Christmas

“メリークリスマス!!”

掛け声と共に、あちらこちらでグラスを合わせる音がして、口笛もなった。
シャンパンの入ったグラスを高く掲げているのは亘理。
パーティの始まりの音頭も彼だった。
仕事でどうしても抜けなくてはならない者以外、大体の職員が顔を揃えていた。
よく見れば召還課でない者もいるが、料理なり酒なりを手土産に参加すればOKという巽の発言でかなり部外者も参加していた。
・・・良く好き好んでこんな所に来るな・・・
賑やかなのにいまいち慣れない密はアルコールを注がれたグラスを舐めた。ピリッとした感覚が舌に当たる。
酒は嫌いではないが・・・・いつも飲める場所では、はるかに想像を超える量を飲み干し、自分を見失うパートナーがいるせいか、存分に楽しむことが出来ないことが多かった。
今夜は・・・都筑の側には巽がいるから、多少は目を離しても大丈夫だと思うが、いつ何が起こるかも知れない・・・・という構えだけは捨てきれないままだった。都筑は酔っぱらうと何故か密に絡むことが多かったのだ。
・・・俺って何て貧乏性・・・
ふうっと、溜息をついて・・・くいっとグラスを飲み干した。
「おお、いい飲みっぷりや坊! さあさ、もっと飲めや〜」
有無を言わさず注がれる液体を見ながら、密は手近な料理を物色していた。




「どうしたんです?」
わいわいがやがやと宴が始まったにも関わらず、都筑が静かで・・・・巽は小皿に都筑の好きそうな物を取り分けながら声をかけた。
「え?・・・・別に・・・・あ、もういいよ、自分で取るし・・・」
「?・・・・いつものことでしょう? ちょっと待っててくださいね」
巽は首を傾げながらも、席を立って少し遠くにあった鶏の唐揚げを摘み、皿に載せる。
それを見た亘理が嫌な顔をした。
「おお、優しいなあ〜取り分けてやるなんて・・って、なんで、それ此処に置いてるんや!」
と、唐揚げを指す。
「決まっているでしょう? 嫌がらせです」
「おまえねえ・・・」
「普段迷惑ばかりかけられているんですよ、これぐらい可愛いものでしょう」
ニッコリと微笑む顔を亘理が睨み付ける。
「なんちゅう性格や・・・」
「あなたに言われたくないですね」
そう言い捨てるとスタスタと席へ戻っていく巽の背中に舌を出した。
まだこの前の事が尾を引いているらしい。
「亘理さん、お皿動かしましたから・・・」
見ると唐揚げの皿が亘理から見えないように動かされていた。
呆れたように言う密に亘理は向き直る。
「ほんま、たまらんやっちゃ」
「亘理さん・・・」
窘めるように呟く。
「ああ、わかってるって、大人しくしています・・・また次元の歪みにでも飛ばされたらたまらんわ!」
よよよよっと泣き真似をする亘理にシャンパンを差し出す。
「ま・・・・・・飲んでください・・・・」
願いはただ1つ・・・・平穏無事にパーティが終わることだった。




「はいどうぞ」
料理の盛った皿を渡すと、都筑はそれを少し躊躇して受け取った。
その顔を巽は見つめる・・・・深刻な悩みがあるような感じはない。でも何かが気になるのか、口数がいつもよりも断然少なかった。いつもならもっと亘理と共に座を盛り上げる程の馬鹿騒ぎをするのに・・・。
「本当に静かですね・・・・何かあったんですか?」
「・・・・俺だって静かに食べたい時あるよ」
「そうですか? それにしてはテンションが違いすぎるような感じが・・・・」
「なんにも無いったら・・・・巽も早く自分の食べないと・・・」
「ええ、それはそうですけど・・・」
それ以上構っても・・・・と思った巽は自らも箸を進めた。

時折、周囲の者と笑っている都筑を盗み見た。
すると・・・・頻繁に都筑がある方向を見ていることに気付いた。
・・・・・・・・・・
その視線を辿った。
・・・・寺杣と肩を組み大笑いしてる亘理だった。
・・・・・いったい?・・・・
その後もやはりそういう目で見てみると、間違いなく都筑は亘理を気にしていた、と同時に巽が話しかけない限り都筑から巽に声をかけることが無く、また目も合わせようとはしなかった。


