BIRTHDAY

「ちょ、ちょっと待ってください!」
「えー! 何だよ。」
大きな食料品店の一角、調味料の棚の前でふたりは向き合う。
都筑の手にはわさびが握られていた。
「・・・・・今日のメニューは確か・・・」
「もお、何回言ったら分かるの! シチューにサラダ!それにケーキを焼くんだよ!」
「・・・・ですよね・・・・。」
都筑は何なんだよ・・・と呟きながら、わさびをかごに入れる。
「あ、だから都筑さん!」
巽がかごを掴む。
「何?」
歩き出そうとした都筑はムッとして振り返った。
「その・・・・わさび、何に使うんです?」
「これ?」
「ええ。」
どう考えても今日のメニューに必要のない物だと思う。
「ああ、ちょうど切れてたなあ〜とか思ったから・・・・だけど」
「あ、そうですか・・・・私はてっきり」
「てっきり・・・・何?」
「あ、いえ。」
「何だよ〜さっきから・・・・俺が手に取るの片っ端から文句をつけて! 買い物ぐらい自由にさせろよ!」
「はあ・・・・。」
買い物ぐらいって・・・・巽は苦笑する。
「変な奴・・・。」
そんな巽に首を傾げつつもすたすたと棚の間を歩いていく都筑の後ろ姿に、巽は大きく息を吐く。
「今日は俺が作る約束だからね!」
そう嬉しそうに都筑が笑って、何となく足取りの重い巽と共に開店と同時に店に入ってから30分近く経っていた。



28日土曜日。
昨日から泊まり込んでいた都筑は珍しく朝早く起きて買い物に行こうと巽を急かし、出掛けてきた。
本当は誕生日は昨日だ。しかし、豪華な物を作りたいと都筑が主張するので、誕生日のご馳走は今夜作ることとなった。
そして作るのは都筑・・・・・先日、他の課の女子職員のお弁当を食べる所を見られてしまい、拗ねた都筑を宥める為の苦肉の策だった。

・・・・何であんな事を言ったんだ・・・・
巽は頭を振る。

つい・・・とはいえ、軽々しくもこんな事を口にした自分に腹が立つ。
出来ることなら1週間前に戻って、自分を怒鳴りつけてやりたいぐらいだ。
もうさっきから都筑は色んな物を手に取っている。
そんなもの何に使うのか・・・・と、問うのも何回目か。
その度にそれならこちらが良いんですよ・・・・とアドバイスをと言いながら軌道修正をしつつ・・・。そんなこんなでかなり長い買い物時間になっていた。
でも問題はそこではない。
いくら普通のものを使っても、調理が問題だった。
あの都筑の手にかかればどんなものでもすさまじい味になるのは明らか。
ふと巽は遠い目をしてしまう。

・・・・明日の朝日が拝めないかもしれない・・・・
そんなことまで考えてしまう。
溜息をつきつつ、先の方でまた何かを見ている都筑の元へと行こうとした巽は視界の隅に小瓶を見つけた。
・・・・これはどこかで・・・・
と、それを手に取る。記憶をたどる。
・・・・あ、あれか・・・・
それは以前、亘理に貰った小瓶とそっくりだった。
もう1年ぐらい前になるだろうか。

『これ使こうたら・・・・・』

亘理のセリフが蘇る。
その時は、こんな物使わなくても・・・・と思ったものだが、捨てるのももったいない気もして、しまい込んだままだった。
確かまだそのままのはずだ。

巽の頭にあるひとつの考えが・・・浮かぶ。
それはこの状況を変える可能性があるものだった、大いに。
でも・・・・でも・・・・巽は自問自答を繰り返す。
あの男の思惑通りに動くのは癪に障るし、何も知らない都筑を騙すようで、心苦しい。
しかし、現実問題としてあの驚異的に味に晒される我が身のこともある。
・・・・・どうしたもんでしょうね・・・・
立ち止まったまま動かないに巽を呼ぶ声に手を挙げながら、その小瓶を元に戻した。





「わあ〜出来たね!」
すったもんだの買い物を終えて戻ってきたふたりは、ほぼ予定通りのメニューをこなした。
何でも自分自身でやりたがる都筑に出しゃばりすぎないように、機嫌を損ねないように口を挟みながらも、巽は買い物途中で思いついた考えに頭の中はいっぱいだった。
迷った・・・・考えに考えて・・・・・。
でも何回か味見をした結果・・・・・決心した。
今巽のポケットの中には例の小瓶が入っている。

