軽く礼をしてドアを閉める。

ふうっ・・・と短い溜息をついた手塚は薄暗くなった店内を見渡した。

もう店を閉めて1時間あまり・・・・片づけ当番の新入りも帰ったのだろう。

ふと、一人の男の顔が浮かぶ。

もう残ってはいないだろうと軽く首を振りながら、淡い光の通路に顔を向けた。


「・・・・・遅くまでお疲れっす」

誰もいないと思っていた店内から声がかけられ、慌てて振り向いた手塚は目をこらす。

つい目を細めてしまう・・・・。よく不二に指摘される癖だ。

するとさっと手が挙げられた、動いた影の方を見ると広いソファーに座り、ゆったりと脚を組んだ越前がいた。

「まだ残っていたのか」

「はい」

「もう用はないだろう、早く帰れ」

いつもよりも少し疲れを感じていた手塚は面倒くさそうに言う。鍵は残っている店長が閉めて帰るだろうが、閉店後の店内のチェックは手塚の仕事だった。

「用事ならありましたよ」

「・・・・・なんだ?」

離れて話すのも・・・・と思い手塚は越前が座っているソファへと近づく。

「なっ、何をしているんだ、おまえは!」

近づいて見るとそのテーブルにはボトルが置かれ、水割りの入ったコップがあった。

「何か?」

「何を考えているんだ、もう店が終わっただろう。勝手に此処の酒を飲むんじゃない。」

「でも俺、今日は店の誰よりも多くボトル入れたと思うけど?」

「だからなんだ。仕事とそれ以外はしっかり分けろとあれほど」

「まあまあ、そんなに怒鳴らなくても・・・・・別にこれ給料から引いてもいいっすよ。それだけのものは稼いでるし」

全く悪びれない彼の顔を見つめる。

もう何回目になるのだろうか手塚が溜息をつく。

「・・・・・・全くおまえは・・・・あんまり好き勝手するにもほどがあるぞ」

いくら個人的に売り上げがいいと言っても、店で働く限り多少の協調性は持っていて欲しい。特に手塚はその点を重視していた。

「おまえがそんな風だと、みんなに示しがつかないだろう・・・・・それはおまえの売り上げがどうこうという問題じゃないんだ」

「そうでしょうねえ」

「越前!」

もっと謙虚になって欲しい。

最初に会ったのは自分だし、彼の話し方には慣れている。たまたま今のメンバーは彼の横柄さに寛容だが、この先いつまでもこのままだという保証はないのだ。それでもなくても人の入れ替わりが多い世界だ。
そのことが手塚の心配事の一つだった。

彼の態度は店の雰囲気を左右してしまうものだ、だからこそ時々注意をしていたのだが、ますます最近、越前の態度が大きくなってきた。

「・・・・・越前、なぜそんなに」

「あんたのせいじゃん」

手塚の言葉を遮るように越前がつぶやく。

「は?」

思いがけない言葉につい聞き返す。・・・・・何と言った?

「わかんないっすか? 相変わらずですね」

笑みを浮かべたまま立ち上がる。

「何を言ってる? 何で俺が・・・」

「天然って言えば可愛いけど・・・・・結構罪っすよね」

いつの間にか目の前に立つ・・・・手塚の方が背が高い。

いつもは少し見下ろす事の多い越前の顔が、ホールの段差の関係でほとんど背が変わらないため、すぐ側にあった。

「おい越前・・・」

慣れない状況に手塚が一歩下がる。

「・・・・・俺、誰かさんみたいに気が長くないですから・・・・・」

まっすぐ見つめてくる目に言葉を失う。

「さっきから何言ってるんだ? 俺はおまえの態度を言ってるんだ」

「だから・・・・・原因はあんただって言ってるでしょう」

わかんない人だな、と小さく付け足す。

「何で俺が!」

越前がぐっと顔を近づけてきた。

「・・・計算・・・・・・じゃないよね? でもそうだと、本当にタチが悪いや」

「・・・・・・・・」

なんか同じ事を不二にも言われた気がする。

訳が分からないままに越前から目が離せない手塚はその場から動けなくなっていて・・・・・

「ねえ、俺と・・・」

手塚の肩に手がかけられた・・・・



「おや、お邪魔だったかな」

横合いが声がかかる。

二人が同時に通路を見た。

「不二・・・」

まだ残っていたのか・・・・と手塚が呟く。

少しの間不二を見つめて・・・・ちっ、と越前は舌打ちをした。肩にかけていた手をはずす。

「・・・・・そう思うなら声をかけないで欲しいですね」

「それは失礼。一応聞いておいた方がいいと思って・・・・ね」

「・・・・・・そりゃ、どうも」

互いに睨み合うような状況に、流石に空気が冷たく感じる。

まだ彼が残っていたことに何処かでほっとしながらも手塚は何も言えないまま、目の前の越前と不二を見つめていた。