Gift

「都筑ちゃーん!」
若葉の呼ぶ声に亘理と雑誌を見ていた都筑が顔を上げる。
「なに?」
「なんか大きな荷物が都筑ちゃん宛に来ているみたい。」
「え? 俺?」
誰からだろう・・・・都筑は立ち上がる。
「係の人がね、邪魔になるから早く持っていってくれって伝言頼まれちゃって・・・。」
「あ、そうなんだ。うん、わかった、今から行くよ。」
都筑は早足で部屋を飛び出していった。

「荷物って?」
自分も見に行こうと都筑の後を追いかけようとした若葉を亘理が呼び止めた。
「ちらっと見かけたけど・・・かなりの大きさだったわよ。」
「へえ。」
「そうねえ、ちょうど人の大きさぐらい。」
「俺ぐらいとか?」
「うん、もう少し大きいかも・・・細長い箱だったけど・・・・結構重いって。」
「俺も見てこようかな。坊もいかへん?」
読書をしている密に声をかけた。
さっきから興味のない振りをしていても耳がこっちを向いているのが亘理には分かっていたから。
「またですか・・・・」
ちょっと面倒くさそうに密が答える。行きたいけれどすぐに立ち上がる事には抵抗があった。
「おもしろそうやん、何が入っているか見にいこうや!」
「・・・いいですけど・・・」
少しだけ躊躇う振りして密が立ち上がる。それを亘理は面白そうに見ていた。




「わああああ〜」
玄関の入り口近くまで来た時に都筑の声が聞こえた。
思わず亘理と密は顔を見合わせ、走り出す。
2人が辿り着くと
「ど、どうしたの?」
側にいる若葉が箱を押さえ込んでいる都筑に声をかけていた。
「お、おいどうしたんだ。」
顔色が真っ青になっている都筑に密も駆け寄る。
「ひ、ひそか・・・・」
「何情けない声だしてんだ?」
「中、見たん?」
亘理は若葉を振り返った。
「ううん、私はまだ。都筑ちゃんが開けた途端、叫んだから。」
「おい、都筑、何が入ってたんだ?」
密が都筑を箱からどかそうとする。
「や、やめ・・・・見ない方が良いと思う。」
「おまえなあ・・・・いいから、どけ!」
「でも・・・・」
「そもそも誰から?」
「そうだ、誰からの荷物なんだ?」
密の問いにふるふる・・・・と頭を振る都筑。
「なんか・・・・完全に怯えてないか?」
「都筑ちゃん・・・」
「どけって!」
密が力づくで都筑を押しのける。
「坊、見かけによらず力あるなあ。」
「なに感心してんですか、ほら、亘理さんそっち持ってください。」
「はいはい。」
「開けない方がいいって!」
少しずつ箱から遠ざかりながら都筑が叫ぶ。
「煩い、お前は黙ってろ!」
「ほんま、坊って・・・・・」
「・・・・結構重いですね、いいですか、そーれ!」
ガタっ・・・・・ふたが開いた。



「うっ・・・・」
「まあ〜。」
「ほおおおお・・・」
中を見た瞬間の3人の感想だ。
騒ぎを聞きつけた職員も玄関口に集まってきた。
「うわっ」
「なんだこれ・・・」
「すげえなあ」
みな口々に感想を漏らしながら、その中身ともう30mは遠ざかった都筑を交互に見る。
「俺を見るなー!」
そんな様子に遠くから叫ぶ都筑。
「見るなと言われてもな・・・・これお前へのプレゼントやし。」
亘理が中身を突っつきながら呟く。
「ねえ、これ作り物?」
ワクワクした感じの若葉が亘理の後ろから覗き込む。
「閂さん、あまり見ない方がいいですよ、そんなもの。」
心の底から悪い物を見た・・・という風に密は答えた。
「えーでも、すごいわよ。始ちゃんも呼んでこようかな。」
「見ても喜ぶとは思えんけど・・・あ、来た来た。」
「何です、何の騒ぎですか! ほらっまだ休憩時間じゃないでしょう、皆さん持ち場に戻ってください。」
そこで、顔色の悪い都筑に気づく。
「・・・・何してるんです、柱の陰に隠れて・・・」
「ねえ俺、早退していい?」
「は? 何馬鹿な事言っているんですか、やりかけの書類仕上げてからそんな事は言いなさい。それに今日はあなたの為に飲み会があるでしょう?」
「いや・・・・でもそんな気分じゃ。と、とにかくおれホケカンへ行く・・・・。」
「あ、ちょっと待ちなさい、都筑さん! またそうやってサボって・・・」
「お〜い巽!面白いのあるで〜来てみ。」
走り出した都筑を追いかけようとした巽の背中に、亘理が声をかける。
「なんなんです、一体・・・。閂さんまで・・・・」
「いいから、この箱の中。」
手招きをする亘理を見て、ふう・・・と息を吐きながら、巽が箱に近づいていった。


