呼び名



「さぁユーリ着きましたよ。ここが血盟城です。」
4歳になったばかりのユーリはまん丸な黒い瞳でコンラッドを見上げた。
「きつねじょう?こんのおしろ?」
「血盟城ですよユーリ。まだ言えないかな。それとここは将来あなたのお城になるんです。」
まだあどけない未来の魔王は理解できないらしくきょとんとした顔をしていた。
コンラッドは先に馬から下りユーリを大事そうに抱き下ろすと出迎えた二人に紹介した。
「グウェンダル、ヴォルフラム、ユーリだよ。」
「おい、コンとは誰のことだ?」
グウェンダルがコンラッドに問いかけた。
「コンって言うのは俺のことだよ。コンラッドとは言えないらしい。」
ユーリは4歳になっても少しおばかちんのままだった。
「そんなことも言えないなんてそいつバカなのか?」
「ヴォルフラム、ユーリはまだ小さいんだからそんなことを言ったら可哀想だろう。」
コンラッドは口の悪い弟を嗜めユーリに目線に合わせるようにしゃがんで二人を紹介する。
「ユーリ、こっちの背の高い方が兄のグウェンダル。」
「ぐ、ぐえ、ぐえ……ぐー?」
ユーリなりに努力したらしいがやはり無理だったようだ。
それはそうだろう、コンラッドよりよほど言いづらいのだから。
「グー」でいいかと確かめるように円らな瞳で見つめられグウェンダルの眉がピクリと動いた。
(堕ちたな)
コンラッドは内心でそう思った。
可愛いものが大好きなグウェンダルは緩みそうになる頬を引き締め必死にポーカーフェイスを作って頷いた。
兄の様子に笑いをかみ殺しながらコンラッドは次いで弟を紹介する。
「それからこっちは弟のヴォルフラム。」
ユーリが口を開きかけた時グウェンダルが口を挟んだ。
「こいつのことはプーと呼べばいい。」
「兄上、どうして僕がプーなんです。」
不服そうな弟に兄は冷静に答えた。
「いいか、コンラッドもグウェンダルも言えないのにヴォルフラムが言える訳ないだろう。」
「それはそうかもしれませんが、だからってどうしてプーなんです。」
「お前、私と同じように最初の一文字で呼ばれたいのか?」
ヴォルフラムの最初の一文字。
つまり「ヴ」……「ヴー」…「ブー」。
ヴォルフラムもそれに気づいて黙り込む。
眞魔国でも「ブー」は豚を連想させた。
「ぷー?」
ユーリは無邪気な顔で小首をかしげてヴォルフラムに訊ねた。
「…今はプーで我慢しておいてやる。早くちゃんと名前を呼べるようになれよ。」
(へえ、こっちはもう少してこずるかと思ってたけどあっさりだったな)
コンラッドは内心でほっと息をついた。
可愛いもの好きな兄はともかく魔族至上主義の弟が母親が人間であるユーリを受け入れるか心配だったのだ。
そこへバタバタと足音がして未来の王佐ギュンターが美しい髪を振り乱して駆けて来た。
「わ、私としたことが将来お仕えすることになる次代の魔王陛下のお出迎えに遅れるとは。このギュンター一生の不覚。どうぞお許しを。」
ギュンターはユーリの前に跪くと深く頭を垂れた。
「ギュンター、ユーリがビックリしてるじゃないか。」
その言葉にギュンターははっとしたように顔を上げる。
そしてユーリの顔をまじまじと見つめるとみるみる顔が緩んでいった。
(あ、壊れた)
三兄弟は揃ってそう思った。
「ああ、想像通りいえ、それ以上になんとお可愛らしいのでしょう。艶のある黒い御髪、そしてご聡明さをそのまま表したかのような澄んだ黒い瞳。生まれながらにして王としての気品を備えていらっしゃる。」
「ギュンター黙ってくれないとユーリに紹介できないぞ。」
放っておけばいつまでも続きそうな賛辞をコンラッドが遮った。
「ああ、そうですね。私としたことがあまりに嬉しかったものでつい。」
「ユーリ、彼はギュンター。将来あなたが王になった時に助けてくれます。」
ユーリはギュンターの名を呼べるのか三兄弟がじっと見つめる。
自分たちはダメだったのにギュンターだけちゃんと名を呼ばれたらショックなのだ。
ギュンターは初めて自分にかけられる言葉を目を潤ませて待っている。
「ぎゅ、ぎゅ、ぎゅう……もー。」
ユーリの口から発せられた予想外の言葉に皆が目を丸くする。
皆が黙り込んだことで何かいけないことを言ったのかとユーリが不安そうな顔になる。
「ユーリ、なぜギュンターがモーなんですか?」
コンラッドは不安を抱かせないよう微笑みながら優しく問いかける。
「ぎゅうはうしさんのことだってしょうちゃんが。うしさんはもーってなくでしょ。」
ユーリは兄の勝利に教えてもらったばかりのことを得意げに話す。
「そうだな。それはなかなかいい発想だな。」
「僕もそう思うぞ。」
グウェンダルとヴォルフラムに褒められユーリは満面の笑顔になった。
牛に準えられてしまった当のギュンターはショックで真っ白になっていた。
「ユーリ、城の中を案内してやろう。」
グウェンダルが軽々とユーリを抱き上げる。
「僕も一緒に行きます。」
「もちろん俺も。」
三兄弟の誰もフリーズしたギュンターを全く気に留めなかった。
ユーリには当然気に留めることなどできるはずもない。
四人が楽しそうに城内に消えた後、固まったまま置き去りにされたギュンターの美しい髪を風が弄んでいた。


おわり

04.12.11  グレペン



★きゃああ、可愛い!!
おばかちんな陛下がラブリー!!
そうそう、この世界の名前言えないよね〜vvv
いやあん、なんて可愛い・・・・めろめろです〜私!
抱きしめたい!このまま連れ去りたいです!
兄弟それぞれの反応が楽しいです〜次男・・・ちょっと黒さが見えてナイスですv
それにしても愛が報われないね〜ギュンギュン(笑)

グレペンさん素敵なお話ありがとうございます!
もう楽しくて楽しくって・・・情景が浮かんできましたv

壁紙は・・・きっとこの日の眞魔国も晴れ渡っていたのでは・・・と思って(^o^)。