Happy Night





「なんか、ついてないよなあ〜」
寝ころんだままカーテンの隙間から見た窓の外はちらちらと雪が舞っていた。
都筑は頭の上にある時計を引き寄せ確かめる。
もうすぐ2本の針が重なりそうだ。
・・・起きた方がいいんだけど・・・
でもやっぱり布団の暖かさからは逃れられなくて、ついくるまってしまう。
・・・誕生日が休みって言うのも考えもんだな・・・
本当なら夕方から亘理達とぱーっと騒ごうかと思っていた。
例えそれがなくても例年ならば巽が夕食をご馳走してくれたりして、それなりに楽しく近年は過ごしてきたこの日。
でも今年はつまんないな・・・・と都筑は口に出して呟く。
亘理は先週から出張でまだ帰ってきてないし、他の職員も出払っていた。
巽はといえば課長と共に一昨日から会議に行ってしまって音沙汰無し。
・・・そりゃあまあ、別に逐一連絡を入れろとは言えないけど・・・
電話一本くらいあってもいいんじゃないかと思う。
それに・・・肝心の密は全くの無関心で、昨日も帰る間際までそれとなくほのめかしていたのに何の興味も示さなかった。
去年は課のみんなが祝ってくれてパーティーだったのだけど、もしかしたら今年は当日くらいは密と2人で過ごせるかも・・・・とか都筑は思っていた。
それなのに昨日も、そして当日の今まで何も無し。
「みんな冷たいなあ〜」
意味もなく大きな声をあげてみては寝返りを打つ。
・・・・それに・・・・雪は何だか一人で見るのは嫌なんだ・・・・
心の奥で蠢く物が出てきそうで、ギュと目を瞑る。
怖くて涙が出そうになる。雪を見たら時々なるこの不安定さはなんだろう・・・・?
・・・寝ちゃおう、それが一番! 今年は運がなかったんだ!・・・・
そう自分に言い聞かせ都筑は布団をかぶった。




チャイムを鳴らそうとして、ふとドアノブをひねる。
・・・まただ・・・
小さな舌打ちと共に密は眉を寄せた。鍵の掛けられていないドアは音もなく開いた。
カーテンが引かれたままの薄暗い部屋の様子に溜息をつく。
予定ではもっと早くに来ようと思っていた。
けれどお目当てのケーキ店はとても賑わっていて、思わぬ時間がかかってしまった。
人混みがもたらす苦痛に我慢しながらもようやくケーキを手にした密は、その足ですぐ冥府へと戻ってきた。留守だったらどうしよう・・・そう考えていたのだが。


密はトンと、箱をテーブルの上に置いた。
部屋の一角にこんもりとした山。
そっと足音を忍ばせながら顔の見える位置に回り込む。
頭を蹴り上げてやろうかと思って、見た顔に動作が止まった。
涙?!
寝ながら泣いているのか、泣きながら寝たのか・・・まだ頬が濡れていた。
いつも怒られて泣いているけど、その時見る涙とは違う。
一人で泣く事への淋しさと、怒りが密の中に生まれた。

「都筑・・・」
小さく声を掛ける。
動かない。

「都筑。」
少し大きい声で呼ぶ。
まだ目が覚めない。
寝起きが悪いのを知っているはずなのに、聞こえる寝息は安らかなのに、どうしてこんなに不安になるのか密にも分からなかった。

大きく息を吸う。
「都筑!」
「ひやぁっ!」
思いっきり出した密の声に都筑が飛び起きた。
「な、何?」
状況の飲み込めない都筑が上半身を起こしてキョロキョロする。
「ばーか、こっちだ!」
「え?あ、密!」
「え?じゃねえよ、おまえいつまで寝てるんだ、もう1時だぞ!昼の1時!!」
「あ・・・・ああ、あーびっくりした。」
「びっくりしたのはこっちだ、馬鹿!」
都筑を睨みつけながら密はカーテンを開ける。その光で部屋が明るくなった。
「もう、馬鹿馬鹿言わないでよぉ。」
「なら言われないようにしろ!馬鹿!」
「密ぁ〜」
ほらどけっ!と布団を引っ張られ、都筑は仕方なく座り込む。
密はパタパタと布団をたたみ、着替え!と都筑に服を投げる。その様子をぼんやりと眺めていた都筑だが、何か言うとまた馬鹿と言われそうなので黙って着替えた。




