何かに呼ばれたような気がして・・・・目が覚めた。
見慣れない天井が目に入って来た。

あれ・・・・ここ・・・・・

ふと身体にかかる重みを感じる。
自分の身体を抱き込むように腕が回されている・・・・・・。

あ、そっか・・・・

雪兎は段々はっきりしてきた頭を軽く振った。





夏のある日。
突然降ってわいた温泉旅館への旅。木之本氏が同僚と出かけるために使うはずだった予定が急にキャンセルされ、桃矢と雪兎に回ってきた。
聞けば有名な旅館で、1年先まで予約で一杯の所と聞く。値段だってそれなりだ・・・・。
雪兎は嬉しく思いながらも戸惑っていたが、バイトづくしで夏休みに入っても満足に自分の時間が取れなかった桃矢は大喜びして・・・。
さくら達に見送られながらふたりで出てはしたが、かなり恥ずかしかった・・・・。






顔を少し動かすと桃矢の寝顔があった。

目を閉じている時は本当に少し幼く見える・・・・それが嬉しくて・・・・自分だけが見ている事が嬉しくてついつい眺めてしまう。

本当はそっと触りたいけれど・・・・・きっと起こしてしまうから勿体なくて出来なかった。

寝入っている桃矢の向こうに満月があった。

・・・・そっか・・・・だからこんなに部屋が明るいんだ・・・・

見事に晴れ渡った夜空に輝く月は心の中まで照らされるようで・・・・







部屋で食事をとり、風呂に入り・・・・・そして床を並べた。
こういうところでは口で言う程には積極的でないのか、きっかけを掴めない桃矢が、どうでもいい話を繰り返ししているのがおかしくて笑った。
そしたら少しムッとして、そっぽを向いたけど・・・・。
雪兎がそっと窓枠に置いたままの桃矢の手に自分のを重ねる。
びくっと桃矢の身体が震えたのを感じた。






満月の夜は不思議・・・・・自分が自分でなくなるようなそんな感覚に包み込まれる。

月光の光はとても心地よかった。

今見上げている間にもみるみるうちに身体にしみこんでくるような・・・・そんな気がした。






きっかけさえ掴めれば、あとは若さの波に漂えばいい。
抱きすくめられ、口づけをおとされ、軽い衝撃に目を瞑り・・・・・そして開ければ天井が見えた。そしてすぐにそれは桃矢の顔に変わる。
「とーや・・・・・」
そっと名前を呼ぶと、嬉しそうに微笑みながら近づいてきた。
額、口、首筋、そして早急にはだけられた胸へと柔らかいものが動いていく。
段々抑えきれない息が、情熱が身体を支配する・・・・。
「ゆきっ」
いつも呼ぶ声。
絞り出すようにまるで何かを掴み取ろうとするように彼は叫ぶ。
とてもとても好きな音・・・・・好きな声。







しばらく月を見て・・・・そして寝顔へと視線を戻す。

規則正しく繰り返す呼吸に

そして規則正しく聞こえる身体の音に

身を委ねた。

目を閉じても見える月・・・・・・大事な・・・・愛しい光・・・・・でも時々怖いとさえも思ってしまう光でもあった。







「あ・・・・・んっ・・・・」
浴衣を噛んで声を我慢すると、それをとられてしまった。
「我慢するな・・・・声、聞かせろよ」
さっきまで躊躇していた顔は何処へやら・・・・快感に翻弄される自分を見下ろしてくる表情が憎たらしい。
「ほら・・・・・ゆき」
「んっ・・・」
身体の中で感じるものが蠢くたびに体を反らせ、首を振った。ふたりを照らすものは優しい光・・・・・。
「あああっ!」
突然に訪れた衝撃に、つい声が出てしまった。
慣れていく身体、慣らされていく想い・・・・・・・息を弾ませながら目を開けると、桃矢が自慢気に笑っていた。
「ばか・・・・・」
小さく囁いた唇にまたぬくもりが落とされた。







月の光は好き。

でも

月の光は嫌い。

心の中まで照らすその光に幾度涙を落としたことだろう・・・・・幾度声を殺して泣いたことだろう・・・・。

いつまで紡いで行けるのか・・・・・いつまでこうやって・・・・・。

考えても答えのでないままに・・・・・。






場所が変わったということもあるのだろう。
普段しないことまで抵抗無く出来て・・・・ふたりして何度も口を合わせた。
合わせなければ叫んでしまいそうな・・・・・それほどまでのぬくもり。
それほどまでの快感・・・
けして此処に泊まっているのは自分たちだけでは無いのに、それを感じさせない雰囲気委にふたりは酔いしれていった・・・・・。








「・・・・・ゆき?」

ぼんやりと開いた目に微笑む。

「ごめん、起こしちゃったかな」

「いや・・・・・どうした?」

「ん? 別に・・・・」

ふんわりと笑うと、また頭ごと抱きしめられた。

「俺だけ・・・・・俺だけ見てろ」

そう呟いて・・・・・・。

「うん・・・・・見てる、とーやだけ・・・・・」

そう答えた。

もっと強く抱きしめられた・・・・・。








互いの熱を何度感じて、何度受け止めたのか・・・・・。
結局覚えなかった。








月は好き。

月は優しい。

月は柔らかい。

でも

どうしてだろう・・・・・見つめていると、いつかそれに自分がとけ込んでしまいそうで・・・・・。

「とーや」

声に出して呼んでみる。

返る言葉で何度も確かめる。

「とーや」

もう一度呼ぶ・・・・

この名前に沢山の願いと希望を織り交ぜながら。



満月が僕を呼んだ・・・・・。




●リクエスト内容は・・・・
『二人っきりで温泉宿にでかけた桃矢君と雪兎さんを・・・月のうさぎみたいな温泉宿がいいです〜〜 』
・・・でございましたv

これ悩みました・・・・正直。
何処の部分を書き出そうかと・・・・旅館に到着してから・・・というのも間延びしそうだし、じゃあ、だからといって一場面というのは何処を抜き取ればいいかと・・・・。
「月のうさぎ」というのを私が知らなかったので(不勉強で申し訳ないです)・・・有名な旅館なんですね。〈こちら

とにかくしっとりした雰囲気を大切にしてみました。ごめんなさいラブラブでも甘いものでもなくなりました・・・・リク通りでないのが申し訳ないですが、この旅館のイメージでの妄想・・・・ですか?(汗;)

読んで何となく心に残れば嬉しいです。

タイトルは「月の涙」です。



2003・8・11
M・Hinase