『Kiss』
| 「な、なんや〜!」 短期の出張から戻ってきた召還課に入ってきた亘理が見た物は山のように積み上げられた箱。 全部で6箱。 そのひとつひとつが結構な大きさのためかなりの場所をとっていた。 「おはようございます亘理さん。」 その箱の後から挨拶をしてきたのは巽だった。 亘理は箱を崩さないようにして山の後に回り込む。 そこには珍しく早く出てきている都筑と密、そして巽がいた。 「おはようございます。」 と密も挨拶をする。都筑は目だけ亘理の方に動かす。 どうやら朝から巽に絞られていたようで拗ねているようだ。 「ああ、おはようさん。ところで・・・・これ」 何?と、箱を見渡しながら亘理が尋ねる。 「都筑さん、何って聞かれていますよ。」 腕組みをした巽が都筑を見下ろした。 椅子に跨るようにして座っている都筑はそれには答えずに見下ろしてくる巽を睨み返す。 「おいおい、どないしたんや。」 不穏な空気に慌てて亘理が密を見た。 密は一度都筑を見て、そして溜息をついた。 「邑輝です・・・・・これ全部。」 「はあ?」 ということは中身はやっぱり・・・・ 「薔薇です。」 「ああ、そうかあ〜。」 全身から力が抜けていくような感じに襲われながらも一番上に積まれてあった箱を降ろし開けてみる。 「わ、紫の薔薇やん!」 その言葉に密が眉間に皺を寄せた。 巽が腕を組み直す。 「あれからほとんど毎日送ってきましたからね。流石にこう続くんじゃ、伯爵の元へ持って行くという訳にもいきませんし・・・・。どうにも困っているんですよ。・・・・・・ねえ、都筑さん!!」 「何で、俺に文句言うんだよ!別に俺が頼んでいる訳じゃないんだからな!あいつが勝手に送り付けてくるんだ、俺のせいじゃない!」 「でも貴方宛でしょう?」 「うっ・・・・・あ、あのなあ、文句があるなら本人に言えよ!」 「じゃあ連れてきてくださいよ、此処に!今すぐ!さあ、早く!」 「おまえねえ〜」 見下ろしてくる巽に都筑が立ち上がった。 亘理が首を振る。疲れて帰ってきているのにこういうお出迎えはやめて欲しい。 「都筑!」 突然響いた密の声に都筑も巽もビクッとして黙り込む。 お互いに目を見合わせて、都筑は口を尖らせて、巽は咳払いをした。 腰を浮かせていた都筑は、また座り込んで椅子の背に顎をのせた。 「もう何だって、こんなことに・・・・」 溜息混じりにぼやく都筑に、おや?という顔を向ける巽。 「そりゃ招待を断ってないからでしょう?」 当たり前です、と言い放つ。 その言葉に亘理も驚いた。 「断ってない?って・・・・・ 都筑、おまえ・・・・行くつもりなんか?」 「え・・・・いや、それは・・・・」 「豪華な食事に未練があるようですよ。」 低い声で密が言う。 「都筑・・・・おまえ何考えとるねん。いくら美味しい食事でも邑輝のダンナとやろ? それはいくら何でも・・・・」 それはそうなんだけど・・・・でも・・・・・とか、ぼそぼそ小さな声で呟く都筑を呆れた様子で亘理は見つめた。 夕方、術の訓練を終えて部屋に戻ろうとした密は通り過ぎた会議室のドアが少し開いていることに気付いた。 いったんは通り過ぎたものの何となく気になってこっそり中を覗くと窓際の席に座ってぼんやりと中庭を覗き込む都筑がいた。 「都筑。」 その声に都筑が振り向く。 密は、ここで何やってるんだ、と聞こうとして、さっき階段の所で巽とすれ違った事を思い出した。 彼が一緒だったかもしれない・・・・・ふとそう思った。 「道場にいたの?」 そう聞いてくる都筑がいつもよりも少しだけ気怠そうにしているのは気のせいだろうか。 「都筑・・・・おまえ行くのか?」 都筑の問いには答えずに密は都筑を見つめた。 「密」 「・・・・・なんでだよ。」 「いい機会だと、思ったから。」 「何の?」 何の機会だというのか、邑輝に会うこと自体が危険なのに。 「一度・・・・話し合わないといけないと思ったんだよ。」 「だから、何の話だ!」 つい声を荒げた密に都筑は少し微笑んだ。 「色々・・・・だよ。」 その瞬間、何故か脳裏に先日の邑輝との会話が蘇った。 ・・・・・・同じなんですよ、私と都筑さんは・・・・・ 同じなんかじゃない!あの時邑輝にぶつけた言葉を繰り返す。 「おまえ・・・・・」 そう言って黙り込んだ密を都筑は心配そうに覗き込んだ。 「密?」 どうしたの?と。 「・・・・・なんでもない。」 そう言って密は窓際に立った。 上から見ると桜が絨毯を引き詰めたように見えた。 「綺麗だろう?」 ぼんやりと下を見る密に都筑が話しかける。 「ずっと咲いてるんだ・・・・ずっと。散っても散っても次から次へと花をつけるんだよ。綺麗だけど、休みたいとか思っちゃうよね。・・・・俺が桜ならそう思うなあ。」 桜なら・・・・と都筑は言う。 でもきっと・・・・・。 密は唇を噛みしめた。 「俺も行く。」 やっと出た言葉がこれだった。 「え?」 「14日、俺も行く。」 「密・・・・」 「おまえが嫌がっても行くからな。」 「そんな、俺は嫌がらないけど・・・・・いいの?」 邑輝だよ、とつけ加える。 「おまえがどうしても行くのなら、行く。」 「密」 「いいな。」 「・・・・うん。」 くすくすっと都筑が笑う。 「何だよ。」 「ん?これでふたりだねって。」 「え?」 「さっき巽からも同じ事言われた。」 やっぱり・・・・と密は思う。 「今頃レストランに予約入れていると思うよ。」 「じゃあ、3人分だな。」 「3人?」 都筑が首を傾げる。 「きっと亘理さんも行くって言うと思う。」 「亘理が?」 そうかなあ〜、と都筑が背伸びをして笑った。 「みんな過保護だな。」 「まったくだ・・・・・よくもこんな感じで今まで仕事してきたな。」 半分呆れたという風に密が言う。 「そうだね。でも・・・・・ずっとこんな感じじゃ無かったよ。」 「え?」 「一時期は・・・・あの部屋にいること自体が辛いこともあったんだよ。・・・・・もう随分昔のことだけど。」 笑った都筑の顔が夕焼の色に染まる。 密は降ろしていた手をゆっくりと上げる。 何故そうしたのか、自分でも分からなかった。 「今は、幸せだね、俺。」 密もいるから・・・・・という言葉を都筑は最後まで言えなかった。 思いがけず与えられたぬくもりに驚いたが、そっとそれを受け止める。 抱え込む都筑の身体を力一杯抱きしめた密の背中に、そっと都筑の手がまわった。 ・・・・・ありがとう、密・・・・・ 言葉にしない想いが伝わってきて、都筑は目を瞑った。 |
2002・2・12
M・Hinase
★密都だ・・・・・巽都を期待した方、ごめんなさい!でも最終話までつきあってね(笑)。
お楽しみもあると思いますよv