| 世界は二人のために あと30秒・・・・20秒・・・・ 召還課の掛け時計はこの部屋を管理している秘書がいつもチェックをしているため1秒の狂いもなく、時を刻む。 少し前に課長と共に部屋に入って来た巽は今日の連絡事を伝えるために職員全体の机が見渡せる位置に立った。 何故か課長が秘書の背中に半分以上隠れるようになっているが、 もう誰もそれを不思議とも思わない。 そう、この秘書こそが全権を握っていることは周知の事実だった。 タタタッ・・・・遠くから廊下を思いっきり走ってくる音が聞こえてくる。 後10秒・・・・ 亘理は何気なく巽を見る。 静かな空間に響くこの音が聞こえていないはずはないだろうに いかにも興味ありませんというような涼しげな顔をして立っている。 ・・・・耳はダンボになっとるで〜・・・・ 無表情でもその神経は全部その足音の主の方に行っていることは 自分だけでなく、此処にいる部屋の全員がお見通しなのに、なおもこういう態度をとり続けている男が滑稽だった。 「セーフッ!」 勢いよくドアが開くと同時に脳天気な声と始業の知らせが鳴り響く。 「あー良かった、間に合ったよ。」 密、おはよーと上機嫌で自分の椅子に上着を掛ける。 「・・・・都筑さん」 場の空気をまったく感知しないように他の職員にも挨拶をしている都筑に声がかけられる。 「あ、巽おはよう。」 振り返りざま、にっこり笑う表情に一瞬グッと息が詰まる音が聞こえたような気がする周囲・・・・。 誰かが小さく溜息をつく声が聞こえた。 「お、おはようございます・・・・・ゴホンッ。・・・・ところで都筑さん、後5分、早く出てこれませんか?」 「え?間に合ったからいいじゃん。」 「始業と同時に部屋に走り込んでくるなんて、褒められたもんじゃありませんよ。」 「でも、セーフでしょ?」 「社会人としてみっともないですよ。」 「まったく細かいんだから、巽は。」 やれやれ・・・というように手を左右に広げ首を振る都筑に 「アンタが雑すぎるんですよ!」と巽は語気を荒げる。 「朝から廊下を走るっていうのも止めてもらいたいですしね。」 「学校じゃないんだから・・・・いいじゃん別に。」 「よくないですよ、何言ってるんですか!」 ぺしっと持っているファイルで都筑の頭を叩く。 痛いよーと都筑が文句を言う。 「貴方、毎日どこに来ているつもりなんですか職場ですよ、職場! それも立派な大人がこんな幼稚園児のような注意を受けてどうするんですか!」 「何で遅刻してないのに、怒られるの?俺。」 「今日みたいのは遅刻と同様です。」 「ええ?それはないよ、巽! ねえ、課長ひどいですよね!」 ひょいと巽の後にいた課長に助けを求める。 「あ? ああまあ、そうだな・・・・」 目の前で繰り広げられている二人の諍いを遠い目で見ながら、 立ちつくしていた課長は突然降り掛かった状況に対処できず、 つい都筑の声に反応してしまった。 「課長・・・・」 そんなことでは・・・・と眉をひそめて振り向いた巽と目があってしまう。 「あ、いや、まあそのなんだ。今日のところは都筑もギリギリ間に合ったんだし、それぐらいでなあ・・・・・それよりも巽、早く連絡事項を・・・・」 「とにかく都筑さん、明日からはもう少し早めに来なさい!いいですね。」 早くこの場を切り上げたい課長の言葉を遮って、巽はまた都筑へと向き直る。 「わかったよお。」 頬を少し膨らませた都筑が仕方なく返事をする。 「ほら、ネクタイが曲がっています、朝ぐらいはちゃんと締めなさい。・・・・ああ、シャツのボタンが取れかかっているじゃないですか、どうしてすぐつけないんです?」 「んー。」 巽は都筑のネクタイに手をかけ整える。 自分の発した言葉が見事に素通りしていく様に、課長は溜息をつく。 自分ばかりではない、此処にいる職員全員がそっと息を吐いている。 いつもは目ざとい男が、この様子に気付かないのか、知っててやっているのかは分からない。しかし、今確実に言えることはもう既に二人の世界は始まっているということで・・・・。 課長は巽に見えぬように手を振る。 それを見た職員は気怠い空気の中、各々の仕事へと戻っていく。 そして課長自身も自室へと入ってしまった・・・・。 ・・・・職場、職場というセリフ、そっくりそのまま今のおまえに返したいわ・・・・ 今度は寝癖がどうとかいって都筑の髪に手をやる巽を見ながら亘理は部屋を後にする。 まったくよくそこまでやるもんだ・・・・と呆れてしまう。 あれだけ面倒を見ながら、 『職員の管理は秘書の仕事です!』 と言い張る巽に首を傾げる。 誰が見ても彼の管理対象は都筑一人。 これは閻魔庁内誰に聞いても、ほぼ100%の答えが返ってくると断言できる。 いい加減、そのことを自覚して欲しい。 いくら慣れているとはいえ3日とあけず繰り返されるこの風景には、周囲はいささか疲弊気味だ。 課長なんて、もう諦めの極地へ旅立ってしまっている。 実際誰かが何か口を挟もうならば、自覚のない鬼の秘書にとんでもない仕返しをされるのは確実だから亘理をはじめとして、もう誰もあえて火中に身を投じるようなことはしない。 ・・・まあなんやな・・・・・平和って、いうことか・・・・ 見当はずれの考え方のような気もするが、そうでも思わないとやっていけない現実があるのだから、仕方がない。 亘理は両手をポケットに突っ込んで自分の研究室へと向かって行った。 「あ、巽、目にゴミが入ったー!」 「あ、こすってはいけませんよ、ほらじっとして・・・・」 「あーん痛いよー。」 「大丈夫すぐ取れますから・・・・」 ・・・・・・・・・・ 終わりなく繰り返される会話にいつの間にか誰もいなくなった召還課。 そこではいつもと変わらずしつこく二人の世界が繰り広げられていた・・・・・。 |
2001・10・20
M・HIinase
| ★9500のキリ番リクエストでございます。 リクエスト内容「巽都のバカップル」ということで書かせていただきましたv どうでしょうか?(ドキドキ・・・・) 私としてはまだまだバカップル度が足りない・・・・と思っております。 反省です、ごめんなさい(>_<)。 ここではまだ本人同士はまったくカップルという自覚はないのですが、 端から見ると他の何ものでもない・・・・という設定です。 課長がかわいそ過ぎでしょうか。 召還課全体が甘い空気で包まれているようで、さぞかしたまらないことでしょう。同情申し上げます・・・・・(^_^;)。 |