「都筑さん」
テーブルの下で突っつくと、ビクッと都筑がこちらを向いた。
「な、何?」
「あなた何か亘理さんにされてるんですか?」
小さな声で囁く。
「・・・・・・」
困ったような顔をするとこを見るとあまり状況は良くないらしい。
「言いなさい、悪いようにはしませんから・・・」
「え・・・・でも」
「いいからっ」
テーブルの片隅で小声で話し合う2人・・・・しかしそういう光景に見慣れている周囲の者は頓着しなかった。
「ほら、言いなさい・・・」
「うん・・・・亘理がね」
「あの人が・・・・?」
「・・・・・・俺たちのね」
「俺たち?」
「観察日記つけてるんだって・・・」
「・・・・・・・はあ?」
「でね・・・・・・こっそり公開していてね・・・・閻魔庁内結構話題とか何とか・・・」
「・・・・・・都筑さん、ちょっとこっちに・・・・」
「え? 巽?!」
すくっと立ち上がると、都筑の腕をとって課長室へと向かった。
半分引きずられるようにして部屋に入れられる。
もう会場の方は大騒ぎ状態、あまり2人の行動は気付かれずに済むようで、近くの席の者が4,5人見たが大して気にとめずにいた。・・・・いつものことだからだ。


ばたん。
静かにドアを閉めると、都筑をソファに座らせ・・・・巽は隣に座った。
「もう1度最初から言ってご覧なさい」
「え・・・・っと」
突然取り調べが始まった都筑は焦る、自分だってまだ詳しくはないのだ。
「あのね・・・えっと・・・・・俺もまだよく分からないんだけどね・・・どうやら亘理がね、ネット上で日記見たいのつけていて・・・そこで・・・その」
「・・・・・私達のことを書いている・・・・っていうんですね?」
「・・・・うん」
「達って事は・・・私もですね?」
「だと思う・・・・なんかそこのタイトルが観察日記とかどうとかで・・・・別名その・・・・」
「・・・・なんです?」
「・・・・・・」
「・・・・・・都筑さん?」
「・・・・・・
バカップル日記だって・・・・」
「え? 何ですって?」
「・・・・・・バカップル・・・・・」
「・・・・・・ほお?」
「た、巽ぃ〜」
都筑の呼びかけに答えず巽は立ち上がると机上のパソコンに向かいカタカタと操作をはじめた。
その間都筑は、おろおろするだけ・・・。
そして・・・・・せわしく動いていた指が止まった。
「巽?」
じーっと画面を見ている巽におそるおそる近づく。
「あ、これ・・・ホントだったんだ」
「あなた見たんじゃないんですか?」
「ううん、若葉ちゃんに会場の飾り付けを手伝ったお礼とか言って教えて貰ったから・・・」
そう都筑が話す間も巽は次から次へと頁を進めている。
「・・・・・これを見ていたんですか、みんな・・・」
はああっと、大きく息を吐く。
「だから態度が変だったんですね?」
「うん・・・・ごめん。何が書かれているかは読んでないけど、観察・・・っていってたし・・・・だからあんまり巽と接さない方がいいのかなあ〜と・・・・ごめん」
「あなたが謝る筋合いのものではないですが・・・・・まったくどうしてくれましょうか」
これだけの恥をさらしてくれたお礼はしなくてはならない。
「あの・・・・密は悪くないと思うんだけど・・・・」
現パートナーの心配をする都筑を見る。
「ま、・・・一部癪に障る表現がないわけではないですが・・・・主犯は亘理さんである事は間違いないですしね。亘理さんに何かあれば、それで反省してくれるでしょう」
「何かって?」
「何かです」
ふっと笑った顔が少し怖くて都筑はそれ以上聞けない。
「・・・・・あ、そうそうでもよく分かったね、この頁」
「そんなものは簡単です、私を誰だと思っているんですか?」
「あ・・・・はい。あ、それ俺にも見せて!」
「駄目です、見なくていいんですよ、こんなもの。さて・・・こうゆっくりもしていられません!」
都筑はもう何も言えなくなった・・・。




