「贈り物」
| 「わああ!」 都筑は横合いから出てきた人影に思わず声をあげる。 危うく後ろにひっくり返りそうになった。 「都筑さん! これはこれは奇遇ですね。」 「邑輝っ!」 慌ててしがみついた電柱に手をかけながら都筑は態勢を立て直す。 「奇遇ってお前、昨日も・・・」 「いやあ、2日続けて会えるなんてやはり運命の人です。」 「その前も会ったじゃないか。」 「ああ、そうでしたね。ではより強い絆で結ばれているんですよ、私たちは。」 にっこり笑って、真っ昼間からとんでもないことを口走る男に言葉が出ない。 都筑は引きつった顔で邑輝を眺めた。 想えば昨日も・・・ 一昨日も・・・ その前も・・・ 地上に出るのを見ていたかのように現れる。 いや、たぶん何処かで見ているのだろう。 今日は此処に来る予定はなかったはず・・・・それを急な使いを巽に頼まれてきたのに・・・。 一体この男の情報網はどうなっているのだろう、聞いてみたいが聞いても答えてはくれないだろう。 「・・・は、・・・・ですね。」 「は?」 つい邑輝の行動について考え込んでしまい、話を聞いていなかった。 「何?」 「ひどいですね・・・上の空ですか?」 「何だよ。」 「・・・・明日はバレンタインですよねv」 言葉の後にしっかりハートマークが見えるような口調で邑輝が微笑む。 「ああ、そうだな。」 「楽しみにしていますよ。」 「ああ?」 なんで? あれは女性から男性に・・・の行事だろ、と言葉を続ける。 「都筑さん・・・・」 その言葉に少しだけ悲しそうに邑輝が呟いた。 「愛しい人にだったらどっちでも良いんですよ。要は心です、真心です。」 「・・・・・お前が言うとなんかやだな。」 「そんな!」 「・・・で、なんで俺がお前にやらないといけないんだよ。」 「欲しいからです。」 「・・・・」 「くれないんですか?」 「・・・・・お前は一杯もらうだろ? 何も好き好んで男の俺から貰わなくてもいいじゃないか。」 「都筑さんからのは特別です。」 「何が?」 「愛が込められていますから。」 「・・・・・・」 うっとりと訳の分からない事を言い続ける邑輝を見て溜息をつく。 「・・・・・いつ、お前に俺が愛を」 「え? 違うんですか?」 「・・・・・ないだろう・・・・どう考えても。」 「長崎でデートしてくれたではありませんか!」 「あれはお前が無理矢理・・・」 「豪華客船も乗りましたね・・・」 「あれは偶然だろう。」 「熱い夜を期待されたのに・・・・・あの時は失礼しました。私が賭に負けたばかりに・・・」 「いや、あれはあれで良かったんだって・・・・・」 「まったく子供は無粋で困ります・・・」 「おい」 「ああ、夜の京都も良かったですね・・・・今度は何処に行きましょうか。」 「・・・・・何処にも行かない!」 「恥ずかしがらなくたっていいんですよ。」 「・・・・・」 「これらは全部、あなたにも愛がなければ成しえなかったことですから・・・。」 何を言っても無駄だ・・・・自分の世界に入っている様子に、都筑は首を振る。 「ということで、これを・・・」 言いたいことを言って気が済んだのか、邑輝はコートの内ポケットから小さな包みを取りだした。 さっと都筑の腕をとって、手のひらにそれを乗せる。 「・・・・・なんだよ、これ。」 「バレンタインの贈り物です。」 「はあ?」 「心配しなくてもチョコも入っています。」 「誰もそんな心配してない!」 「今度会う時はそれしてきてくださいね。」 「え? 何だよ、これは!」 「では、また・・・」 「おい、邑輝!またって・・・・」 こちらの事は考えずに、あっという間に姿を消す。 今度どうやっているのか聞いてみなくてはいけないと都筑は思う。 急に一人になって・・・・なんか変な気分だ。 手のひらに残されたまだ温かいその包みが彼がいたことの印。 何となくその包みを両手で覆う。 ・・・・またって・・・・・・明日バレンタインって言ったのはお前だろ? いつもいつも自分勝手で・・・・。 こっちの言うことなんか聞いてなくて・・・。 でも・・・・最近はそれが少しだけ、少しだけ心地よいとか感じたり・・・。 「・・・・仕方ないか・・・」 包みをポケットに入れて、上から軽くポンと叩く。 「何かプレゼント用意しなくっちゃな。」 きっとまた会えるのだろうから・・・・必ず。 何となく 何となく 足取りが軽くなった。 認めたくはないけれど・・・。 空から雪が舞ってきたけれど心の中は暖かくなって・・・・・。 明日はバレンタイン。 少しだけいつもと違う自分になっても許されるような気がした。 |
2003・2・6
M・Hinase