・・・29日かぁ・・・・
今年のカレンダーには記されていないその日。
4年に一度しか来ないその日は大切な人の誕生日だった。
雪兎はたった今置いたばかりの受話器を眺めながら、小さく息を吐いた。
そのことが一番良いのだと思いながらも何となく何処かに引っかかる想い。
別に気にすることではないのだし、おそらく本人も気にしていないはずだ。
でも・・・・やっぱり・・・・。
雪兎は縁側に座ると暮れゆく空を眺めながら、また溜息をついた。




学校から戻ってきた途端鳴った電話のベル。
慌てて駆け寄ると聞こえてきたのはさくらの声だった。
明日の3月1日の夜に桃矢の誕生会を家でやるので来て欲しいとのこと。
1日遅れのお祝いになるが、ちょうど週末にかかるその日に会を催すのは何かと都合が良い。事実、肝心の本人は今日も明日もバイトで夜遅くまで家には戻らないようだった。
「うん、わかった。少し早めに行くね。ありがとう、さくらちゃん。」
そう礼を言って電話を切った。




春が近づいて日が長くなったのだろう。
6時を過ぎても真っ暗になることはなくなった。
割り切れない想いのまま立ち上がって雪兎は雨戸を閉める。
その時ふと庭の隅の方にあった小さな緑が目に入った。
それが何であるかと思い当たると同時に、ぱあっといろんな事が頭に浮かぶ。
・・・そうだ!あれを作ろう!・・・
時計を見る。時間はまだ充分ある。何とか間に合うかもしれない。
これを思いついたことでさっき考えていたことも一気に解決出来そうだ。
雪兎は袖をまくり上げながら台所に向かった。




「お疲れ様でした。」
店の裏口から出た桃矢は雲一つない星空を見上げて背伸びをする。
今日は店が賑わって予定よりも30分遅くまで働いた。
週半ば、さすがに少し疲れも感じるが明日の晩には自分のために誕生日のパーティーが開かれる事を考えるとそれも気にはならない。
今更パーティーという年でもないとは思うが、楽しそうにあれやこれやと考えているような父親やさくらを見ているのは嫌ではないし、雪兎の顔も見られる。
自然に顔が緩む桃矢だった。




店を出て少し歩いた角に桃矢は人影を見つけた。
まさか・・・・と思っているうちにその人影は桃矢を見つけて手を振ってきた。
「ゆき!」
薄いセーターにコートをひっかけただけの格好の雪兎に目を丸くする!
「お疲れさま、とーや!」
「お疲れさまって・・・何やってんだ、こんなとこで。」
「うん?とーやを待っていたに決まってるじゃない。」
「あ・・・・でもなあ、こんなに薄着で風邪でもひいたらどうするんだ!」
「大丈夫だよ、ほらマフラーもしてきたし。」
ね?と、雪兎はマフラーを指してにっこり微笑んだ。
「ったく・・・・手が冷えてるじゃないか。」
こんな寒空に・・・と思う反面、思わぬ所で雪兎の顔が見られたことはやっぱり嬉しい桃矢はそれ以上強くは言えず、触った雪兎の手を片方自分のポケットに入れて歩き出した。
そんな桃矢の行動が嬉しくて、雪兎も黙って横に並んで歩く。




しばらく歩いた時、突然雪兎が立ち止まった。
「どうした?」
雪兎は腕時計を見る。
「・・・・もうすぐ12時になるね・・・・とーや・・・」
すっと雪兎が手を伸ばして桃矢の頬に触れる。
そして少し背伸びをした。
触れる温かさ・・・・
桃矢はそれが雪兎からのキスであることに気付くまで少し時間がかかった。



「なっ・・・ゆき!?」
普段あまり自分の方からはしてこないキスをされたことに驚き桃矢は雪兎を見つめた。
その視線を受け止めて雪兎が微笑む。
「・・・・28日の終わる瞬間、そして3月1日が始まるこの瞬間に桃矢に会いたかった。
会って『おめでとう』って伝えたかったんだ。誰よりも早く・・・・」
「ゆき・・・・」
恥ずかしそうに呟く雪兎の肩に触れる。
「ありがとう、ゆき。」
「もう今日の晩会えるのに・・・・・でもどうしても今でないと駄目だと思ったから。」
その言葉に桃矢は腕の中の雪兎をぎゅっと抱きしめた。。
「おめでとう・・・・とーや。」
雪兎がもう一度耳元で囁いた。





結局そのまま雪兎の家へと向かうことになった2人は人通りもない道を寄り添って歩く。
「あっ!」
突然声を挙げた雪兎に桃矢が立ち止まる。
「なんだ?」
「忘れる所だった。」
そう言うと雪兎はゴソゴソ包みを開ける。
「これ作ったんだよ!」
ポンと桃矢の手のひらに柔らかいものを載せる。
「・・・・餅?」
桃矢は手の上にある薄い緑色の餅と雪兎を交互に眺めた。
「よもぎ餅だよ!出来たてだから、まだ温かいでしょう?」
「ああ、そうだな。」
・・・・でもなぜよもぎ餅?・・・・
桃矢は首をかしげながらも餅を一口食べる。
甘いあんこが疲れた身体に心地よかった。
「とーや、なんでよもぎ?って思っているでしょう?」
「え?ああ、まあな。」
「28日がね誕生花で言うと『よもぎ』なんだよ。ちょうどうちの庭に綺麗なよもぎが出ていたから・・・・これ作ろうって・・・・どう?とーや。」

返ってきた言葉はなかった。
代わりに雪兎がもらったものは甘い甘い口づけ・・・・。
背中に回される手のぬくもりに幸せを感じ、雪兎は目を閉じた。


HAPPY BIRTHDAY TOUYA・・・・・・

2002・2・28
M・Hinase

★桃矢君の誕生日SSですv
ヘタレですが遅刻だけは免れました〜(^_^;)。ほっと一息vv
内容はともかく『おめでとう!桃矢君』です。
雪兎さんとステキな誕生日を過ごしてねv