「雨だ・・・」
小さい呟きに邑輝は目を開けた。
ベッドサイドの灯りにぼんやりと照らし出される部屋。
眠るつもりはなかったが、ほんの少しの間夢を見ていたような気がする。
・・・深い深い闇・・・・落ちていく時感じた快感は夢だったのか・・・

窓に当たる音は風を伴い次第に強くなってくる。
邑輝は身体を起こし隣に横たわる背中を見つめた。
「起きていたんですか。」
「うん・・・」
薄暗い光に照らされる背中は白く艶めかしい。
そっと手を伸ばして撫で上げれば、僅かに力が入る様が愛おしい。
「・・・・・・・・・」
言葉が繋がらないままに涙声になっている彼の背中を邑輝は抱きしめた。
何も言わずにただ抱きしめた。




邑輝の誕生日。
都筑は仲間達の目をかいくぐってやってきた。
約束をしてあったレストランで待ち合わせをして、食事をして楽しい時間を過ごした。
時々不意に邑輝が黙り込む事を除けば、いつもと同じ。
プレゼントは用意できなかったけど・・・と、ばつの悪そうに笑う都筑に微笑み、この部屋へと案内してきた。

一歩足を踏み入れれば、そこは別世界。
相変わらず豪華な作りの部屋ばかり用意する邑輝に驚きながらも、嬉しそうに笑う都筑。
屈託のない笑顔を見るたびに、何とも説明のつかない想いが抑えきれずに・・・・。
気づけば・・・・床に都筑を押し倒していた。
部屋で改めて乾杯を・・・と考えていた都筑は急な展開についていけず、ろくな抵抗も出来ないままに組み敷かれ・・・・。



身体を繋げるのは、初めてではない。
でもこの日の邑輝は言葉もなかった。
いつもは溶けてしまうような言葉を都筑に与えながら、夢のような快感の中に引きずり込む・・・・それはとても甘い世界。
しかし、今与えられるのは竦んでしまう程の冷えた瞳と冷たい手。
都筑は『怖い』という感情を久しぶりに感じた・・・・。



「・・・・・風も酷いね・・・・」
床に押しつけられ、貫かれ、泣かされて・・・・力の入らなくなった身体を抱えられベッドに投げ落とされ、そしてまた抱かれた。
最初は混乱し暴れた都筑だったが途中からもう抵抗しなくなった。
それは触れた肌から感じる想い・・・・・自分にも覚えのある感情、それが分かったから・・・・。

「・・・・邑輝・・・?」
何も言わずに自分の背中を抱きしめる邑輝の手に自分の手を重ねた。
「何か話してよ・・・・。」
抱きしめる力が強くなる。まるで子供が母親にすがるようなそれに都筑は小さく息を吐いた。
「ねえ・・・・」
窓を叩く雨音が大きくなった・・・・。

「・・・・どうしていいのか分からないのです。」
「・・・・・・」
「でも・・・・・私は自分に嘘はつけない・・・・だから・・・」
都筑は目を瞑る。
身体が邑輝の熱を感じた。




願って願って、死んでまでも願って・・・・・そして出会った。
それは運命のような出来事。
一目見た時から引き合うものがあったのだと思う。
だからその手を取り、温もりを求めた。
ぽっかり空いたままの心の空洞、それを感じたくて・・・・感じたくなくて。





愛しくなればなる程に
抑えきれない想いが渦巻く・・・・・暴れる身体を押さえつけ服を剥ぎ、顔を歪ませてでも手に入れたいもの。
いくら掴んでも掴みきれないその存在が憎らしくて辛くて・・・それでも愛して・・・・時々狂ってしまいそうになる。
涙も息も全てを奪い去って・・・・冷たくなった身体をも抱きしめて・・・。






「邑輝・・・」
都筑は身体の向きを変える。
目を瞑ったままの邑輝の頭を抱え込えこむ。
「いいよ・・・・おまえの与えてくれるものなら・・・・」
なんでも、この身体で受け取る・・・・。
それが出会った時からの約束、特別な言葉があるわけではないけれど。



「もう一度・・・・」
都筑が囁く。
今度は優しく・・・・いつものように・・・・と。
再び見上げた邑輝の瞳の中に自分がいることを見て都筑が微笑む。
その微笑みに邑輝が口づけを落とした。





いつの日か

もう 戻れなくなっても

後悔だけはしない・・・・・

ふたりが共に存在することだけが

ふたりが共に消えてしまうことだけが唯一の望み。




やがて

雨音に都筑の声が重なる時

邑輝はその身体を再び強く抱きしめた。

他の誰も存在しない、ふたりだけの世界が

ずっと

続くようにと願いながら。



2002・12・4
M・Hinase