海暮れて・・・



ベンチに座って白い息を両手に吹きかけた。
やっぱり手袋をしてくれば良かった・・・・と目の間に広がる暗い海を見つめる。
湾になっているためここから見ると対岸の街の灯りがまるで海上に浮かぶ光の帯のように見える。
キラキラと輝くあの光の中ではどんな人達が暮らしているのだろう、
そんなことをぼんやり考えて・・・・そしてまた息を吐く。
白く伸びていく様が面白くて何回か繰り返す。
ふと腕の時計に目を落とす・・・・7時。
約束の時間よりも1時間も早く来てしまった。
だって今日は・・・・特別な日だったから。




「え?用事?」
目の前の少年が眉をひそめる。
その声に振り向いた人達の視線を背中に感じた。
「うん・・・・ごめん密。」
申し訳なさそうに俯くと、溜息が聞こえた。
「せっかく・・・・なんでもっと早く言わないんだよ。」
「ごめん・・・・言い出せなくて。早く言わなくっちゃって思ったんだけど・・・・」
「地上に行くんですか?」
その声にはっと振り返ると、少しだけ哀しそうにした顔があった。
「・・・・うん。」
「そうですか。」
「今夜は冷えるで、寒くないようにして行きや。」
「うん・・・。」
それしか言えなくて、向き直ると密が何かを言いたそうに唇を噛んでいた。
「ごめんね。」
言えない言葉が空回りする。もっと沢山のこと伝えなくてはいけないのに、何を言えばいいのか分からないんだ。
だから少し笑った。
そしたら密が
「風邪ひいてきたら承知しないからな。」
と言って席へ戻る。
・・・・・ありがとう・・・・・そして、ごめんね・・・・・



部屋を出る前の事を思い出していたら、ふわりと首に暖かいものが巻かれた。
「早いですね、今日は。」
まだ30分もあるのに、と声がする。
首元から感じる温度と香りが身体を包む。
「今日はね。」
俺の誕生日だから・・・・と心の中で続ける。
おまえだって早いじゃないか・・・・どうして?
「食事に行きますか?」
「うーん、もう少し此処にいたい。・・・・いいかな?」
「寒いのに?」
「もうお前が来たから大丈夫だよ。」
その言葉に邑輝がふっと笑う。
「可愛いことを言いますね。では少しだけですよ。」
そう言って俺の隣に座った。
もう一度対岸の光を見つめる。


「今日は、貴方は来ないのではないかと思ってました。」
「え?」
「祝ってくださるのでしょう、あの方達が。」
貴方を大切に想う人達が、そう聞こえた言葉。
「邑輝・・・・知ってたの?俺の誕生日・・・・」
「貴方に関することなら何でも・・・・・前にもそう言ったと思いますが。」
「そうか・・・・ん、そうなんだ密達がパーティの準備をしてくれてたんだ。ギリギリまで悩んだ、もうこのまま・・・・・って。」
邑輝の手が肩に回る。
「でも」
目を瞑る、そして俺も邑輝の身体を抱きしめる。ぬくもりが伝わってきた。
「でも嘘はつけないから。これ以上はもう・・・・みんなが好きだから、だから・・・・」
我慢していた涙が流れ落ちて邑輝の上着を濡らす。
「いいですよ、何も言わなくても。」
その言葉に甘えて俺は黙った。ただただ涙が止まらなかった。



自分を愛してくれる人達を悲しませて、裏切って選んだ道。
例えその先に光がなくても構わない。
そんなものは望んではいけないものだから。
ごめんね。
この言葉を繰り返す。
自分達の姿が幸せに映らなくてもいい。
理解してもらうことなど望んでもいない。
今は
この身体を支えるこの手があればいい。
それが唯一の願いなのだから。


「邑輝・・・・」
顔を上げた唇に落とされる冷たい感触。
貪るように想いを伝える。
いっそこのまま消えてなくなれば楽だろうに・・・・・。


愛してる・・・・・・・。
遠くで汽笛が聞こえた。


2002・2・5
M・Hinase

★企画一発目がこれですか・・・・・。
誕生日を祝う気があるのか!と怒られそうなSSですね。
何故こんなに暗い雰囲気になったのか・・・・。でも幸せなんだけどなあ、都筑は。
邑都、切ないバージョンですv
祝っているんですよ、これでも!(力説!)
おめでとう、都筑さんvv