花を待つ
| ――たったひとつの花を待っていた どれほどのものに囲まれようと 俺は待っていたんだ きっと・・・・ あの時が全ての始まりだった・・・。 あの衝撃的なオーディションから数週間、そして数ヶ月と時は経っていく。 撮影は順調に進んでいるとか どんな感じなのかとかは嫌でも耳に入ってきた。 わざわざ教えてくれる人もいた。 もう自分の中では終わったひとつの過去。 けれど否定出来ない・・・同時に蘇るあの時の感情。 誰に言われるまでもなく「受かる」つもりだった自分。 途中までは自分のペースだったのに、ほんのちょっとした隙に形勢を逆転された自分。 せっかくのチャンスをつかみ損ねた自分・・・ これが最後のチャンスじゃないんだ・・・と思いながらも、やはりしばらくは心の整理がつかず、誘われるままに飲んで、遊んで、寝て・・・欲望に身を任せた。 でも・・・どこかに説明の出来ない澱みを感じてしまう日々の連続だった。 そして映画の公開。 満員の客席で見た。 もしかしたらあの役は自分だったのかも知れない。 それを演じているあの人。 スクリーンの向こうの世界、まだ手が届かない世界。 良い出来であることは誰の目にも確かなことだった。 そしてそれを客席で見るしかない自分は”負けた”のだと改めて思い知らされた。 ただ・・・悔しかった。 そして1年後。 俺は再び大きなチャンスを手にする。 『都川悦司役の新人の香藤洋二君』 そう佐和さんに紹介されると眩いほどのフラッシュがたかれる。 多くのレンズが俺を映した。 そして横には、あの人がいた。 「一生懸命頑張ります!」 白い光の中、俺はマイクを手に笑った。 昨年公開された映画が好評でドラマでもやることになり俺が大抜擢された。 あのオーディションの後で佐和さんから言われた言葉は本当だったらしい。 話が来た時は正直当時の感情がよぎった。 でもチャンスはチャンスだ、これを失うのはあまりにも愚かだった。 邪魔な物はただ1つ俺の感情。 けれどそんなものチャンスの前には捨て去ることは容易だった。掴めるものは掴む、それが大きくなることの必須条件だ。 そんな時、俺は呼び出された、行き先はあの人・・・そう岩城京介の部屋だった・・・。 酔って俺に苛立ちをぶつける彼・・・俺はそれを放ってはおけず受け止めた。 そして知った彼の涙、彼の心、熱さ・・・ ふたりだけのリハーサルに自分でも思いもよらず燃え、そして知った彼の脆さ。抱いた身体の温もりがいつまでも俺の中に残った。 彼の香りが残った。 それから少しずつ少しずつ俺の身体に心に大きく入り込むその存在。 最初はちょっとした興味本位のつもりだったのに、その心に触れる度に自分の中で何かが1つずつ弾けた。 俺の言葉にあの人が反応する、それが楽しくて嬉しくて目が離せなくなった。 そして俺からも目を離せないままになればいい・・・そう心から願い始めた。 俺だけを見て、俺だけを感じて・・・。 驚くほどの独占欲。 それは今まで経験してきた誰とでも違う感情だった。 -----そんな3ヶ月が過ぎた。 あれが俺と彼との始まりだったんだ------- 「香藤これで良いのか?」 コトコトと揺れる鍋を見つめていたら後から声がかかった。 「ん?」 振り返ると、ボウルに綺麗に盛られた野菜を手に岩城さんが立っていた。 今日は俺の誕生日。 オフをあわせてくれた岩城さんが料理を手伝ってくれるというので、ふたりでキッチンに午前中から籠もっている。 「わあ、綺麗だね。さすが岩城さん、器用だよ」 「そうか? 初めてしたんだが・・・」 「初めてとは思えないよ」 そう言って笑うと恥ずかしそうに少し微笑む岩城さん。 そんな岩城さんを見たら、さっきまでのちょっとした思いにまた時間が重なっていく。 どれだけの時間がふたりの間に流れたんだろう どれだけの思いがふたりの間に降り積もったんだろう そう思うと涙が出そうになる。 涙が出るほどに嬉しくなる。 沢山の人に沢山のものに感謝をしたくなる。 「・・・どうした?」 黙り込んでしまった俺を見て岩城さんが首を傾げた。 「なんか俺、今・・・感傷的になっているみたい」 そう苦笑すると岩城さんは目を瞬いて、そして今度は優しく微笑んだ。 「珍しいこともあるもんだ」 「珍しいって・・・」 それはないでしょ・・・とちょっと拗ねると、岩城さんは手にしていたボウルを置いて俺の首に手をかけてきた。 「岩城さん?」 「何か思い出しているのか?」 「え?」 「さっきから鍋を見つめる目が少し切なそうだったからな」 「・・・お見通しだね」 ふうっと息を吐く。 「うん・・・ずっと前のこと思い出してた。俺達が出会った頃のこと」 「そうか」 「あの頃の俺と岩城さんのこと」 「そうか・・・」 岩城さんの目が優しく俺を見つめる。 俺も岩城さんを見つめた。 「そして改めて思ったんだ」 「・・・何を?」 「花を待っていたんだ・・・って」 「花?」 「そうこの世にひとつしかない、たったひとつしかない俺にとっての花をずっとずっと待っていたんだなって」 俺は岩城さんの身体を引き寄せた。 「そして俺は手に入れたんだな・・・って」 そう言って額にキスをした。 岩城さんの髪から甘い香りがする。 「・・・俺もだ」 「え?」 「お前だけじゃない、俺も待っていたんだ」 「岩城さん・・・」 「互いに世界でたったひとつの花に会えたんだな」 俺達は幸せだ・・・そう耳元で囁かれた。 ・・・ダメだよ、岩城さん・・・俺泣きそうだよ。 「ねえ・・・」 「うん?」 「パーティの準備少し休んでもいい?」 そう言ってぎゅっと腕に力を入れた。 愛しい気持ちが止まらない。 溢れて溢れて・・・こぼれそうになる。 それを伝えたい、何度でもずっとずっと・・・。 「・・・ああ」 岩城さんの声が聞こえた。 岩城さん好き、好き、好き・・・・! どんなに言葉を重ねても、どんなに身体を重ねても足らない。 これほどまでに愛しいと思えるものを腕に抱ける俺は本当に幸せだね。 ――花を待っていた たったひとつの俺だけの花 そして今 その花はこの腕の中に―― 「愛してる・・・・」 その花に俺は言葉を贈った |
2006・6・9
日生 舞
ちょっとだけいつもと違う角度で祝ってみました
お祝いになっているかどうかは
甚だ疑問ですが、まあそれはいつものことなので(^_^;)
ただ気持ちだけは込めまくっていますわ!
おめでとう、香藤くんv
ちなみにこの後のパーティーには悪友達も来る予定(笑)