雨の夜中



「こんなどしゃ降りの中、いったいどこに行ったんだ!?」
 岩城は珍しくイライラとつぶやいた。

 6月8日夜。早々に帰宅した岩城は、誕生日プレゼントを準備して香藤を待っていた。プレゼントはペアのブレスレット。
「12時になる前には帰れそうだよ〜」と、香藤からメールがあり、今年の誕生日は一緒に迎えられるんだと、顔がほころんだ。
 12時になったら、真っ先に「誕生日、おめでとう」と声をかけてやりたい。香藤はすぐにプレゼントのブレスレットを身につけて、岩城さんもつけてよ〜と、せがむだろう。いやいや、あいつのことだから、俺を抱いている最中に誕生日を迎えたいくらいは言い出すかもしれないぞ。お風呂も済ませて待ってたなんて、準備万端だね、岩城さん!なんて言いかねないからな…。
「何を先走っているんだ、俺は」と、岩城は頭をかく。期待しているのは俺のほうなのかも。そう思うと顔がほてった。
 聞き慣れた玄関の音。心臓がはねる。早く出迎えてやりたくて気がはやった。
「お帰り! 香藤」
「ただいま! 岩城さん」
「すいぶん雨で濡れたな。大丈夫か? タオルとって…」
 リビングに戻ろうとした岩城の腕を、香藤がつかんだ。
「あの、岩城さん! ごめん。ちょっと出てくる。すぐ戻るから」
「えっ!? これから!? 夜中の11時半だぞ!? いったいどこに行くんだ? 明日じゃだめなのか」
 戸惑う岩城。
「ほんと、ごめん」
 すぐ戻るから、と説明しながら、香藤は玄関の戸袋から懐中電灯を取り出した。
「どうするんだ、そんなもの。香藤!?」
「ほんとにごめん、岩城さん! 12時までには戻るから。ね!」
 香藤が軽やかに身をひるがえせた。引き留めようと腕を伸ばした岩城の気持ちを断つように、玄関のドアがバタンと閉じた。

 時計を眺め、岩城はため息をついた。もうすぐ香藤の誕生日。今年は一緒に迎えられると思ったのに、という気持ちがよぎる。いや、そんなことよりも、こんな夜中の、しかもどしゃ降りの中、いったいどこへ?
 12時まであと5分、というところで、岩城は再び玄関を開けて外をのぞいた。さっきよりも雨の勢いが増している。
 いったいどこへいったんだ、香藤。ため息をついてドアを閉めようとしたその時。
「また失敗だ! ちきしょう!」
 香藤の声? 近くにいるのか? 階段を駆けおり、門から飛び出すと、表の車庫スペースの前にうずくまる人影があった。
「香藤!? いったいそんなところで何をやってるんだ!?」
「あ、岩城さん」
「ずぶぬれじゃないか!? バカヤロウ! 風邪でも引いたらどうする!?」
 懐中電灯を持ってしゃがみこんでいる香藤を立たせようと腕をひっぱる。
「待って! 岩城さん。この排水溝にペンダント落としちゃったんだ。排水溝のフタは重くて動かせないんだけど、ほら、上から見えるんだ。うまくやったら、とれそうなんだ」
 排水溝をのぞき込んで動こうとしない香藤を、岩城は叱りとばした。
「ペンダントなんて…また買えばいいだろ!? こんなにずぶぬれになってまで拾い上げなくても…」
「ただのペンダントじゃないよ! 岩城さんとペアのペンダントなんだ。誕生日に岩城さんがプレゼントしてくれた…。俺の誕生日にプレゼントしてくれるって岩城さんが言ってくれたブレスレットとセットの…」
 香藤を立ち上がらせようとしていた岩城の腕が止まる。
 香藤がまた身をかがめて、懐中電灯で排水溝をのぞき込む。
 一呼吸おいて、岩城は香藤の頭をポンポンとたたいた。
「香藤、いくら明日がオフだからって、こんなずぶぬれになったら仕事に影響する。あきらめるんだ、な?」
 香藤が岩城を見上げた。
「だって…もうちょっとでとれそうなんだよ」
 ピピッ、ピピッ、ピピッ…。突然の電子音に香藤がビクンとする。
 香藤の誕生日に合わせた岩城の携帯のアラームが鳴ったのだ。
「香藤、こんなところでおめでとうを言わせる気か? さぁ、うちに入ろう。な?」
「…うん」
 岩城に腕を引っ張られて、香藤は渋々立ち上がった。
 香藤の肩抱いて無言でステップを上がる。身体が冷え切っていることを知って、岩城はそのままバスルームへ向かった。
 岩城に抱えられてバスダブに入った香藤がやっと口を開く。
「ごめんね、岩城さん。岩城さんの身体も濡れちゃったね」
 背後から香藤の身体を抱きしめ、首筋に顔を埋める。
「まったく、こんなに身体を冷やして…。仕方がない奴だ」
「岩城さんの身体、あったかい…」

 雨上がりの早朝。車庫の前にうずくまる二人の姿があった。
「とれたっ! とれたよ! 岩城さん! よかったぁ」
 諦めていたペンダントが手元に戻って、大喜びの香藤の腕に光るブレスレットを、岩城は笑顔で見つめていた。

2005.8.22 ゆみ



ゆみさんからいただきました〜☆
落としてしまったペンダントを必死に雨の中拾おうとする香藤くん・・・
そしてその身を案じる岩城さん・・・・無事に香藤くんの手元に戻って
本当に良かったですv
そしてそして!1
バスタブの中!香藤くんの背後から岩城さん・・・・萌え!
きゃああ、ステキ!!
たまには逆もいいですよね!!!
香藤くんが思いっきり背中を預けて甘えてそうです!
ゆみさん、本当にありがとうございます!大切にしますv