日射しの暖かい午後。

思わず大学の講義が休講になり時間が出来た桃矢と雪兎は街をぶらついていた。


「久しぶりだね、とーや。」

「そうだな・・・学校とバイトの往復だもんな。」

「とーやは特にね。僕はたまに此処へは来るけどね。でもとーやと来る事なんてめったにないから。」

嬉しそうに話す雪兎に桃矢は目を細める。

どうしてもバイトに追われる桃矢はゆっくりと雪兎のために時間をとることが出来ない。

こうやって二人で過ごすのも1週間ぶりだった。




「あ、綺麗だね!」

急に声をあげて雪兎が脇の店を指さす。

そこには春らしい明るい色の花々が沢山飾られているフラワーショップ。

「ほら見て、とーや。これ可愛いよね。」

黄色い花をつけた小さな鉢を持ち上げて雪兎が笑う。

「そうだな。」

雪兎に相づちを打ちながら桃矢は店に置かれている花を見渡す。

春になると本当に色鮮やかになるものだとしみじみ感じる。



「ねえ、とーや。」

「なんだ?」

「さっきホワイトデー、何がいいかって聞いたよね?」

「ああ。」

帰り道、3日後のその日、何か希望はあるか・・・と雪兎に聞いたばかりだった。

「言っていい?」

「ああ、なにか思いついたのか?」

「あれがいいな・・・・。」

すっと店の一角を雪兎が見た。

つられて桃矢も見る。

そこにはこんな小さな店には珍しく桃の木の苗が置いてあった。

「・・・桃の木?」

「うん。」

にっこり笑う雪兎に思わず桃矢は顔を赤くする。

「とーや?何赤くなってるの?」

少しだけ意地悪そうに雪兎が声をかける。

「・・・・ホントにあれでいいのか?」

「うん、あれでないといらない。」

静かに、でもはっきりと雪兎が言った。

ゆき・・・・小さく呟いて困ったように頭を掻く。

本当は嬉しくて嬉しくてたまらないけど、こうストレートに言われると逆に照れてしまっては、どうにも落ち着かない。

「じゃあ、待ってろ。」

そう言い残して店内に入っていく桃矢の背中を見る。

首の後まで赤くなっているのが見えて雪兎は思わず吹き出した。






ありがとう、とーや。

だってどうしても庭に桃の木が欲しかったんだ。

貴方の名前の木だから。

会えない時でもその木を見ていれば元気をもらえるような気がするんだ。

だから桃の木を、いつも見えるところに・・・。





「リボンをかけますか?」

って聞かれて困っている桃矢に、雪兎はまた笑った。

どうする?って視線を送ってくる桃矢に、いらないよ、と手を振る。

欲しいのは木だから、綺麗なピンクの花をつける愛しい人の木。




桃矢が出てくるのを待ちながら雪兎は空を仰ぎ見る。

春が始まる。

二人で過ごす何度目かの春。

今年はあの桃の木と一緒に春を迎えよう。

これからもずっと・・・・。

大好きな大好きな人と一緒に。

2002・3・14
M・Hinase

★ホワイト・デーといつつも季節ネタに走っているというか、桃に逃げたというか・・・・申し訳ないです。
ケーキやクッキーを出してもねえ、とか思ったもので・・・・(汗;)。
またしてもオチなしです。
ちょっと此処の桃矢君、かわいい?