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「クリスマスのお祭りも今日で終わりやな〜」
25日の昼下がり、亘理の研究室でお茶をすすりながら菓子を頬張る都筑を見ながら亘理が窓辺に立った。
空はどんよりとした冬空で今にも雪が降ってきそうな天気だ。
「そうだねえ〜今年は何か地味だったよね、うちは。」
両手を温めるように湯飲みを抱えて都筑が呟く。
3日前から課長が急な出張でそれに巽も同行し留守をしていた。
お祭り好きの召還課の職員達はそれでも例年通りクリスマスパーティーをしたのだが、いつも忙しいと言いながら料理を作ってくれる巽やスポンサーの課長が不在のために、全て出来合いのオードブルで済まし、ケーキもようやく一切れずつ行き渡る程度の大きさ。
お酒も思うようには揃えられず色んな意味で不満の残るパーティーとなった。
「まあ、またすぐ年始めで飲めるんだけどね〜。」
ふーっと熱いお茶を冷ましながら都筑が笑った。
その言葉に亘理が振り向く。
「その前に大切な日があるやろ?」
「え?」
「おいおい・・・忘れたとか言うんやなかろうなあ。」
「大切な日って?」
・・・あれ?そう言えば何か忘れているような気がする・・・・何か大切なこと・・・・。
その小さな表情の変化を亘理は見つめる。
「・・・・ほんまに覚えてないんか?」
「・・・・うん。」
不安そうに頷く都筑を見て亘理は冗談ではないと分かると真面目な顔で都筑の前に座った。
「変なこと聞くようやけど・・・・おまえなんかあったんか?」
「何かって?」
「つまり・・・・巽と喧嘩とか・・・・」
「ううん、してないよ、最近は。」
頻繁にほんのちょっとした事ですれ違う2人の事は周囲も気にしていることだ。
部屋の雰囲気も変わるし、仕事もやりづらくなってくる。
「うーん・・・・・」
ぶんぶんと首を振る都筑を前に亘理は唸った。
でも今回は特に喧嘩もないと言う・・・・でも何かが違うような気がする。
亘理は、もう一つ聞いて良いか?と尋ねる。
「・・・・・おまえ邑輝と会ったか、最近。」
都筑が息を飲む音が聞こえた。
何回聞いても慣れない名前だ。
めったに皆口に出すことはないけれど、いつも頭の隅にある。
都筑と邑輝の関係・・・・そして巽との関係・・・・。
「何でそんなこと聞くんだよ。」
「会ってないんか?」
「会うわけないじゃん!何で俺があいつと会わないといけないんだよ。」
不快だと言わんばかりの都筑の様子に亘理はまた溜息をつく。
都筑は嘘をつくのが下手だ・・・・だからすぐ見抜くことが出来るのだが・・・・。
「会ってないんやな。」
「しつこいぞ亘理!」
怒鳴りながらも、尚も自分を見つめてくる亘理に都筑は何かもやもやした感情でいっぱいになる。
変にムキになっている自分がいるのは分かっている。
邑輝のことになると過剰に反応する自分がいることも・・・・でも、会っていないのに、嘘はついていないのに、妙に後ろめたさを感じるのは何故だろう。
都筑は席を立つ。
「部屋に戻るよ。これ、ごちそうさま。」
湯飲みを机の上に置くと出ていこうとドアに手をかける。
いたたまれない雰囲気だった。
「都筑。」
亘理の声に立ち止まる。
「27日・・・・巽の誕生日やろ。」
「えっ?」
はっ、と都筑は振り返る。
「巽の・・・・」
明後日27日・・・・12月27日・・・・巽の・・・・。そうだ・・・・毎年楽しみにしていた日・・・・。
でも、何で思い出せなかった・・・・?
