| 幸せな時間 なま温かい風が身体を包む。 この調子じゃ、明日は雨かな・・・手の甲で汗をぬぐう。 夏至が過ぎたとはいえ、まだ日は長い。 7時になろうかというのにまだ明るい街の中を桃矢は早足で歩いていた。 「ったく、どこに行ったんだ・・・」 すれ違う人、そして店の中にせわしく目をやりながらつぶやいた。 他をあたってみるか・・・。 『えっ? いない?』 バイトから帰宅した桃矢は玄関先でおたまを持ったままのさくらに出迎えられた。 『うん、さっきまではリビングに・・・。で、知世ちゃんと料理を作っていて味見をしてもらおうと思ったら、もう・・・・。』 奥の方から心配そうに知世も顔を出している。 『何も言わずにか?』 『うん・・・』 髪をかき上げる、ふう〜とため息をつくと心配そうに見上げる妹の頭をぽんぽんと叩いた。 『俺が見てくるから・・・心配すんな、もうすぐ来るんだろ?あいつが。』 桃矢は家を出た。 川を渡る風が心地よい。 昼間は暑くても日が落ちてくれば過ごしやすくなる。 (気持ちいいなあ・・・) 目の前を流れる水は冷たそうで、触ってみたくなった。 そっとしゃがんで手を入れてみた。 「あれ?・・・やっぱりぬるいかな・・・でも流れてるからいい感じだな。」 時々ここには来ていた。 友枝町を流れるこの川は雪兎のお気に入りだ。 河原が広くて、川の水が綺麗で、そんなに深くもなく穏やかに流れる川。 川に架かる橋が夕日に照らされて綺麗に輝くのを見るのも大好きだ。 このところのぐずついた天気のせいでこの風景が見られなかった。 ここに立つと色んな事を優しく受け止められそうな気がする。 どんなこともやれそうな気がする。だから何もなくても良く此処に来ていた。 「ゆき!」 河原に立って橋を見ていたら不意に後から大きな声がした! 振り返ると桃矢が土手を降りてくるところだった。 「とーや!」 「なにやってんだ、こんなとこで!」ハアハア息を弾ませながら雪兎の正面に立つ。 「え?何って・・・川を見に来てたんだけど。・・・もしかして何か怒ってる? とーや。」 大きな目を見開いて聞いてくる雪兎に桃矢はふーっと深呼吸をした。 怒鳴りたくなる気持ちをぐっと抑えて。 「怒ってる?って・・・バイトから帰ったらおまえがいなくなったってさくらたちが言うし、 もうこんな時間なのに・・・・・・・あちこち探して・・・」 「え?こんな時間って、今何時なの?」桃矢の言葉に雪兎は慌てた。 「・・・もう7時過ぎてる・・・・まったく・・・」 「ごめんね、僕そんなに時間たっていると思わなくて・・・・料理手伝おうと思ったんだけど、 さくらちゃん達が一生懸命やっているのを見たら逆に手を出すのも悪いかな・・・って思って。 そしたら急に、ここの景色が見たくなってほんのちょっと出るつもりで・・・ごめんなさい。」 そんなに心配かけるとは思っていなかった雪兎は素直に謝まる。 雪兎は汗をびっしょりかいた桃矢をあらためて見た。 バイトで疲れているのに、また疲れるようなことをさせてしまった。 「ごめんね・・・とーや・・・ごめんなっ・・・・・・」 急に抱きしめられる。 「どんなに俺が心配したと思って・・・・・・良かった・・・・」 (また泣いているかと思った・・・・) 心配でたまらなかった、姿を見るまで。 ようやく見つけた雪兎は予想に反して明るくて・・・・。 強く抱きしめられた胸の中は桃矢の汗の香りがいっぱいで・・・愛しい鼓動も聞こえて・・・。 (とーやのにおいだ・・・僕の好きな・・・・) うっとりと目を瞑ると余計に桃矢を感じた。 「ごめんね・・・心配かけて・・・」(僕はもう大丈夫だから・・・) いつもいつも桃矢は自分を見つけてくれる、どこにいても何をしてても・・・ この何にも替えがたい安心感は雪兎を支えてくれるもの・・・大切な人。 少し顔を離して、桃矢の目を見つめた。 「ゆき・・・・」 雪兎は桃矢の肩に手をかけ軽く触れるような口づけをする。 「・・・っ!」めったにない雪兎の行動に息をのんだ。 「・・・・これで許してくれる?」頬をあからめながらもにっこり微笑む雪兎が愛おしい。 「足りないな・・・」 「えっ!?」 「これじゃ、許せない。」 「・・・・とーや・・・・」情けない声になる。今のでもかなり勇気がいったのに・・・。 「あとでゆっくり・・・・・・な。 さ、帰ろうぜ、さくらたちが心配してる。」 意地悪そうに笑って、でも少し照れて・・・くるっと背中を向ける。 「あ、待ってよ、とーや」 雪兎はあわてて追いかけた。 さくらたちにも謝らないといけない、自分を包んでくれる優しい人達。 雪兎は桃矢の背中を見つめながら、幸せだと思った。 土手を駆け上る二人の横を風がやさしく吹き抜けた。 小さな小さな、でもそれは大切な幸せな時間・・・・。 |
2001・7・6
M・Hinase
| ★・・・・・これ確か小狼君の誕生日用にUPしたような気が・・・・すまん、小狼! 出てきてないよ;;; 私の中でまだあなたをどう扱っていいか分からないんだ・・・・ぐっすし。 |