| 縛られる想い ふと目が覚めた。 動かした手に毛布が触れる。 寝ちゃったのか・・・・ 掛けられた毛布を引き上げて顔を埋めると、かすかに匂う安らぎの香り。 その香りをもっと感じたくてギュッと抱きしめる。 深く息を吸う。 こんなに暖かい部屋なのに、 掛けられた毛布もとても気持ちいいのに 心の奥からは暖かくなれない。 欲しいのはこんなものじゃない。 自分が今一番欲しいのはあの腕で与えられるぬくもりだけだから・・・・・。 「ふーっ」 明日の会議に提出する資料を書き終わり、最後にサインをする。 時計を見ると11時になっていた。 食事の片づけの後、ソファで寝込んでいた都筑に毛布を掛けて部屋に入ったのが8時。 3時間も机に向かっていた巽は、ペンを置き身体を伸ばした。 隣の部屋に耳をすませるが、特に物音は聞こえない。 まだ寝ているんでしょうか・・・・ 昨日まで出張だったのだから疲れているのだろう。 夕食時のやたらテンションの高い様子を思い浮かべる。 本当は・・・・ 仕事も持って帰っていたし、週末でもないから 「巽の家に行きたい!」 と、言われた時、断ろうと思っていた。 食事をすれば、その後はなし崩し的に泊まることになる。 そうなれば、やはりそういう雰囲気は避けられない。 仕事が翌日にある夜に無理をさせたくない・・・・というのもあったが、 本当の理由はもっと別のこと。 それが何となく都筑との接触を遠ざけている理由。 軽く目を瞑り頭を振る。 とうに忘れた事だったのに・・・・。 巽は溜息と共に都筑の様子を見るために立ち上がった。 リビングの扉を開けた巽はソファの上に残されている毛布を手に取った。 はっとして玄関の方へ行ってみるが、そこにある靴を見てホッとする。 じゃあ・・・・何処に? 部屋に掛けられたままの都筑の上着を見ながら庭へと続く窓へと近づいた。 月も出ていない夜は部屋の淡い光のみに照らされていて隅々まではよく見えない。 巽は目を細めて庭に降りた。 少し身体が慣れたのか、寒さを感じなくなった。 夏には青や紫の花が咲いていた場所を眺める。春にはまた新しく芽が出るはずだ。 ずっと一緒に・・・・そう願って植えた花だった。 「都筑さん!」 突然頭上から降りてきた言葉に顔を上げると、そこには仁王立ちになった巽がいた。 「あ、たつみぃ・・・・」 「何してるんです、アンタは!」 「ん?花見てた。」 「花って・・・・そんな格好で・・・・。風邪でもひいたらどうするんです?さあ、部屋に戻りますよ!」 そう言いながら都筑の腕を引き上げる巽の手を都筑は振り払った。 「嫌だ!」 「都筑さん?」 「風邪ひくんだから。此処にいて風邪ひいて、熱出すんだから!」 「ちょっと、なに馬鹿言ってるんですか。」 さあっ、とそっぽを向いた都筑の腕を、もう一度引き上げる。 「離せってば、離せよ!」 暴れる都筑をかまわずに巽は引っ張っていく。 掴んだ腕が思った以上に冷たいことが、巽を焦らせた。 部屋に入り、都筑を乱暴にソファに座らせると、そこにあった毛布を掛けようと巽が手を伸ばした。 「いらないよ、毛布なんて!」 都筑は身をくるもうとした毛布を払いのける。 巽は床に飛ばされた毛布を見つめて、それから都筑を見た。 「・・・・・どういうつもりですか?」 「・・・・・」 「都筑さん・・・・」 「熱出すんだ・・・・・」 都筑が同じセリフを繰り返す。 「風邪ひいて・・・・熱出して・・・・寝込むんだ・・・・」 俯いたまま繰り返す言葉にお手上げだ。 こういうところで都筑は頑固だ。 巽は怒鳴りつけたい気持ちを抑えて深呼吸する。 こうなったらじっくり言い分とやらを聞いてやろう、そう思い都筑の前に膝をついた。 「風邪をひいて、寝込んで・・・・どうするんです?苦しいだけでしょう。何故そんなこと考えるんですか?」 都筑はじっと床を見続けている。 