「誕生日・・・・」
声にならないくらいの声で呟く。その瞬間、頭の中が真っ白になる。
視界の中の亘理が斜めになった。
「都筑!」
自分を呼ぶ亘理の声に返事が出来ないまま都筑は床に崩れ落ちた。
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「で、どうなんだ都筑の様子は。」
26日の夕方、出張から戻ってきた巽達は都筑が倒れたことを知らされた。
駆けつけた巽が見たものは、昏々と眠る都筑だった。
付き添っていた亘理に事の経緯は簡単に聞いたが、それだけでは何とも判断出来ず、都筑の目が覚めぬままに今に至っていた。
「検査でも特に異常な所は発見されていません。まさしく眠っている・・・・というだけです。亘理さんが言うにはもうしばらくすれば、目が覚めるのだろうということです。」
巽は聞いたばかりの様子を伝える。
「引き続き検査は行うようです。2,3日様子を見ては・・・・とのことですが。」
「そうか・・・・おまえも疲れただろう、今日はもう帰ればどうだ。」
近衛が巽を労う。出張から戻ってそのままこの騒ぎだった。
壁の時計は既に10時を回っていた。
「いえ、今、黒崎くんが都筑さんについていますので、彼と交代しようかと・・・」
「そうか・・・・まあ無理するな、おまえまで倒れたら大変だからな。」
「はい。」
部屋を出て保険管理室へ向かう。
自分の足音だけが響く・・・・・その音を聞きながら、巽は考えていた。
あの日・・・・都筑が邑輝に連れ去られた日から、こんな日が来るような気がしていた。最初の内は記憶を失っている都筑の行動を警戒していたが、つい年末の忙しさに振り回され、気が抜けていた。
亘理の話だと都筑は巽の誕生日を忘れていたという・・・・毎年、毎年煩いほど大騒ぎしてまとわりついてくる姿が目に浮かんだ。それなのに今年に限って忘れるなんて妙な話だ。
どうやら「誕生日」という言葉を聞いた途端に倒れたらしい。
・・・・ちっ、あの変態め・・・・
都筑の記憶を操作している時から何かあると思っていたが、こんな形で余興を楽しむつもりなのかと、腹が立ってくる。何処までも自分を馬鹿にしている。
あのカンに触る笑い方が聞こえてきそうで、巽は頭を振った。
自分の感情は今はいい。
それよりも都筑の方が心配だ。記憶が戻ったら一番戸惑うのは彼なのだから。
とても嫌なことで悔しいことだが、これからが問題なのだから・・・・。
「都筑さん。」
付き添っていた密を帰して、ベッドの横に座る。
もう丸1日以上眠り続けている都筑を見ていると、もう二度と目を開けないような気がして、怖くなる。
いつも肝心な時に側にいてやれないようで、自分がとても非力に思える。
今もこうやって都筑が目覚めるのを待つだけだ。
「都筑さん・・・・」
もう一度呼びかける。黒髪を梳く。
いつも魅惑の色をたたえている瞳は閉じられ、幼い顔になる。
こんなにじっくりと寝顔を見たのは久しぶりのような気がした。このところの忙しさは例年通りとはいえ、休日もない程だった。それに急な出張・・・・。
それでも何とか26日中に帰ってきたかった。
自分ではそんなに気にしていなかった日だったが、
都筑が『大切な日』と言ってくれたから、
2人で祝う数少ない日だから、
この日だけは2人で過ごそうと決めていて・・・・・。
それなのに都筑は邑輝によって、その日さえも忘れてしまっていたのだ。
改めて邑輝に対する怒りを覚える。
自分はいい、でもそのことで傷つくのは都筑だ。
このことで忘れた記憶が戻るのだろう。
あの日・・・・おそらくは邑輝の誕生日に、2人に何があったのかは分かっているつもりだ。彼の身体から香る香水と赤い痕が物語っていた。
確実に・・・・あの男は入り込んできている。
都筑の中に
そして2人の中に・・・・・。
「う・・・・ん」
漏れた声に髪を梳く手を止めた。
「都筑さん!都筑さん!」
大きな声で呼びかける。少しだけ首を左右に動かして、瞼が震える。
「都筑さん!」
もう一度呼びかけた声に都筑はうっすらと目を開けた。
「あ・・・・」
「分かりますか?都筑さん!」
その声に首を動かす。
「た、つみ・・・・?」
「良かった・・・・・もう大丈夫ですよ。」
「巽・・・・・俺、どうしたの・・・・」
「倒れたんですよ、もう1日以上眠っていたんですよ。」
「倒れて・・・・?」
都筑が目を瞑った。
亘理とお茶をしていて・・・・・・クリスマスの話で・・・・それから、それから・・・・・巽の誕生日が・・・・
「あっ!」
「都筑さん?」
パッと開いた目が巽を見つめる。その瞬間都筑は目を瞑った。
頭の中に映像が入り込んでくる。
・・・・・・赤い薔薇
・・・・大きなケーキ
・・・・しゃれたインテリアに囲まれた部屋
・・・・ソファ
・・・・・そして自分を見つめる銀の瞳
「ああああっ!」
都筑は頭を抱える。
「都筑さん!」
上半身を起こし頭を両手で押さえて都筑は激しく身体を振りだす。
入ってくる映像はますます増えていく。
そればかりか自分の身体をはい回った手や唇の感触も思い出してきた。
身体の隅々におとされる口づけや
かけられる甘い囁き・・・・
そのひとつひとつが鮮明に蘇ってくる。
「都筑さん!」
「嫌だ、嫌だ!触らないで!」
思い出してしまった・・・・・!
