| 出来ればダークで・・・・というリクエストでイラストをいただきましたので こういう感じに仕上げてみましたが・・・玉砕!?(苦笑) す、すいません・・・・。 でもこういう関係も好きv |