・・・たつみ・・・




名前を呼ばれたような気がして巽は目を開いた。
見慣れた天井が目に入る。
ぼんやりとまだ覚めきらない視界の中
ベッドの脇に黒い塊を見つけた。

都筑さん・・・・?
自分の寝ているベッドに俯せて眠り込んでいる姿に慌てて起きあがる。
と、同時に額から濡れたタオルが落ちてきた。
巽はそれを手にとって都筑と交互に見た。
・・・・そういえば・・・・
巽は昨日の様子を思い出した。



いつもよりも怠い朝だった。
頭痛もしたが、仕事の関係上休むわけにもいかない。
気をしっかり持てば大丈夫、そう思いながら勤務を続けた。
帰る頃にいつものように都筑が課長室にやってきて・・・
『明後日は何の日だか分かる?』
とか
『食べたい物はね・・・』
とか・・・・色々言っていたが良く聞こえなかった。
その頃にはもう頭痛が酷くて頭を振る事さえも辛く・・・・
そして・・・・そこから記憶がなかった。
都筑に何を話したのか覚えてもいない。
・・・けれど、きっとあまり好ましくない事になったのだろう・・・今、此処に自分が寝て、都筑が側にいる事がそれを示していた。


「あ・・・・たつみ?」
都筑がぼんやりした目をして顔を上げる。
「あ、何してるの!ダメじゃん、起きあがっちゃ!」
状況を理解した都筑が慌てて巽を寝かそうと肩を押した。
「もう、大丈夫ですよ。気分も良いですし。」
「ホント? どれどれ・・・」
都筑は手を巽の手に当てた。ひんやりした感触が気持ちが良い。
「・・・・まだ少し熱いよ? ほら、寝て!」
「これぐらいは」
「だ〜め! 今無理したら、また倒れるよ。昨日大変だったんだから・・・。」
「・・・・」
「覚えてないだろう?」
少しだけ自慢げに都筑が言う。
「・・・ええ、何も・・・」
「だろうな、昨日話しかけたらそのまま俺の方に倒れかかってきてさ。ビックリしたよ。あんなに具合悪いのなら休めば良かったのに・・・・俺ならちょっと熱があったらラッキーって思うのにな。」
その言いぐさに巽が溜息をつく。
「あなたと一緒にしないでください。色々と忙しかったんですよ。」
「でもさ・・・やっぱり良くないって! 休み時は休む、遊ぶ時は遊ぶ! そして働く時は働く!これだよ、基本だって。」
「・・・・・あなたからそんな事を説かれても・・・・」
巽が苦笑する。
「なんだよ!」
「・・・・いえ、いいですけど。それより・・・・・ずっと此処に?」
「あ? 俺? うん、巽を運んできて、寝かせてから。」
「それは・・・・」
すまなそうな顔をした巽に都筑は微笑む。
「いいんだよ、お互い様だし。それに・・・」
「?」
「早く良くなって貰わないと、ね。」
「明日のご馳走がなくなるって?」
「え?」
図星らしい表情に、くすくすと巽が笑った。
「ば、ばか、俺は心配して・・・」
「はいはい。」
「ホントだぞ!」
「はいはい。」
「返事は1回だよ、まったく・・・・・」
ぶつぶつと、俺はそんなつもりじゃ・・・・・とか言うのがおかしい。

「幸いに今日は日曜日ですからね、ゆっくり休ませて貰いますよ。そうすれば明日は大丈夫です。」
再び身体を横にする。その様子に思い出したように、都筑が軽く手を打った。
「あ、そうそう!明日休みだよ、巽。」
「え?」
「課長がね、有給使えって。俺が届けも書いといたよ。」
「・・・・・・そんな勝手に・・・」
「こんな感じでとらないとお前は休まないだろう? 課長が命令って言ったし、俺もその方が良いって思ったし。だから休み。」
「でも・・・」
「でもはなし。ほとんど使ってないんだね、ビックリだよ。俺なんてもうないのに・・・」
そりゃあ、ないだろう・・・・と巽は心の中で呟く。
「・・・・・だからあなたと一緒にはしないでと・・・・・ま、今回は命令を受けておきましょうか。」
「うん、ゆっくりしてろって。」
そして都筑は巽の肩にしっかりと布団を掛けてやった。


「・・・・・働き過ぎだよ、巽は。時々心配になる。」
ポンポンと布団の上から軽く叩きながら都筑が溜息をつく。
「都筑さん。」
「ごめんね、俺が余計忙しくさせていただろうし・・・。さっきの事は本当に・・・・明日もゆっくり休んで。」
いつもいつも自分の仕事の後始末に駆け回っている事くらい知ってる。
「別に大丈夫ですよ・・・・ただ確かに休んでませんからね・・・。それよりも・・・」
巽は都筑へと手を伸ばす。
軽く腕を握った。
「たつみ?」
「ここであなたも休みなさい。」
「え? いいよ!」
「あまり寝てないでしょう? 目が赤いですよ? さ、都筑さん。」
確かに寝不足の身体には魅力のある提案だった。
「でも・・・」
「ほらっ。」
「・・・・・・いいの?」
「私が頼んでいるんです。」
「じゃあ・・・少しだけね・・・」
都筑が上着を脱いでいそいそとベッドに入り込む。
そっと都筑の身体を巽の腕が包み込んだ。

「狭くない?」
「ええ、大丈夫・・・・・温かいですね。」
「そう?」
「ええ、あなたは?」
「俺も・・・・・なんかとっても安心する。まるで1日早くプレゼントをもっらたようだ。」
気持ちよさそうに都筑は目を瞑った。
「おや? じゃあ明日は何もいらない?」
その言葉に、え? と都筑が起きあがる。
「いや・・・それは・・・ねえ?」
縋るような目つきに巽が笑った。
「くすくす・・・・分かっていますよ・・・・だから・・・・」
もう一度都筑を抱きよせる。
都筑も巽の身体に腕をまわした。
互いが与える温かいぬくもりに2人の身体は包まれていって・・・・・・。




明日は美味しい楽しい誕生日が待っている。
だから今は、静かにお休み・・・・今日も素敵な一日となるように。


★甘いですか?

2003・2・24
M・Hinase