夜10時。

居間の時計がカチッと小さな音を立てると同時に玄関の戸が開いた。

僕は肩をすくめる。

そしてカレンダーを見た。

もう1月も中旬・・・・正月に会ってから彼が此処に来るのは2週間ぶりだった。



いつでも忙しい恋人は初詣もそこそこにバイト、バイト、バイト・・・・・

勿論電話はくれるけど

気遣う言葉もかけてくれるけど

大学も本格的に動き出さないこの時期、顔を見ることはほとんどなくて。

そうやって過ぎた日々。




「よう!」

そう言いながら、いつもと変わらずに・・・・(いつもっていつ? 忘れちゃったな)

屈託のない笑顔で大きめの紙袋を抱えて彼は入ってきた。

「いらっしゃい、とーや。」

僕は微笑む。

何だかんだ思うことはあるけど、やっぱり顔を見るとうれしいし、幸せな気分にはなるから。

「ほい、土産。」

そうやって手渡された袋には和菓子やら洋菓子やら・・・・。それもかなりの数。

「すごいだろ? 今日がバイトの最終日だったから、全部くれたんだ。」

中を見て少し驚いた僕に、自慢げに言う。

「・・・・現物支給?」

小さく呟いた僕の言葉に、彼は笑いながら、軽く僕の頭をポンポンとして、用意してあった座布団の上に座り込む。

もしかして・・・・と心配したけれど、どうやらバイト代とは別に貰ったようで、いつもながらその人受けの良さに感心する。


「お茶入れるね?」

僕は部屋の片隅に置いてあるものをちらっと見て・・・・・・そして台所へと向かった。






お湯を沸かす間、少しだけドキドキした。

きっと今頃はアレに気づいているよね・・・・・気づくように置いてあるのだから当然なんだけど。

様子を見に行きたいけれど・・・・気配に敏感だから変な素振りは取らない方がいい。


僕はさりげなく・・・・でなければ。

僕からは何も言わない。

彼が問うてくるまでは、僕からは何も言わないからね。

それが会えなかった間、僕が拗ねた結果だから。




「お待たせ」

貰ったお菓子ととっておきのお茶を入れた湯飲みを持っていく。

僕が入るなり、はっとこっちを見る。

何か言いたそうだ・・・・・。

でも僕からは何も言わない。

「はい、どうぞ。」

湯飲みを前に置くと、

「ああ。」

と、短い返事だけ。

何かが気になっている時の癖・・・・僕は心の中でくすりと笑う。


向かい合って、バイト先での話を聞く。

あえて会えなかった間の僕のことは切り出さなかった。

時々・・・・話の合間にアレに目がいくのが面白くて・・・・でも僕はそれに気づかないふりしてお茶を啜った。




「なあ・・・・」

僕が話すのを待っていたのか、あれやこれや関係ない話を振りながら・・・・とうとう我慢出来なくなってきたらしい。

「あれ・・・・どうしたんだ?」

「何が?」

顎で指す方向に、軽く答える。

「・・・・・あの・・・・・絵。俺、何も聞いてないぞ。」

(だって言ってなかったからね)

「ん? あれ? 美術部の長瀬くんが描いてくれたんだよ。」

「・・・・・長瀬?」

「知らない? 結構個性的な人・・・・長髪の・・・・この前賞取った人。」

「ああ・・・・・あいつか。でもなんで・・・・」

「頼まれたからだよ? モデルにって。」

「・・・・ふ〜ん。」

(あ、流石に少し機嫌悪い? 説明不足だとこんな風なんだよね・・・いつも)

自分は結構何でも勝手に決めてくるのに、僕が自分の知らない所で何かするといつもこんな感じだ。

でもだからこそ、今回こっそりこの話を受けたのだけど・・・。

「・・・・・・」

お茶を飲む手を止めて、絵を見つめる様子・・・・もっと何か言いたいけれど、言葉に出てこないのはいつものことだ。





窓辺に立った雪兎を斜め後ろから描いたその絵は、かすかに分かる表情が、その儚さを浮き上がらせて・・・・。

窓から入る光が雪兎を包み込んでいた・・・・・・・。






「俺は・・・・・あまり好きじゃないな。」

ぽつりと呟く声が聞こえた。

(ほらね・・・・)

僕は溜息を小さくつく。知らないうちにモデルになっていたことが気に入らないのだろう。

「そう?」

だって2週間も会えなかったんだから、僕だってこれぐらい・・・。

「でも綺麗に描いてくれたよ。」

その言葉に返事はない・・・・・苦笑する。

・・・・なんか拗ねてるんだけど・・・・僕の方が拗ねているって事に気づいて欲しいな・・・・・・







「これ・・・・・お前じゃないから・・・・」

「え?」

しばらくの沈黙のあと話し出した顔を見つめる。

「お前はこんなに弱くもないし・・・・儚くもない・・・・」

・・・・・こんな光に取り込まれるお前なんかみたくない・・・・

不意にそんな言葉が流れ込んできて・・・・

僕は・・・・・黙ってしまった。

「・・・・・うん。」

それしか言えない。


・・・・・・ずるい・・・・・・


そう・・・・・思っただけ。








しばらくぶりに合わせた温もりは・・・・なぜかとても安心できた。

抱き込まれた腕の力強さは、心の中に巣くっていたもやもやを吹き飛ばすように・・・・。

「・・・・勝ったな。」

ようやく息が整ってきた僕は目を開ける。

「何・・・・?」

「あれ。」

隣の壁に立てかけたあの絵を指さす。

「絵? ・・・アレがどうかしたの?」

そう問い返すと、少しだけ笑われた。

「あの絵に負けない程のいい顔、沢山見せて貰ったからな。」

俺だけに・・・と、ウィンクされた。

「なっ」

あっという間に顔の温度が上がっていく。

微笑んだ顔が憎らしい。




僕は手に当たった枕を思いっきり投げつけた。

「お、おい!」

「意地悪!」

そして・・・・そして・・・・僕はその胸に飛び込んだ。

仕方ない・・・・・今日は負けてあげるよ・・・・・。




意地悪で・・・・・・・大切な僕の恋人。

今度は絶対・・・・。

2002・12 日生 舞



これも2002年のクリスマスの時に書いた記憶が・・・あれれ?
(曖昧です・・・書いた日付は記しておかねば;;;)
ちょっと桃矢と自分を客観的に見ている雪兎さんがうちの雪兎さんでした