願い 「ライトアップです!」 大きなかけ声と共に闇に浮かび上がった大木に歓声が上がる。 準備をしている様子が見えてはいたが、ライトが当たると全くの別物に見えるから不思議だ。 大きく元気よく張り出した枝に赤や緑、そして金色の大きなリボンが結ばれて、プレゼントを模した箱が無数に飾り付けられていた。 幹の根元には真っ赤なポインセチアが置かれていた。 「綺麗だね・・・・・」 想像以上の幻想的な光景にようやく一言、雪兎は呟く。 「ああ・・・・」 桃矢も雪兎と同じなのか、それだけを答えてツリーを見上げていた。 ある植物園。 春や夏に比べてどうしても色あせてしまう園がクリスマスのこの時期に・・・と考え出した企画。 23日〜25日までの3日間、夜の間だけライトアップで浮かび上がるツリー。園内の各所にはやわらかい灯火が置かれ、花の少ない小道をロマンチックな小径へと変えていた・・・・。 いつもは家族連れで賑わうこの植物園も、今日ばかりは圧倒的に恋人同士が多い。腕を組むもの、肩を抱き寄せるもの・・・・その誰もがみんな溜息と共に木を見つめる。 最初の歓声が嘘のように・・・・・・静かになった。 ふたりとも24日のイブも25日のクリスマスもバイトが入っている。 同じバイトだ。 だから23日の今日、少しでも雰囲気を味わいたくて此処へとやってきた。こんな時期に来るのは初めてだ。 口では関係ないような事を言いつつも、それでもやはり・・・と気にはしていた自分が渋々友人の代理でそれを引き受けた時、雪兎も側にいた。 少しだけ困ったような顔をする自分に比べて、雪兎はその話には乗り気で・・・・『桃矢はどうする?』と逆に尋ねられて。 あまりにも無邪気に聞かれる事に拍子抜けしたために、2日間のバイトを引き受けたのだった。『さくらちゃんとはいいの?』とか雪兎に聞かれはしたが、すでに同級生達と家でパーティーを予定しているからそちらの心配はない。 むしろ気にしていたのは・・・・・と、隣の雪兎を見る。 目をきらきらさせて木を見上げているその横顔に、自然に頬が緩む。 「ん? 何?」 視線に気づいて雪兎が振り向いた。 「べつに・・・・そろそろ歩くか・・・」 「うん。」 周囲は既に例の小径へと歩み始めていて、ツリーの前は人がまばらになっていた。 「昼間見るのとはまったく違うね。ほら、あそこ、木の洞窟のように見える。」 パタパタと軽やかに走り出す雪兎の後ろ姿に少しだけ笑って溜息をつく。 一緒に過ごせるのは、今、この時しかないのに・・・・こんな時ぐらい恋人のような雰囲気を大切にしても良いじゃないか、とも思う。何といっても健全な男なのだ、それなりの欲求は持ち合わせているつもりだ。 桃矢は周囲を気にしない、周りからどう思われようと雪兎と過ごしていきたいし、もっともっと接したいとも思う。けれど雪兎はそれを良しとはしない、みんなの前では、いやともすれば、ふたりだけの時でも時々ごく普通の友人という距離をとろうとする時があった。 それは周囲を・・・と言うより、雪兎自身の心の中の問題のようにも感じられることでもあったのだが・・・・。 それでも強引に抱き寄せれば腕の中におさまる細い身体をもっともっと感じていたいのに。 「とーや、何してるの?」 呼ばれて、桃矢ははっと顔を上げる。 「どうしたの?」 少し離れた所から、手を振っている姿に微笑んだ。 ・・・・ゆきがどう思うと、自分の気持ちはこれからも変わらないし、ずっと側にいたい・・・・ その気持ちだけは確かなのだから。 桃矢は、ゆっくりと雪兎の方へと歩き始めた。 「ねえ、とーや。」 ぽつりと雪兎が呟いた。 どれくらい歩いただろう、広い園の中には何本も小径があって恋人達は各々の場所で遠くに見える入り口のあのクリスマスツリーを眺めながら、そして星の瞬く夜空を眺めて、語り合っていた。 そんなカップルを邪魔しないようにそっと通り過ぎながらやっと誰もいないベンチへと辿り着き、腰を下ろした時だった。 「なんだ?」 綺麗に晴れ上がった夜空を見ながら桃矢が答える。 「今日はありがとう・・・・」 「・・・・・」 「・・・・・バイトのこと怒ってるの?」 「・・・・いや? 別に怒ってねえよ。」 「でも・・・・なんかあの時から機嫌悪いよね?」 「そうか?」 