「随分大きな箱ですね・・・・・・何が・・・・うっ。」
巽が絶句する。
「おもろいやろ〜。」
「こ、これは・・・・・」
ふたにかかったままのリボンを見る。明らかにプレゼント、そして誰宛かもはそのものが握っている花束のメッセージカードで分かった。
勿論これを見た時点でそんなものを見なくても誰宛かは子供でも分かりそうだ。
「・・・・・なんて悪趣味な・・・・」
「まったくです。」
巽の呟きに密が大きく頷く、その目には怒りさえ見られる。
「・・・・どうする?」
「・・・・何がです。」
「いや、これ・・・・まあ貰ったのは都筑やし、都筑の好きなようにすればいいけど。」
「好きなようになんてするわけないでしょう、さっきの様子見たでしょう? 真っ青になって逃げたじゃないですか。」
「いやあ〜照れかもしれんし・・・・」
「馬鹿ですか、アンタは!・・・・・ああ、こんなとこでこんな物のために言い争っても無駄です。」
はあ、っと気持ちを落ち着けるために巽は深呼吸をした。
「閂さん、保安課の人呼んできて貰えます?」
「え? あ、はい。」
たたたっと走り出した若葉の背中を見送って亘理が顔を上げる。
「保安課? これ爆発物とは違うみたいやけど?」
「庁舎内に入れる事自体汚らわしいです。このまま保安課の野外演習場にも持っていって貰いましょう。」
「演習場?」
庁内に置いても結構受けるんじゃないかなあとか思ったがさすがにそれは口に出さなかった亘理だったが、巽の言葉に首を傾げる。
「的にはちょうど良いでしょう。」
ふっと、巽が笑う。
「・・・・・おいおい。」
どうやら射撃の的にでも・・・と思っているらしい。
それもどうかと思ったがへらっと笑っている顔が不気味なので、何も言えなくなる。
「俺、撃ちに行ってもいいですか?」
低い声で尋ねながら、密がそれを睨みつける。
「ええ、勿論。存分にどうぞ。」
「坊・・・・・」
まったくこの2人は、都筑の事になるとよく似てきたようで・・・・・亘理は両者をしみじみと見て、そして箱の中身へと目を落とした。。



かくして大きな花束抱え、ふっと気障に笑っている邑輝そのもののような見事な人形はその後演習場に置かれた。
何で出来ているのかは知らないが表面の柔らかさは人肌のようで・・・・。

こんな人形の話はすぐに庁中に伝わり、みんなが一目見ようと演習場に押しかけたが、召喚課の一人の少年の手によって、ずったんずったんにその的としての使命を全うしたらしく数日後には跡形もなかったとか。


都筑は・・・・と言うと、その後体調の悪さを訴え続けて休みを申請したが却下されたとか
その代わりに例の保護者の自宅へしばらく引き取られる事になり、そこから遅刻も許されずに毎日引きずられるように通っているとか・・・・


そんな話が出ては消え、そして消えては出て。

平和な閻魔庁の一日が今日も過ぎていくのでした・・・・・・・。






★邑輝ファンの方、ごめんなさい;;

2003・2・24
M・Hinase