逢瀬の約束など、一度も交わした事もない。 この前会ったのはいつだったか…と、振り返って見なければわからない程、容易く逢えるわけでも無いのに。 逢いたいと思った時に相手を訪れ頃合が合った時、それが自分達の逢瀬だ。 「……何だ?」 「…何が?」 確か下戸だと言っていたはずが、平気な顏で杯を開けている蒼紫の横顔が、嫌そうにこちらを向いた。 「さっきから、人の顏をジロジロと…。気色が悪い」 「ああ、そんな事か」 久方振りの逢瀬でありながら色気の無い言動が、余りにも彼らしく、斎藤はくつくつと笑いながら、空になった自分の杯を手酌で満たした。 「気にするな。お前に見惚れていただけだ」 ぴくり、と杯を持った蒼紫の指が動いた。 一瞬だけの僅かな動き。けれどそれを見逃す斎藤ではない。 「……くだらん」 尚も見詰めつづける視線の先で、蒼紫らしくない荒々しい仕草で、杯をひと息にあおる。 逢瀬と言っても、交わす会話などほとんど無い。 もともとあれこれと、詮索するのもされるのも嫌いな性質だ。互いにそんな性分だから、心地良いのかもしれない。 時折の、次がいつになるかわからない、この逢瀬が。 いささか酒が過ぎたのだろうか、軽く吐息をつきながら蒼紫はその少し長い前髪を無造作にかきあげた。 女と見紛うばかりの、きめ細かい白い肌が酒のせいでうっすらと朱みを帯びている。それは怜悧な美貌と相俟って、ひどく婀娜めいて見えた。 清冽と言って良い常日頃の蒼紫に、こんな一面がある事を他に誰が知るだろう。 憎まれ口を叩くしかない唇が、誰よりも艶やかで甘い声を紡ぐとは。 苦笑を浮かべながら、斎藤は自分の杯を膳に戻した。 「……何だ」 「……何が」 ふいに腕を掴まれたせいで、手元から零れ落ちた杯が、畳の上に転がっていく様を眺めながら蒼紫が問うた。 今さら「何だ」と問うような間柄ではないだろうと、斎藤は思ったが、蒼紫と言う男はこう言う男だ。 強くその腕を引けば、抗う事無く胸に抱きこまれてくるくせに。 頬に指を滑らせれば、わざとらしく溜息を吐いて、自分の本意ではないとでも言いたげな素振りを見せて。 今のこの時間をもたらしたのは、他ならぬ蒼紫自身が斎藤の下を訪れたからあるのだと言う事を、綺麗に棚の上にあげるのはいつもの事だ。 「もう少し素直になれば、可愛気があるものを…」 「…俺に可愛気があって、どうする…」 「…確かに。それはそれで、気味悪いな」 反論しようとした唇を、静かに塞ぐ。 仕方が無いとでも言いたげにそれを受け止めて、蒼紫はすっと身体の力を抜き、斎藤の腕に身を委ねた。 求めれば応じるその仕草に、言葉は無くとも、同じ思いを抱いている事を知る。 そしてそれがこの一時への、媚薬となる。 次の約束をしないのは、そのせいかもしれない。 相手をより深く感じられる、いずれかの日の逢瀬の為に。 - 終 - |
・・・・「るろうに剣心」から斎藤×蒼紫ですv
素敵です・・・・静けさが包み込む隠微な雰囲気・・・・
はあ、理想です・・・この2人の形の理想v
前に読ませていただいたときふるふるしちゃいましたの・・・
で、今回再放送にまた萌えているので、是非に!とお願いしてゲットしました・・・・v
あずまさん、ありがとうございます!!
大切にします♪