| いつも見る月 いつの頃からだろう 気がつくと いつもあの人を目で追ってしまう いつの頃からだろう 会えない時もあの人を想うようになったのは 「香織ちゃん、じゃ後はよろしくね! 閉店までには戻るから」 「はい、いってらっしゃい」 店長から留守をまかされた香織は仕事用のエプロンをつけながら彼女を見送った。 店長会議に出かける彼女のために、いつもより早めに店に入ったのだ。 友枝町の駅の近くのこの本屋はいつも多くの客で賑わっていた。 「さ、始めますか!」 昼過ぎまだ店内には客が少ない 香織は仕事に取りかかった。 ★ ★ 「雨が降りそうだね」 「昨日も昼から降ったんですよね。お洗濯ものがやられちゃったんです。お兄ちゃんと二人で大変だったんですよ。」 「聞いたよ、桃矢から。全部お洗濯やり直したんだって?」 「はい・・・おかげで宿題やるのが遅くなって・・・今日も眠くて眠くて、つい・・・」 はっと口を押さえる。 「授業中に寝ちゃった・・・とか?」 「・・・はい・・・」 ぽんぽんと頭を叩いて 「僕も眠くなる時あるよ。ああいう時って、いけないって思うんだけどいい気持ちだよね」 にっこり顔を見合わせて笑う・・・いつもの風景。 ★ ★ 「ふう・・・」 雑誌の山を抱えて店の外に出た。 ムッとした生温かい空気に包まれる。 「また雨かなあ・・・」シートを出しとかなくっちゃ 道に背を向け本を並べだした。 「そろそろかき氷が食べたくなるね!」 香織の手が止まる。この声・・・!? 「そうですよね。この前お兄ちゃんが夕食の後作ってくれたんですけど、甘くておいしかったんです」 「へえ、いいなあ」 話し声が背中を通り過ぎる・・・振り向きたくても近すぎて動けない。 「じゃあ、今日のデザートはかき氷に決定!」 「いいの?」 「お兄ちゃんにどんどん作らせるから平気です!」 「あはっ、楽しみだなあ、イチゴに練乳、抹茶もいいよね・・・それから・・・」 声が通りすぎて香織は顔を上げ、声の主を見送る。 (あの人だ・・・会えた!) ローラーブレードをはいた女の子の隣を優しく微笑みながら歩くあの人 香織は仕事も忘れ、じっと彼らの背を見つめていた・・・ ★ ★ (名前・・・なんて言うんだろう・・・・) 時計の針は9時45分をさしている、店長はまだ帰ってこない。 所在なく手にしたボールペンをくるっと回す。 あれから忙しく、ゆっくり考える暇がなかった。 バイトの子も引き上げて、また一人になった時昼間の事を思い出した。 あの人はよくこの書店にやってくる。 事務的にレジをこなし、話しもしたこともないけど 時々一緒に来る背の高い男の子と楽しく会話をしているのを 本の整理をしながら聞いたことはあった。 時には気付かれないように本を手に取る横顔を見つめたことも・・・ (ま、会えただけでもラッキーと思わないとね) 10時5分前、外の本を中に入れようと立ち上がった。 ガーっと自動ドアが開いて入ってきた人 ふと顔を見て、香織は息を止めた。 「あの、まだいいですか?」 とっさに返事が出来ない・・・ 「えっ!? ああ、はい、何でしょう?」 「よかった・・・えっと本が入ったって連絡をもらったので取りに来たんです」 「お名前は?」声が震えてないだろうか? 「月城です」 本を探す手が震える・・・あった・・・伝票に書いてある名前「月城雪兎」。 「こちらですね」本を彼に差し出す。 他に客のいない店内・・・二人っきりの空間・・・もし今・・・ ふと涙が出そうになる自分がいた。 香織は軽く目を瞑って、俯いた・・・時が止まればいいのに・・・・。 「あの・・・」 ハッと顔をあげると彼が戸惑いがちに見ていた。(何考えてるんだろ?私・・・) 「あ、すみません。」軽く頭を降ってレジを打つ。 おつりを渡す。差し出された手が眩しい。 「ありがとうございました」ぺこっと頭を下げた。 「閉店間際にごめんなさい、どうしても明日必要な本だったので・・・」 ついうっかりして・・・と笑った顔がとても優しくて。 つられて香織も笑った。時が静かに流れ出す・・・ ★ ★ 「お疲れさまでした!」 店を出る彼と入れ違いで戻ってきた店長と片付けをした香織は 裏口から出て空を見上げた、月を探す。 雨雲がいつの間にかどこかに流れ空は晴れていた。 今日は三日月だ。 「月城さんか・・・」 いつも見る月が今日は違って見えるような気がした。 (あそこに兎がいるような気がするな、今日は) うーんと背伸びをした。 小さな小さな幸せ・・・・誰にも言えない自分だけの幸せ いい夢が見られそう。 香織は家へと向かった・・・また会えますように・・・・。 |
2001・6・18
M・Hinase
| ★健全すぎてびっくり・・・・という内容ですね;; でもこういうのも好きです。 だって絶対雪兎さんなら他の女の子からも想われてそうだもん・・・・ドリームだなあ。 |