バレンタインの風景1

パコーン
パコーン
ボールがラケットを叩く音が響く放課後のテニスコート。

腕を組み部員を見守っていた手塚の元に不二がやってきた。
「ふう、ノルマ終了だよ、手塚。」
「ああ。」
「ねえ、今日は少しだけ早めに抜けない?」
「・・・早めに? どうしてだ。」
「ほら、あそこ。」
不二は少し離れた柵の外を指さす。
そこには包みを持った女生徒が沢山集まってきていた。
「チョコを渡そうと思って待ちかまえているよ。部活が終わった途端押しかけてくるだろうね。」
「それが・・・・なんだ?」
手塚は不二の言おうとしていることが見えずに首を傾げる。
「あそこにいる女の子の半分近くは君目当てだからね。」
「それは違うだろう。此処には菊丸や桃城だっているし他の部員だって・・・・別に俺が目当てというわけでは・・・」
「此処のテニス部が人気だと言うことは知ってるんだろう? どうして自分だけは例外だって思うかな。それに・・・・」
不二は言葉を切って手塚を見つめる。
「あの中には僕宛のチョコがあるかもしれない・・・・とか考えないのかい?」
「そ、それは・・・・」
「君は僕が貰っても良いわけ? 気にしないの?」
「・・・・・」

すっと不二は黙り込んだ手塚の腕組みをして隠れている手を握る。
途端、その身体が揺れるのを見て口元に笑みを作る。
「気にしないわけ・・・ないよね?」
「・・・・・・」
「僕だって同じ。君が他の子からチョコを貰う所なんか見たくないんだけど。」
「不二・・・・」
手を離せ・・・・と小さく手塚が呟く。
「早めに抜けるって言ってくれたら。」
「それは・・・・」
まだ練習をしている部員を残して帰るのは気がひける。
「うんって言ってくれないと・・・・・手だけでは済まないよ?」
「なっ・・・!」
「僕はちっとも構わないんだからね、僕たちの事がばれたって。」
「不二!」
「手塚は嫌なんだよね? じゃあ、答えは決まっているよね。」
不二の握る手が強くなる。
その握られた所から甘いものが身体に広がるのを手塚は感じる。
「・・・・・わかった・・・・わかったから離してくれ。」
「くすっ・・・・いいよ。」

少しだけ不二が離れる。
手塚は息を少し多めに吸い込んだ。
「大石! 今日は急用のため少し早めに抜ける。後は頼む。」
「ああ、わかった。」
大石は手を挙げて頷く。
手塚が足早にコートから出て行く。
「あれ?」
「どーしたの、大石!」
ちょうどタオルを持ってきた菊丸が大石の見ていた方向を見る。出ていく手塚の後に不二が続く。
「いや、不二も一緒にもう上がるのか・・・と思って。」
「なんか用があるんじゃない? もう不二は今日の分終わらせちゃっているよ。」
「そうか。よし、じゃあ俺たちも早めに終わらせるよう頑張ろう!」
「だね!」
にっこり微笑み返してコートに走り出すふたり。





その後、校門を不二に引っ張られて出ていく手塚を数人の生徒が目撃したという。