色々考えていたために口数が普段よりももっと少なくなっていたことに気づかなかった。 そのことを雪兎がそんな風に思っているなんて事も。 「・・・・別に怒ってないさ。ただ・・・・せっかくの誕生日だろ? バイトなんか入れちゃって大丈夫か?と思って・・・・」 「え?」 雪兎が目を大きく見開く。 「あ・・・・・」 「・・・・あっ・・・て、おい、まさか・・・」 「・・・・・・忘れてた。」 「・・・・・・」 言葉を失って雪兎を見つめる桃矢に、雪兎はばつが悪そうに笑った。 「忘れた・・・・・って誕生日だろ?」 「うん・・・・そうなんだけど」 「クリスマスの日だぞ、忘れないだろう、普通。」 「そうだねえ・・・。」 「そうだねえ・・・って」 マジで忘れていた風の雪兎に桃矢は頭を抱える。 「ごめん・・・・」 「いや、別に謝ることでも無いけど・・・。」 それにしても・・・・と桃矢はもう何回目になるだろうか、深い溜息をついた。 「もう誕生日なんて関係ないかな・・・・とか思っていたから。」 「!」 しばらくの沈黙の後、ぽつりと雪兎が話し出した。 桃矢は垂れていた頭を上げた。 「何言ってんだ・・・・」 「・・・・・・生まれた日でもないんだし・・・・それにどうやって僕が存在し始めたのかも僕には分からない・・・・なら、それなら別に誕生日って無くても・・・・。」 「ゆき・・・」 「あ、誤解しないでね。自棄で言っているんじゃないんだ。そう思ったんだよ、ただそれだけ。」 そして笑った。 ・・・・・自棄の方がまだ扱いやすいだろう?・・・・笑うなよ、そんな綺麗な笑顔で・・・そんなに悟ったように笑わないで欲しい・・・それではあまりにも・・・・ 「とーや」 突然抱き寄せられた事に驚いて 雪兎が声をあげた。 「そんな悲しいこと言うな。」 「とーや・・・・でも」 「いいから、聞け! いいか前にも言ったはずだお前が誰であろうと、そんなことは関係ない、ただ側にいて欲しい・・・・それだけだ。誕生日もそれがどうやって決められたかは俺だって知らない。でも」 桃矢は肩に手をかけて雪兎を見つめた。 「でも、それはお前が月城雪兎として俺の前にいることの証のひとつじゃないのか?」 「とーや」 「確かに世間ではクリスマスだけどな・・・・でもそんなことより俺にとってのこの日はお前の誕生日だ。俺の大切な日だ。」 「・・・・・とーや」 「何もなかったようにするのは止めろよ。今俺の目の前にいるは誰だ? お前だろう? お前自身なんだよ。」 「・・・・・・・」 「だから・・・・・大切にしよう・・・・・な。」 見つめ返す雪兎が唇を噛む。 桃矢が笑った。 「馬鹿、噛むのなら俺のにしろって・・・・」 そう言って、ゆっくりと指で雪兎の唇を触る・・・・。 「強く噛んでいいから・・・・・」 「とーや・・・・」 目を瞑る雪兎の唇に温かいものが降りてきた・・・・。 「間もなく閉園のお時間でございます。」 目を瞑ったまますっかり力の抜けた身体を預けてくる雪兎をずっと抱きしめていた桃矢は、そのアナウンスに入り口方向に顔を向けた。 ぞろぞろと人が引き上げて行くのが見える。 「帰らないと・・・・・いけないね。」 「ああ。」 「帰りたくないね・・・」 「そうだな・・・・」 「今日」 「今夜」 ふたりで同時に話し出し、そして・・・・・笑った。 雪兎が桃矢の唇に人差し指をそっと当てる。 「・・・・・少し早めの誕生日祝い・・・・僕のうちでしてくれる?」 「・・・・・ああ、勿論。」 「お腹空いたんだけど・・・・。」 「分かってる・・・・ゆきの好きな物作ってやる。」 「とーや・・・・・ありがとう。」 「ん。」 御礼なら・・・・と少しだけ顔を突き出す桃矢に雪兎はくすくす笑った。 「ん・・・・じゃあこれで・・・・・」 お願いします・・・・と雪兎は口づけた・・・・・・。 クリスマスツリーのてっぺんには金色に輝く星がひとつ。 いつまでもキスを交わし合う恋人達を遠くから見守っていた・・・・・。 |
2002・12・23
日生 舞
2002年のクリスマス限定頁だったものです
丸2年以上前の・・・・おほほほ;恥ずかしい;;
まあ、記録だから・・・と思って掘り起こして参りました(^^;)
・・・・まだまだ桃雪も大好きなの〜v
「ツバサ」も楽しみvvv