あの箱は・・・・やっぱりそうなのかな・・・。
一騒ぎしてふと見つけたテーブルの上。
かなり大きな箱。
そしてそれに描かれているのはあのお店のロゴ、大きさからいってもホールケーキのような気がする・・・都筑はちらっと密を見た。
布団をあげて、鍵のこととか、部屋の汚さとか散々都筑に文句を言ってまだ怒っているらしく不機嫌そうな密に、
これ何?と脳天気に聞く勇気はさすがに都筑にはない。
聞けば10発ぐらいは拳が返ってきそうな気がした。
都筑は黙ってカップを手にした。




「今夜な」
突然きりだされた言葉にケーキの箱(と思われる)をじーっと眺めていた都筑は飛び上がった。
「な、なに?密。」
「晩飯一緒に食べるか。」
「え?」
そっぽを向いて話す密の横顔を見る。
「・・・嫌なら別にいいけど。」
ぶんぶんと都筑が顔を横に振った。
「いいの?ねえ、いいの?」
身を乗り出してきた都筑の額をぴしゃりと叩く。
「いいから言ってんだろ。」
「ありがとう密!・・・・で、これ・・・」
都筑が箱を指さす。
「おまえの考えている物だ。」
「ホント?」
「ああ」
やったー!両手を挙げて箱を開けようとして今度は手を叩かれる。
「痛いよ、密。」
「ケーキは晩だ。飯の後!」
えーっ、見るだけでもいいじゃん!という抗議の声をあえて無視する。
「それは巽さんと亘理さんからだ。2人とも今日はいないからな、代わりに俺が来たんだ。」
「そうかあ。でも晩ご飯の事は頼まれていないんだよね?」
都筑の目がちょっぴり悪戯っぽく密を見た。
「それが何だよ。」
「つまり・・・・晩ご飯は密からのプレゼントと思っていいんだよね?」
「うっ」
ねえ?ねえ?と手を組んで嬉しそうに顔を寄せてくる。
「・・・・・ああ。」
「密!」
バッと都筑はテーブル越しに抱きつかれて密に抱きついた。
「おい、やめろって!都筑!」
「やーだよ!」
都筑!と怒鳴る密の耳元で都筑が何事か小さく呟いた。
それはもう一つのプレゼント。

「・・・・ばか」
そう言うと大きな溜息と共に密は肩に乗っていた都筑の顔を両手で挟み見つめる。
「特別だぞ、今日は。」
あんな顔を見たから・・・・。
「うん」
ニッコリ微笑む都筑が目を閉じると、密がそっと顔を寄せる。
触れた場所から幸せな思いが身体中を駆け抜けた。



2人だけの誕生日・・・。
背中に手を廻しながら都筑は願う。
心の中に眠るものが起き出さないように、いつまでも側にいて。


溢れるほどの感情を受け止めながら願うことは一つ、いつも感じていたい、ただそれだけ。
『誕生日おめでとう』
その願いを言葉に込めて密は心の中で呟いた。





その後、何回もケーキを見ようとチャレンジする都筑と怒鳴りつけながら食事の用意をする密の声がアパート中に響き渡った・・・というお話。


2002・2・20
M・Hinase



★密都です。
邑都に引き続きまたもやほんのり暗い加減のお話に・・・。
でも祝っています!ええ、ちゃんと!(笑)
さてこの反動が残りのカップリングにどうでるのでしょうか?(苦笑