| 朝の風景 「とーや、とーや……」 耳に心地好い声と、ゆさゆさと身体を揺する手に、桃矢は意識を眠りの底から引き上げた。 「ん……?」 まだ眠い瞼を無理矢理こじ開けた桃矢の視界に、自分を覗き込んでいる雪兎の顔が飛び込んできた。 「とーや、起きて。朝御飯できたよ」 にっこりと柔らかい微笑みを浮かべて雪兎が言う。 「ん、何時だ?」 まだ寝足りない桃矢は、欠伸をしながら時計を目で探す。 「もう9時過ぎだよ」 桃矢の視線が時計を捉える前に、雪兎が素早く答える。 「9時?んじゃ、まだいいだろ。今日は休みなんだし、別に用事もないだろ」 身体を起こしかけていた桃矢は、もう一度布団へと潜り込んだ。 「だって、折角美味しく朝御飯出来たのに」 「俺はまだ眠いんだ。昨夜、頑張ったからな。寝たの明け方なんだぜ」 そう言って、桃矢は布団の中から雪兎の顔を覗く。その意味に気付いて、雪兎はかあっと頬を染めた。 「ゆきは平気なのか?」 にやり、と布団に隠れて口元を歪めて、桃矢は更に問い掛けた。 「腰、辛いだろ」 「へ、平気だよ」 耳朶まで真っ赤に染めて恥らう雪兎の姿が、酷く可愛らしかった。そんな雪兎を見ている間に、桃矢の胸中でむくむくと悪戯心が擡げてきた。 「んじゃ、まだ付き合えるか?ゆき」 唐突に雪兎の腕を掴んで、引き寄せる。 「駄目、だよ」 身体を捩ろうとする雪兎を、桃矢はそのまま腕に抱きこんだ。 「何で?今日はゆっくり出来るだろ」 ふわりと漂う味噌汁の匂いにそそられて、雪兎の頬に唇を寄せていく。 「ゆき、いい匂いするな」 「とーや、離して。僕、朝御飯食べたら、出掛けるんだから」 桃矢の腕の中でもがきながら、雪兎が言う。 「出掛けるって、何処に?」 そんな話は聞いてないぞ、と桃矢は問い掛けた。その間も、不埒な指先は雪兎のシャツに潜り込もうとしている。その手を、雪兎は軽く叩いた。 「買い物。スーパーで、午前中だけ特売やるってチラシ入ってたから。凄く安いから買い溜めしておきたいんだ」 だからね、と向けられた微笑みは強力だった。だが、あっさりと離してやるのは惜しくて、桃矢は少しだけ思案する。 「だったら、キスしてくれよ」 「え?」 「おはようのキス。そしたら起きる」 にやりと笑って、桃矢は雪兎の唇を指先で突付いた。 「嫌じゃないよな」 念を押すような桃矢の台詞に、雪兎は躊躇いがちに頷いた。 「嫌じゃないけど、でも、もう朝なのに……」 しどろもどろになって、視線を浮かせる雪兎を、桃矢は抱き寄せた。 「朝だからおはようのキスなんだろ。ほら、早くしないと遅くなるぞ。どうせ、俺にも荷物持ちして欲しいんじゃないのか?」 「うん……」 おずおずと顔を近づけてくる雪兎を、桃矢はじっと待ち受けていた。雪兎から接吻してくれる事は滅多に無い。桃矢から仕掛ければ、素直に応じてくれるのだが、まだ自分から積極的にはなれないのだろう。 恥じらいに瞳を伏せた雪兎の長い睫毛が揺れている。そっと唇が触れる。 柔らかな優しい接吻。 触れるだけで離れていこうとする唇を、桃矢の唇は追いかけていく。そして、離さないとばかりに雪兎の背中に回した腕に力を込めた。 「んっ………」 するりと雪兎の唇を割った桃矢の舌が、口腔に潜り込む。逃げようとする舌を追いかけて、存分に味わう。 含みきれない唾液が唇の端から零れて行く。 すうっと雪兎の身体から力が抜けた。その瞬間、桃矢は漸く雪兎の唇を貪るのを止めた。 「ご馳走様」 顎を伝っていた唾液を舌で舐めとって、桃矢は雪兎の耳元に囁いた。顔を上気させた雪兎が、潤んだ瞳で桃矢を見上げる。 「もうっ……」 照れ隠しに膨れて見せても可愛いだけで、桃矢は満足そうに雪兎を腕の中に抱き込んでいた。 「もういいよね」 ぎゅっと睨んでくる雪兎に、桃矢は上機嫌で笑いかける。 「ああ、でも立てるのか?」 「大丈夫だよ。それより、早く起きてね。約束なんだから」 よろよろと立ち上がって、雪兎はくるりと背を向けた。 「分かってるって」 続きは、後でな、と小さく言葉を続けて、桃矢は身体を起こした。 「さてと、顔でも洗ってくるか」 窓から射し込む陽射しの明るい、日曜の朝。一日は、まだ始まったばかりなのだ。 |
★この小説は水咲様のHP「つきうさぎくらぶの部屋」で
日生が10000HITのキリ番を踏んだ際に書いていただいたものです。
桃矢と雪兎の日常の風景というリクエストをさせてもらったのですが、
こんな甘〜いお話をいただいちゃいました!
ありがとうございます、水咲様! 水咲様の書かれる桃矢くんは男らしくって、
雪兎さんをとても情熱的に愛しているので大好きです。