縁側で・・・


ちりりん・・・風鈴が小さな澄んだ音を奏でた。
昼間の暑さも夜ともなれば過ごしやすい風が吹いてくる。
縁側にいると竹の葉が揺れる音も聞こえてきた。
「静かだね・・・とーや・・・」
つぶやくように言った後、返事のないことに気づく。
と同時に下からもすーすーと安らかな寝息も聞こえてきた・・・・。
(あれ? とーや寝ちゃった・・・疲れてるんだね・・・)
雪兎は膝の上の桃矢の顔を眺め、髪をそっとなでた。
1日バイトに出て、夕方雪兎の家にやってきた彼、
週末はいつもどちらかの家に泊まることになっていた。
いつもはタフな彼も、ここ最近の暑さにはまいっていたらしく
食事が済んだ後、縁側で涼んでいた雪兎に
「膝を貸してくれ」と言って転がってきた。
(・・・・ふふ、とーやなんか可愛い・・・・)
そんなこと言ったら、きっと嫌な顔をするだろうな・・・。
寝顔は彼のあどけなさが強調されて、見るのは好きだった。
普段は年齢以上にしっかりしていて、さくらの面倒を見、父親を助けている。
きっと小さい頃から精一杯頑張ってきたんだろう・・・・
そういう彼だからこそ自分の前では甘えて欲しいと思う。
そんなことは口には出して言わないけれど。
「今、何の夢見てるの? とーや・・・・」
そっと囁く。
相変わらず寝息を立てている桃矢を見ながら、雪兎は昼間のことを思い出していた。



「えっ!? 欲しいもの?」
「そ、欲しいもの!」
学食で昼食をとっている時だった。
「急に言われても・・・それに何故僕にそんなこと聞くの?」
突然話かけてきた演劇部の部長の顔を見つめ返す。
「ほらあ、いつも月城君にはお世話になっているじゃない?助かっているのよ、ホント。
先日やった公演も評判良かったしね。それで、我がクラブと致しましては、その貢献者である月城君に何かお礼をしようということになって。」で、私が希望を聞きに来たわけ・・・と、手にしたジュースを飲む。
「いいよ、別に。何かの役にたてばそれでいいんだし。評判が良かったっていうのを
聞けただけでも嬉しいよ。」
にっこりと微笑み返しながら答える雪兎に彼女はため息をつく。
「はあ〜やっぱりねえ、月城君がそう言いそうな気はしてたんだけど・・・もう、無欲なんだから!
仕方ない、こちらで何か選んでもいい? 」
「いいけど、本当に気にしないで。それよりまた機会があったら声かけてよ。」
「もちろん! 嫌と言っても引っ張りだすわよ〜」
二人は顔を見合わせて笑った。



・・・無欲かぁ・・・
彼女の言った言葉が何となく耳に残った。
欲しいものがないわけじゃないんだけど・・・。
「ね、とーや」小さい声でつぶやいた。
「何だ?」
「えっ!?」突然の反応にびっくりしてしまった。
「何が、ね、何だよ?」あははは・・・笑ってごまかす雪兎を下からじっと桃矢が見つめる。
「何んでもないよ、ひとりごと。」
あわててずれてしまった膝の上の頭を優しく抱えなおす。
「ま、いいけど・・・」雪兎に話す気がないのを感じ取ったのだろう、どうやら追求するのをやめたらしい。
くすっと雪兎は笑った。
「ね、とーや見てよ。すごい星だよね。ここでもこんなに見えるんだね。すごく綺麗だ。」
その声に一端閉じかけた目を開く。
満天の星が降り注ぐように瞬いていた。


「なあ、ゆき・・・」しばらくの沈黙の後、桃矢は雪兎に話しかけた。
「何?」そっと雪兎は桃矢の顔に視線を戻す。
「あのさ・・・・まだ少し先になるけど・・・・さ」
ん?と雪兎は首を傾げた。その瞳を見ていられなくて目をそらす。
「その・・・・この星みたいなの・・・・渡すから」
「えっ!? 星? 星って?」
「・・・・だ、だから」いつの間にか顔が真っ赤になっている。
「とーや?」
「星みたいにきらきら光るもの・・・・ゆきに贈る。」
きらきらって・・・それって、もしかして・・・・じっと桃矢を見つめる。
「・・・・ありがと・・・・楽しみにしてる・・・・」
僕の欲しいもの、それが全てではないけれど、形としてあるとそれはそれでとても嬉しく思う。
照れてそっぽを向いている桃矢を見て、そして空を仰いだ。
星の瞬きを身体いっぱいで受け止める。

静かな静かな夏の夜・・・・

2001・8・2
M・Hinase

★これはリクエストで書いた「あおいいろ」と連動するお話。
実はもっともっと深く掘り下げたかったなあ〜と後悔しきり・・・・ごめんなさい、雪兎さん。