『幸せというもの』
豪華なホテルのロビーに3人はやってきた。 邑輝の指定したレストランはこの最上階にある。都筑は一足先に邑輝の元へと向かっていた。 「はあ〜それにしても豪華なとこやなあ。」 長い髪を無造作に一つに括ってスーツを着込んだ亘理が吹き抜けになっている天井を見上げる。 「金だけは腐るほどあるのでしょうからね、あの方は。」 と、嫌そうに言う巽に密が頷く。 「でもこんな所のレストランなら高いやろ? よくもまあ、おまえ来ることにしたなあ。」 しかも3人分!と亘理は指を立てる。 それだけ、都筑のことが心配なんやなあ〜と心の中でしみじみしていると 「あ、それは心配ないです。全部経費にしますから。」 と、巽。 「え?」 と、同時に声が上がった。 「あの・・・・いくら何でも巽さん、それは・・・・」 「それは、まずいやろ・・・・」 私用やないか、思いっきり!と2人は顔を見合わせる。 「大丈夫ですよ、何とか項目をつけて私達、それぞれの経費として申請しますから。本当はあの人のに全部させたかったんですが・・・・やはり普段が普段ですからね。ま、その点私達は大丈夫ですし。亘理さんはちょっとやばい気もしますが・・・・認められなかったら仕方ないということで・・・」 「ちょーっと待ち! 巽、それってもしかしたら俺は自腹になるかもしれんていうことか?」 「ええ、その可能性もありますね。」 涼しい顔で答える巽に亘理が 「おまえねえ〜そうなりそうなら、俺のぐらい自分のに加えとけや!なんで俺が自腹・・・・」 と言うと、 「じゃあ、帰ります? それでも構いませんよ、私は。」 キャンセル料も取られるとは思いますが、とふふんと鼻で笑う巽。 「あの・・・・エレベーター来ましたけど?」 睨み合う2人に大きな溜息をついて密が声をかけた。 ・・・・こんな調子で大丈夫なんだろうか・・・・一抹の不安がよぎる密だった。 「どうかされましたか?」 席についてからも入り口の方ばかり気にする都筑に邑輝がワインを片手に微笑む。 「え?あ、いや・・・別に。」 その声に慌ててグラスを手に取りワインを口に流し込む。 ・・・・美味しい・・・・ その場しのぎに手を出したワインだったが、その味の濃厚さにワインを見つめた。 普段そんなに良いアルコール類を飲んでいない都筑だが、このワインがいかに高級なものかは一口で分かった。 「お口に合いますか?どんなものが好みか分からなかったもので、勝手にこちらで用意したものですが。」 問いかける邑輝に一瞬目を合わせると都筑はもう一口ワインを飲んだ。その様子で答えなくても口にあったことだけは分かった。 背も高く、何処から見ても男なのにどうしてこの人はこうも中性的な雰囲気を持っているのか・・・邑輝はあらためて都筑を見ていた。 いつも着ているスーツと違い正装用にとキッチリ着こんだ姿もまた違った魅力を醸し出していた。 強大な力と脆い精神を持つ男。 どうしても手に入れたいと思った。そして・・・・ 「こちらでございます。」 その声に邑輝は都筑から目を離す。 そこには少し離れたテーブルにつこうとしている3人の姿があった。 「なるほど・・・・」 「な、何だよ!」 「いえ・・・・貴方が此処に来ることに承知したのはどうしてかと思っていましたが分かりましたよ。」 その時都筑は巽達が入ってきたことに気付いた。 「あ、それは違う。俺が来たこととみんなが来た事は別だ。」 「おや、違うんですか? それではどうしてです?」 「それは・・・おまえと話がしたかったからだ。」 「嬉しいですね、貴方がそう思ってくださるなんて。いつもは私からばかりですから。」 それで、何のお話を?と手を組む。 「・・・・」 何を言おうか迷っている都筑の様子に邑輝は軽く息を吐いた。 「まあ、もう少し食事を楽しみましょう。それからでも遅くはないでしょう?」 「ああ、そうだな・・・。」 2人は運ばれてきた料理に手をつけだした。 それにしても・・・・と邑輝はちらちらとこちらの様子を伺う3人を見る。 ・・・・保母、いや保父さんですね、まるで・・・・・ そう思うと自然に口元が歪む。 一人の大人の男性をこんなにも保護するなんて・・・・ その滑稽さについふっと笑ってしまう。 ・・・つくづく幸せな方達ですね・・・・ 邑輝はもう一度そのテーブルの方を見て、それから目の前の都筑を見た。 「あ、今あいつ笑った!」 邑輝と目があったらしい亘理が小声で話す。 「なんか呆れたような目をしたで、妙に悔しいなあ。」 「亘理さん、あんまりキョロキョロしないでください。みっともないですよ。」 「おまえは真っ正面だからいいやろうけど、俺と坊は横向きやないか。仕方ないやろ?」 なあ、坊!と密に同意を求めたが、密は邑輝を睨みつけたままだった。 「でも何を話しよるんやろうなあ、気になるわ。」 「そうですね・・・・黒崎君?」 巽は邑輝達のテーブルを見たままの密の肩に軽く触れる。 「あ、はい。」 慌てて振り返る密に巽は微笑んだ。 「ここにいれば大丈夫ですから、私達も食事にしましょう。」 「はい・・・」 そう言いながらもやはり都筑達が気になる様子に巽は胸が痛んだ。 この少年がどれだけ都筑を大切にしているかが分かるから・・・・・。 ・・・・まったく、みんなにこんなに心配かけてまで何を話すことがあるんだか・・・ 先日言葉を交わした会議室でのことを思い出しながら巽もナイフとフォークを手にした。 ゆったりしたクラシックの音色の中でそれぞれの食事は進んでいった。 |
2002・2・14
M・Hinase