◆12月20日◆



「・・・・って訳なんだよお。ひどいだろ?俺何にもしてないのにさ!」
コポコポ・・・とビーカーの中の水が沸騰し始める音がする中、
都筑がたーっぷりのミルクと砂糖を入れた珈琲を飲みながら文句を言っていた。
その声を背中で聞きながら亘理も自分のカップにも珈琲を注ぐ。
始業時間が過ぎて間もなくやってきた都筑は、
もう小一時間以上ここで巽への不満をこぼしている。
大した喧嘩ではなかったはずなのに、あの後巽はまた忙しくて都筑はろくに顔を合わせてなかった。

 
「うーん、片方だけの言い分じゃ良くわからんけど・・・・お前が何か余計なこと言ったんと違うか?」
「えー?何も言ってないよ!俺はただ本を買っただけだもん。」
「買ってもらったんやないの?」
「自分で買ったんだよ。ずっと探してた本だったし・・・・」
「なら、別に理由はないか・・・。」
「だから、変だって!もうずっとイライラしてるんだよね〜忙しいの分かるけど・・・・」
都筑がもう一杯珈琲を注ぐ。
「うーん、まあ、ようわからんけど・・・・巽のイライラはいつものことやし・・・・この時期はあいつも超多忙やろ? そこの所差し引いて、今回はお前が折れたら?」
「でも・・・・」
まだ不満なのだろう、口を尖らせて珈琲を飲む都筑を見ながら亘理も2杯目を注ぐ。


なんかもう、いい加減にして欲しいと亘理は思う。
本当は誰よりもお互いのことを想い合っているのに、些細なことでいつもすれ違う。
その大半が取るに足らない今回のような理由。
都筑にはああ言ったが、まあ都筑の態度というか何か言動が巽には気にくわなかったのだろう。
のほほんとしているところが災いしてこの男はよく人の地雷を踏んだりする。
巽も巽で普段は何事も冷静に処理するくせに、こと都筑が絡むと本当に小さいことでも気にして、傷を大きく広げる傾向にある。
もう何度もそんな場面を見てきた。そして自分をはじめ周囲は振り回される・・・・。
今までのことを思い返しても、どっと疲れの出るように感じて椅子に座り込んだ。
今回のことでも、もう知りたくもない・・・・どうせいつの間にか元に戻るのだ。
その繰り返し・・・・・今頃はきっと巽がどうやれば都筑の機嫌が戻るか・・・・そればかり考えていることだろう・・・・・。
「あほらし・・・・」
ぼそっと小さく呟く。
「え?何か言った?」
「あ?いや、何でもない!」
慌てて手を振る亘理は、本当に?と睨みつけてくる都筑の視線を笑って誤魔化した。



バーン!!と、大きな音がホケカンに鳴り響く。
突然の音にひっ!、とドアを見た2人が見たものは、もう誰が見ても『怒っています!』状態の密だった。
「ひ、ひそか・・・・」
「てめー、何考えてやがる!」
怒鳴り声を上げながらずかずかと入ってくる密に都筑が思わず立ち上がる。
「あ、あの・・・」
「遅刻してきたと思ったら、さっさといなくなりやがって、今何時だと思ってんだ!この馬鹿!仕事ほっぽり出して、なに珈琲なんか優雅に飲んでやがる!ああ?」
「あははは・・・密も飲む?」
あまりの剣幕につい笑ってしまう都筑に、密は益々不機嫌になっていく。
・・・・あかんて、都筑・・・・・亘理は頭を抱えた。
「都筑。」
「は、はい!」
「昼、抜きだ。」
「ええっー?! それはひどいよおー。」
「うるせえ、さっさときやがれ、このボケ!今から夜まで書類書きだ、わかったな!」
「・・・・・」
涙を一杯に溜めている都筑と仁王立ちの密。
お互いの年齢を入れ替えた方がいいのではないかと思える光景に、ただただ亘理は無言で見ているしかなかった。
「亘理さん。」
「は、はい?」
「こいつ連れて行きます。」
「あ、どうぞ〜お好きなように!」
「わたりー!!密、ちょっと待ってよ!」
「煩い!」
「あ、ちょっと痛いってば! わたりぃ〜助けてぇ〜!」
ずるずると引きづられながら、亘理の名を呼び続ける都筑に亘理は笑って手を振った。
「頑張れやぁ〜!」


「あーこわっ!」
2人の声が遠くに去って行くのを聞きながら、ほーっと胸を撫でおろす。
一瞬自分にも何かあるのかと思ってしまった。
「しっかし、坊のやつ・・・・最近巽に似てきたような気がするんやけど・・・・」
はて?気のせいか、亘理は首を傾げる。
・・・・・まあ、あの都筑のお守りをやろうとすればみんなああなるのかもしれない・・・・・。

「さて、これでようやく実験に取りかかれるわ。」
机の上のカップを片付けようと都筑のいた席に近づく。
と、そこに一冊の本があるのに気付いた。

【美味しいケーキを作ってみませんか?】

中をパラパラとめくる・・・・色鮮やかな写真が目に入ってくる。
「・・・・・・」
亘理はそれを持ってしばし立ち尽くした。
・・・・都筑の本やろうな・・・・
途端にやな予感がしてきた。
「観賞用・・・・ってことはないよなあ・・・・」
ははは・・・・と一人で笑う。
そして大きく溜息・・・・。
「やっぱりやるんかい・・・・都筑。」
毎年毎年・・・・これも繰り返されることだった。

クリスマスまであと5日。

to be continued・・・・

2001・12・20
M・Hinase

★本当は軽い亘都をやろうかと思っていた2話。
久しぶりに書いたら本当にただの同僚になった・・・・・。
相変わらず妙な話し方をするうちのわたりんですが、
大目に見てねvv