| 【 After Time 】 実績のある部は優遇される氷帝学園において、その最もたるのが男子テニス部だ。 部員200名を抱えるだけあって、部室と言っても世間一般的なそれではなく、クラブハウスとも呼ぶのが相応しい規模であり設備である。ロッカールームもシャワールームも、一般部員・準レギュラー・正レギュラー別に設けられ、特に正レギュラー専用のそれ等は、会員制スポーツクラブのようでもある。 部活後の自主練を終えた宍戸は、後片付けは自分がやりますからと、練習相手の鳳にシャワールームに追いやられ。その広いシャワールームを一人で使う快適さから、いつもより長くシャワーを浴びていた。 あらかじめ脱衣所に置いたままにしてある制服に着替え、今では短い濡れた髪をタオルだけで乾かすと、続き部屋になっているロッカールームへと足を向けた。 コートから部室に戻る際、見上げたそこは既に全ての明りは消えており、残っているのは自分と鳳だけだと思っていた。 だから。 「……何、やってんだ。お前ら」 ロッカールームの明りを付けた瞬間、宍戸が開口一番にしたのはそんな言葉。 「阿保。だーれのせいだと思っとんねん」 ネクタイこそ外してはいたが制服姿で備え付けのソファに腰掛けていた忍足が、呆れた声でそれに答えた。 「自主練もええけどな、ちゃんと届け出しとけや。全部の戸締りせなあかん、部長さんにもな」 一般部員・準レギュラーにはそれぞれ連絡係り兼使用する部屋の戸締り係りがいる。それ等の鍵を最終的に受け取り、クラブハウスだけでなくコートの最終的戸締りをするのは、代々部長の役目になっていた。 当然、部活終了後に残るのであれば部長に断わり、鍵を受け取って戸締りを代行しなければならない。だが、日々の特訓が実りレギュラー復帰を果たしえたその成果を失いたくないと、以前以上に鍛錬に燃えている宍戸(ともう一人)に、そんな事はすっぽりと抜け落ちてた。 「俺は、いっそ締め出したれ言うたんやけど。変なトコで部長らしいからなぁ」 だからこそ、この状況になったらしい。 練習を中断させ鍵を押し付けて帰らなかったのは、そんな所もあったからなのだろうか、と宍戸は一瞬考えた。 散々待たされた挙句、さぞや機嫌を損ねているだろうと思われるその部長は、だが。 「それ、寝てんのか……?」 『それ』呼ばわりされた事を知ったら、さらに機嫌は悪くなるだろうが、幸いに宍戸が指差した『それ』はぴくりとも動く気配はない。 「さっきまでは起きとったんやけどな。どっかの誰かさんがゆーっくりシャワー浴びてる間に、これや」 双方に言葉を途切れさせ、静けさの中に耳を傾ければ、微かな吐息が聞こえてくる。 サラサラとした薄茶の髪を、幾度も梳く忍足の指先に気づいてもいないのか。ソファの上に身体を伸ばし、忍足の膝を枕にし瞳を伏せているのは、やはり制服に着替えてネクタイを外した、部長と呼ばれ『それ』と称された跡部だった。 どうやら待ちくたびれた結果、眠ってしまったその寝顔を見て、珍しい、と宍戸が呟いた。 「何が?」 「いや、跡部がさこの状況でまだ熟睡してるってのが。そいつ、かなり人の気配に敏感で誰か来たりとか話し声とかで、寝ててもすぐ目ぇ覚ましたりすんのに」 「へぇ、そうなん?」 「ジローとは別の意味で、猫に似てんだよな」 片や24時間のうちどのくらいの割合を睡眠にあてているのかわからない猫と。 片や気位と警戒心が高すぎで、おまけに一度機嫌を損ねるとやっかいな猫と。 その表現に思い当たる事でもあったのか、忍足はふっと笑うと。膝の上へと視線を落とした。 ……宍戸が忍足と知り合ってから、初めて目にするような表情で。 忍足と跡部が、同性でありながら関係を持っている事を、彼らに近い人間達だけは知っていた。 しかしそれがちゃんとした恋愛感情からなのか、と問えばどちらも返って来るのは「NO」で。 決して私生活では真面目な優等生とは言えない行動の二人にとって、それは単なる気まぐれと暇つぶしなのだろうと、誰もが思っており、当人達も自分達の関係を「遊び」と公然に言い切っているし、実際に、四六時中一緒にいるわけでもないし、双方とも女の噂が絶えた事もない。 けれど、少なくとも今のこの姿を見れば、真実はどうであるか、それから目を反らそうとしているのが誰なのかと言う事が、明らかだった。 けれど、それを指摘した所で、きっとどちらも認めないだろう。 激ダサ……。 それが、宍戸がこの二人に対して、今一番言ってやりたい一言。 ふいに落ちた沈黙の中に、微かな呼吸音と扉の向こうから聞こえ始めた水音が重なった。 「鳳も、上がってきた見たいやな」 「あ、ああ。で、どうすんだ?それ」 「せやなぁ…。ムリに起こしでもしたら、後が怖いしなぁ。もう暫く、こうしとるわ」 「そっか。じゃぁ、俺等は帰るな。…跡部に、悪かったって伝えておいてくれ」 宍戸はそう言いながら、自分と鳳のロッカーを開けると荷物を取り出すと、シャワールーム側の扉へと向かう。 その背中が、ドアノブに手を掛けると同時に、振り返った。 「忍足」 「ん?」 「……警戒心の強い猫ってさ。自分の事を好きだって思ってくれているヤツの側じゃなきゃ、熟睡しないし。自分が好きなヤツじゃないと、側で眠ろうなんて事もしねぇって知ってたか?」 「………」 それだけを告げると、宍戸の姿は扉の向こうに消えた。 「宍戸に言われるとはな」 暫く続いていた水音が止んで、遠くの方で扉の閉まる音が聞こえて。 再び訪れた静寂の中で、忍足が呟いた。 「なぁ…?」 膝の上で瞳を伏せたままの跡部の髪に絡めた指先を、その唇の上へと動かす。 ゆっくりとそこを辿っていく忍足の指先を、しかし跡部は振り払う事もなく、目を覚ます事もなく。 「俺は自惚れても、ええんか?」 囁くように問い掛けても、返ってくるのは、穏やかな寝息だけだった。 |
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| いつもお世話になっているあずま ゆみ様のサイトでフリーSSだった忍跡でございますv 早速お持ち帰りしちゃいました。 跡部様は寝ちゃっているのですが、それでもすごい存在感なんです〜やはり女王様なんですね、素敵です。書かれなくても何かあったね・・・・と思わせる描写がすてきですわ〜v あずま様、ありがとうございました♪ あずま様のサイトへはリンク部屋よりどうぞv |