とどかぬおもひ
| 草加・・・元気にしているだろうか おまえに届かぬ手紙を書くのはこれで何度目だろう こちらは随分と寒くなったが 倫敦はどうなのだろうか 江戸よりも北に位置しているから厳しい寒さなのだろう 日本人の居ない場所で 母国語の通じない場所で どんな思いで暮らしているのだろうか 偏見や差別があるに違いない けれど 草加 おまえならば 真っ直ぐ前を見詰めて 顔を上げていることだろう 俺もおまえに恥じぬよう これからの日本を考えて行動するつもりだ 幕臣であることなど何の役にも立たぬが 列国に負けぬ日本を作るために 俺も戦う おまえが戻ってきたときに 自由に羽根を伸ばして 思う存分働くことが出来る世の中であるように 俺も闘う 顔を上げて 堂々とおまえを迎えられるよう 俺も生きる だから草加 おまえはおまえの思うままに生きて そして世界を見て 元気で帰って来い そしてまた あの川原で語り合えるといい |
| 覚えているか? あの日川原でみつけた蝉が、無事に羽化したぞ 真っ先におまえに知らせたかった みつけたときは自分のことのように嬉しくて ついつい持って帰ってきてしまった おまえなら何と言うだろう 子供みたいだと言って笑うだろうか 愛しい笑顔を見せてくれるだろうか ・・・空蝉 ふわっと軽くて 少し力を入れればほろほろと潰れてしまいそうだ 不思議なものだな とうてい美しいとは思えぬこの抜け殻を 空蝉などという美しい言葉で呼ぶのだからな あの蝉も 蝉として生きられたのはほんの僅かかもしれない それでも 精一杯の時を過ごしたに違いない 全身全霊を傾けて ひととき鳴いたに違いない おまえが帰ってきたら いちばんに見せてやろうと思う ・・・それまで壊れずにいてくれるだろうか |
−了−
2006/9 ようこ
お世話になっております、ようこさんからいただきましたv
冬蝉の秋月さんです
穏やかな表情で心の中にはある決心を秘めて
こんな風に草加さんを待っていたんだと思います
誰にも・・・何よりも自分の恥じないように・・・
秋月さんの心情が胸に迫ります(>_<)
ようこさん、素敵なお話ありがとうございますv