「なんや? ふたりして課長室に入ってからに」
サンドウィッチをぱくつきながら、亘理はドアの方を見た。かれこれもう10分は出てきていない。
「何か用があるんでしょう?」
「いや、怪しい!! まさかあの中で今頃・・・」
「亘理さん・・・」
いいかげんに・・・・、と言おうとした密の目に小型のカメラが映る。
「まさか・・・・亘理さん!」
「やっぱ最後は映像やろ。本当はあの部屋にしかけておこうと思ったんやけどな・・・・流石に今回は隙がなかったしな。で、都筑の服にとか思ったんやけど、何故かあいつ俺を今日は避けとるし・・・」
「もう・・・・やめといた方が」
「坊、探求心を忘れたら人間終わりやで?」
ウィンクをする。
「この場合はちょっと違う気も・・・」
「いや、俺はやらんと! あの日記を楽しみにしてくださっている読者の方の期待を裏切らないためにも!」
「・・・・・・」
「わたりんからのクリスマスプレゼントや!」
わはははは・・・・・と急に笑い出した亘理に全員が注目する。
もう何を言ってもムダだ・・・アホらし・・・と密は箸を進めた、もう関わらない方がいい・・・そんな予感がする。


そんな密の気持ちなどと関係なく、馬鹿笑いを続ける亘理は立ち上がった。
「な、なんだ?」
「どうした?」
「酔いが回ったんじゃないか?」
騒然とした会場を亘理が見渡す。
「みんな、俺はいくでー! 何が秘書や! いつまでもお前の時代があると思うな! 巽がなんぼのもんや! 俺はやるでー! 今立ち上がる時や! さあ、見たい奴は手を・・・わっ」

・・・・・一瞬だった・・・・・本当に一瞬だった・・・・
あっという間に真っ黒な影に亘理が包まれて・・・・・で、消えてしまった・・・・
後にはカランっと、小型カメラが1つ転がっていた・・・・・・


誰も何も言葉を発さなかった。
発してはいけないと思った。
みんなして亘理が今までいた場所と、カメラを見た。
あれほどまでに騒いでいた会場が水を打ったようにシーンとなった・・・・・。
余りのことに誰も動けない中、密だけが黙々と食事をとり続けていた、その音だけが妙に響く。
そして・・・課長室の扉が開いた。
でも誰も振り向けない。
「おや、どうしたんです? まだパーティの途中でしょう? まだ料理も残っているじゃないですか」
明るく言い放つ巽の声だけが職員の中を通り抜ける。
「巽さん、これまだありますか?」
静寂の中、密が巽が作ってきた料理の皿を掲げた。
「ああ、それならまだ沢山こっちにも・・・・・・さ、都筑さんも座って。ほらほら皆さんも、ぱーっとやらないと!」
妙な乾いた笑いを浮かべた都筑を座らせると、パンパンと手を叩く。

‘できるかーーーーー!’
と誰もが思ったが、口に出す者などいない。そんな言葉は心で叫べば十分だった。
誰からともなく椅子に座りはじめ・・・・ガタガタとまたもとの位置へと戻っていく。
パーティーの再開だ・・・・


ちなみに『亘理が何処に行ったのか?』
とか
『何が起こったのか』
とか
『何をしようとしていたのか』
という話題はこの時から、ばっさり、きっぱり消えてしまった。







「ほら、口の所についているでしょう! こっち向きなさい、まったく子供じゃないんだから・・・」
食べる都筑の口元を拭いてやる巽。
「あ、これ美味しい!」
と、色んなものを食べ比べては淡々と感想を言っていく密。
「ケーキもっと食べてもいい??」
と、先ほどの青ざめた顔はどこへやら、目の前の料理やケーキにすっかり心を奪われている都筑。
微笑ましい光景がその後も続いていた・・・・








今日は楽しいクリスマス。
みんなで楽しく過ごしましょう。






Merry Christmas!



2004・1・9
M・Hinase
★・・・・・・年明けて書くなよ;;;っていうものです・・・(>_<)。
まあ、こんな事があの後ありました・・・ってとこでv
日記におつき合いくださった方がありがとうございました。遅れに遅れたことお詫び申し上げます。
楽しんで頂ければそれで・・・・v