そうあの日・・・・自分は邑輝に抱かれたのだ・・・・。
花とケーキにつられて、誕生日を祝って欲しいと言われて・・・・のこのこと着いていった自分を邑輝は・・・・・。
都筑は布団を頭からかぶってしまった。
「見ないで・・・・巽・・・・」
追いつめられたのは確かだが、最後は自分から邑輝を抱きしめた。
あの白い髪を胸に抱き寄せ、口づけを受けた事も事実だった。
与えられる快感に堕ちたのは自分なのだ、と。
「見ないでよお。」
邑輝のしかけた罠にまんまとはまった自分が情けなくて、そして巽に申し訳なくて・・・・。
術をかけられたとはいえ、これはあまりにも悲しかった。
布団に丸まってしまった都筑は泣いているのか震えているのが分かった。
巽はそっと布団の上から都筑をあやすように触る。
今何を言っても混乱するだけだろうから・・・とは思うが、まさかこの状態で一人にしておく訳にもいかない。
巽は根気強く無言で都筑が落ち着くのを待ち続けた。
何時間でも待ち続けるつもりだった。
もう自分の心は揺るがないのだから。
「たつみ・・・・・」
しばらくして、くぐもった声が聞こえる。
「はい。」
「・・・・・ごめん・・・・」
「何で謝るんですか?」
「・・・・・俺・・・・俺・・・・」
「何も言わなくても、いいですよ。分かってましたから、大丈夫ですよ。」
その言葉に都筑がガバッと布団から顔を出す。
巽の顔を見つめる。
「分かっていたって・・・・・あの日のこと・・・・?」
「ええ。」
「邑輝とのこと・・・・?ずっと?」
「ええ。」
淡々と答える巽に都筑は泣きそうな顔になる。
「・・・・・・」
目を瞑り俯いてしまった都筑をベッドに腰掛けながら巽は抱きしめた。
「大丈夫・・・・貴方は今ここにいるでしょう? 私の側に・・・・。」
「で、でも・・・・・俺・・・・」
「私のことが好きですか?」
えっ?と都筑は巽の顔を見つめた。
ん?と首を傾げながら柔らかかく巽が微笑む。
「・・・・好き・・・・・好きだよ。誰よりも・・・・何よりも・・・・。」
その言葉に巽は嬉しそうに目を細める。
「なら大丈夫! 私も貴方が好きですから。いくらあの男が言い寄ってきても、貴方を離す気はありませんよ。」
「巽・・・・」
「貴方も離れないでください。」
その言葉が胸に刺さる。
離れたくない、いつでも一緒に歩みたいのは巽なのに、それは自分の願いなのに・・・・どうしても消せない心の闇が邑輝を求める時がある。
「巽・・・・・うん、わかった・・・・」
離れないよ、と抱きつく。巽も力強くその方を抱きしめた。
・・・・不安はあるけど・・・・
・・・・絶対なんて言えないけど・・・・
それでも乗り越えていきたい。
「あ、巽、今何時?」
温かい抱擁の後、都筑が声を上げる。
そう言って壁の時計を見た。
27日午前0時30分。
「誕生日だね、巽。おめでとう。」
忘れちゃっていて、ごめんと小さくつけ加える。
「・・・・ありがとうございます・・・・」
2人で顔を見合わせてくすっと笑う。
辛い記憶だけどパズルのピースが揃ったことには変わりがない。あんな事があった後でも巽が変わらずに自分に接してくれていたことが、今となっては都筑は何よりも嬉しかった。
「ごめんね、今年はプレゼント、用意できなかった・・・・」
「仕方ないですよ、貴方のせいじゃありませんから。」
それに・・・・と巽は言葉を続ける。
「今欲しいものがあるんですけど。」
「え?何?」
きょとんと見返す都筑の耳にそっと巽が囁く。
「た、たつみ〜〜」
「ダメですか?」
「・・・・・・ダメってそんな、此処で?」
顔を真っ赤にして都筑が聞き返す。
「眠っている顔が可愛かったのでずっと我慢していたんですけど、もう限界ですね。」
「巽ったら・・・・・」
都筑が巽の首に手を廻す。
「いいよ、あげる・・・・。」
たくさん、たくさんあげるよ・・・・小さく小さく都筑は呟いた。
そして2人の身体はベッドへと沈み込んでいった・・・・・。
Happy Birthday TATSUMI
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