「都筑さん・・・・」 こちらを向きなさい、と両手で頬を挟み込み顔を向けさせた。 とても冷たい頬に胸が痛くなる・・・・いつからあそこにいたのか・・・・。 「・・・・・寝込んだら、巽が優しいから・・・・」 「はあ?」 潤んだ瞳で告げられた言葉に思わず問い返す。 「・・・・俺が寝込んだら・・・・巽が看病してくれるから・・・・」 巽は都筑の顔を見つめた。どうやら本気のようだ・・・・。 「それであそこにいたんですか・・・・」 「だって・・・・だって・・・・」 みるみるうちに瞳に涙がたまる。 「ここのところずっと巽が冷たかったから・・・・」 「冷たいって・・・・私は別に・・・・」 「避けてたよ、巽。あんまり俺に触れなくなった・・・・」 「それは・・・・」 「すぐ部屋に入って仕事するし、職場でも俺の方見ないし・・・・」 「それは・・・・」 「何で・・・? もう俺の事なんてどうでも良いの?」 「そんな事、あるはずないでしょう!」 じゃあ、何で?と問うてくる都筑の横に座る。 冷えた肩を引き寄せると、都筑は素直に身をまかせてきた。 「怖かったんです・・・・」 「何が?」 「貴方をダメにしそうで・・・・」 巽は諦めたように話し始めた。 「貴方の側にいるとどうしても私は貴方にかまってしまう・・・・必要以上に。貴方の世話をあれやこれやとやいてしまう・・・・そのうちに貴方は・・・・何も出来なくなるんじゃないかと・・・・そういう風に貴方をしてしまうのではないかと・・・・それが怖くて・・・・」 遠い昔・・・・あの人を壊してしまった時のように・・・・・。 「だから・・・・何もしなくなったの?」 「・・・・ええ。」 しばらく会話が途切れた・・・・・。 「かまってよ。」 都筑が小さく、でもしっかりと呟いた。 「え?!」 「かまって、巽。俺のことどんどんかまってよ。」 「都筑さん・・・・」 「俺、大丈夫だから。」 「大丈夫って・・・・でも・・・・」 「俺ね、底なしだから・・・・甘えるの・・・・・だから巽の考えているようなことにはならないよ。それにいつも言ってるじゃん、俺のことダメだって!」 「それとこれとは違うと思いますが・・・・。」 「一緒だよ、つまり・・・・上手く言えないけど巽がかまったぐらいで俺は壊れないって!俺は貪欲だから・・・・お前が思う以上にすっとずっと!」 「都筑さん・・・・」 「だから俺の側から離れないで・・・・・」 見つめて・・・・抱きしめて・・・・キスして・・・・そして感じさせて・・・・。 巽は肩に置いていた手に力を込める。 「・・・・・いいんですか?」 貴方を一人では生きられなくすることになるのですよ・・・・心の中の問い。 それほどまでに深い自分の想い。 「うん。・・・・・・俺、お前が思っているほどヤワじゃない・・・・・。」 だから・・・・今は温めて・・・・。都筑は巽の首に手を廻す。 「巽・・・」 そう呼びかけると巽はすっと眼鏡を外した。 「・・・・・覚悟してくださいね・・・・」 「うん・・・・いいよ。」 ゆっくりとソファに沈み込んだ2人の影がやがて・・・・・ひとつになっていった。 怖れるものはけして心から消えはしないけれど、今は貴方をこの腕の中に 貴方を信じて・・・・自分を信じて・・・・・抱きしめるだけ・・・・。 |
2001・11・27
M・Hinase
| ★10001番リクエスト作品ですv リクエスト内容は「倦怠期を越えて甘い巽都」・・・・・だったのですが、倦怠期と言うよりは、巽がお得意の独り相撲をとっている話となってしまいました〜。あああ、すみません・・・・もっと明るく展開しようと思ったのですが・・・・。 甘いのも中途半端で・・・・・全然甘くないけど・・・・・。お待たせしたうえにこれじゃあ・・・・反省しきりです。 いつもながら中途半端で申し訳ないです(T_T)。 |