「何が言いたいのかな、君は」

静かに不二がリョーマを見つめた。

「言いたい事があるのは先輩の方でしょ」

ふっと笑う。

「おい、おまえ達、いったい・・・」

口を開けば互いに挑発することしか言わない2人に手塚は眉を寄せる。

「それはどういう意味かな?」

不二は腕を組みながら問いかけた。

・・・・まっすぐに見つめてくる目が気に入らない・・・・・

「大したことじゃないですけどね。例えば・・・・・そう、そのネックレスとか?」

すうーっと視線を手塚の方へ向ける。

日に焼けていない白い肌に銀の鎖が映えていた。

「独占欲、丸出しですよね・・・・先輩」

「・・・・・・」

「でも当の本人が分かっていないんじゃ、首輪の意味にもならないっすよね」

不二も何も言わずに視線をリョーマから手塚へ移す。

「・・・・・越前?」

どうやら話題が自分の事になっている事に気付いた手塚は無意識に首元に手をやった。

少し細めの鎖が指に触れる。

「・・・・・君にはまだ早いって言ったよね?」

不二はネックレスを触る手塚の指を見つめながら話す。

「何がですか? 時間? 年齢? そんなの関係ないと思いますね。欲しいと思った時が全てだと俺は思ってますけど?」

「そんなんじゃ、結局何も手に入らないよ」

・・・・・それは誰に向けた言葉だろう・・・・・・

「そんなこと、やってみなければわかないと俺は思うけど」

溜息をつきながら、そう言い放ったリョーマは再び手塚に向き合った。

「俺、アンタが気になってる。初めて会った時から・・・・・・アンタが俺の事まだ単なる後輩だと思っているのは知ってる。でも俺はそうじゃないから・・・・・だから、アンタも分かっていて」

「な・・・・何を言ってるんだ、越前、おまえは・・・」

「いつまでも何も見ないままじゃ済まされないよ、手塚さん」

「!」



彼としてはたぶん最上級の真面目さで告白をしているリョーマと、そしてそれに戸惑っている手塚を、不二は妙に落ち着いた気分で見ていた。

心の中ではそんな事は許さないと叫ぶ自分もいる事はいたが、どうやら今はこの片思いに疲れた自分の方が心を占めているのか。

不機嫌ながらも、妙に冷めていた。



「不二・・・」

どうして良いか分からないままに手塚が不二に目を向ける。

「何?」

「おまえは・・・・」

「僕が何?」

「いや・・・・・なんでもない」



手塚が何を言いたかったのか、不二にはいまいち決めあぐねていた。

でも彼に今何を伝えていいのかはわからない。

確かに独占欲・・・・それは否定しない。狂おしいまでの想いを抱えていることも・・・・。

でもそれはきっと片道だ。

彼にはその全ては永遠に届かない想いだった。

そう、それは確実なのだ。

あのことが手塚を捉えて離さない限り・・・・・。


だから、手塚が不二の応答に少しだけ顔を曇らせたのも、単なる面倒な事に巻き込まれた事への不機嫌さなのかどうか分からなかった・・・・・そしてそれを確かめたくもなかった。



「不二先輩、それは余裕って奴ですか?」

「別に・・・君には分からない事がいっぱいあるって事だよ」

「へええ」

呆れたようにそう答えると首を振る。

「俺にはそんな駆け引きなんか分かりたくもないですからね。・・・・・さっきも言ったけど、欲しいと思ったらその時が全て。遠慮はしませんよ」

「そう」

不二は少し微笑む。何をどう言われようと自分のペースを変えようとは思わない・・・・でも・・・・でも・・・・・と少しだけ思う自分がいるのも真実。

「楽しみにしているよ。・・・・・・でも堂々とね? 卑怯な手は、なしだよ」

「それはこっちの台詞」

「おい、おまえ達、俺を置いて話を進めるな! 第一俺は・・・」

「手塚は手塚でいてくれたらそれでいいよ」

そう言って、手塚の台詞を遮る。もういい加減今夜は疲れてしまった・・・・すごく長い夜だったように感じる。


そう・・・・君は君のままで・・・・・固執しているのは自分なのだから。


リョーマが手を挙げて身体を伸ばした。

「じゃ、まあそういうことで。手塚さん、不二先輩、お先に」

「おい、越前、まだ話は終わって・・・」

「慌てなくても時間はありますよ。そうでしょう? 不二先輩」

「さあ、どうかな?」

不二が微笑む。それは誰にも分からない。

「それじゃ」

そう言い残すとリョーマは店を出て行った・・・・。



「手塚、僕たちも引き上げよう」

「不二!」

ドアに足を向けた不二が止まる。

「・・・・・手塚は手塚でいいんだよ」

「俺がどうとかそんなことばっかり・・・・俺は」

「手塚・・・」

静かに不二は台詞を遮った。

「僕が知らないとでも思ってるの?」

「え?」

「・・・・・君の心の中にいつまでも棲み続ける人のこと」

「・・・・・不二」

図星・・・・なのか、声色が変わった事を確認しながら、そのまま歩き出す。

今、後ろを振り返る事は出来ない。

手塚の表情を見る勇気はなかった。


こうやって・・・・いつまでも逃げ続けるんだね、僕は・・・・

いったいいつまでだろう・・・・。

「手塚・・・・ソレ、大切にしてくれたらそれでいいよ」

今はそうとしか言えない。


「じゃあ、お先に」

片手を上げて不二はドアを閉めた。






・・・・棲み続ける人・・・・・

誰もいなくなったホールで手塚は、不二が出ていったドアをいつまでも見つめていた・・・・・。


2003・7・30 necklace編 完