「ね、美味しそうだよね。」
巽を見てにっこり笑う都筑に、巽も微笑み返す。
「そうですね・・・・。あ、そうそう食べる前に・・・・」
都筑を座らせる。
「巽?」
「先日作った果実酒があるんですよ、どうですかちょっと味見してみませんか?」
「え? 果実酒? 飲む飲む!じゃあ、それで乾杯だね!」
「では用意しましょう。」
二つのグラスを用意して・・・・都筑の視界から隠すようにして小瓶から一滴、二滴垂らし・・・・そこで動作が止まる。
・・・・・どれくらい入れればいいかわからない・・・・
手渡された時に言われたような気がするが、どうせ使う気もなかったので適当に聞き流していた。
・・・・・まあ、大丈夫でしょう・・・・
と、もう一滴落とす。
そして間違えないように最初に都筑に渡す、その後自分のを手に取った。


「誕生日おめでとう!」
少しだけグラスを掲げる都筑に微笑む。
こうも無邪気に笑われると、どこか心が痛む気がするが・・・・この際そんなことを言ってはいられない。
「ありがとうございます。」
巽もグラスを掲げる。
そして・・・・・・・・都筑が一気に飲み干した。

「美味しい!」
飲んだ瞬間に都筑が叫ぶ。
「もう一杯どうぞ。」
グラスをとり、同じように垂らして・・・・渡す。
「巽も飲もうよ!」
そう言いつつぐいっとまたもや一気に・・・・・。
巽は心の中で万歳三唱状態だ。
多少入れすぎた・・・様な気がするが、まあ害はないだろう。
巽は都筑の変化を見守った。



「あれ?」
空のグラスを置きながら、心なしかとろんとした都筑が息を吐く。
「どうしました?」
心配そうに声をかける。
「んーなんか暑い・・・かな。」
「暖房がキツイですかね・・・・・ちょっと待っていてください。」
巽はリビングへ向かい、空調を調節する。わざと少し時間をかけた・・・・。
「すみません・・・・都筑さん。」
壁に向かって一人で呟く。
・・・・責任はとりますから!・・・・


「巽・・・・」
呼ばれた声に振り返ってみると、ふらふらと都筑が部屋に入ってきた。
「どうしたんですか、気分でも悪いんですか?」
「なんか・・・・変・・・・」
そう言いながら巽に抱きついてくる。
「都筑さんっ」
巽は驚く振りをしながら、計画が上手くいったことにほっと一息ついた。
「俺・・・・なんか・・・・おかしいよ。」
「どういうふうに?」
「・・・・・なんか暑くて・・・・」
都筑はしがみついてくる。
「暑くて?」
「・・・・・」
次の言葉が言えず、黙り込んでしまう都筑に巽は微笑んだ。
「・・・・・部屋に行きましょうか?」
心の中でガッツポーズをしつつ、都筑をいたわる。
「熱を冷ましてあげますよ・・・・」
耳元で囁くと、都筑の身体がビクッと揺れた。
「たつみ・・・・・」
もうそれしか言えない都筑を抱きかかえた。






ふたりが寝室に消えたあとテーブルの上では数々の料理が残された。
果たしてこの料理がどうなったのかは・・・・・巽しかしらない。

確かなのは巽の誕生日が、都筑三昧で終わったということだけ・・・・。
2日間、ふたりが家から一歩も外に出ることがなかったとか、
月曜日、身体を引きずるように登庁するふたりの姿があったとか・・・・・。

2002・12・27
M・Hinase

★・・・・・・これを誕生日お祝いにするなんて・・・・良いのでしょうか? って、いいも、悪いもUPしちゃってるし;;
巽・・・・・酷いよ、アンタ(>_<)。
なんかねえ・・・・。
え・・・一応補足ですが、これは先日リクエストSSでUPした「仲がいいほど・・・」の内容を受けています。

で、薬の量が多すぎて、結局大変な誕生日だったのではないかと・・・・ええ、そう思いますわ;
おめでとう巽!(本当に祝っているのかは疑問;;)