My Prayer
「ただいまァ〜。」 玄関を開けて、靴を脱ぐと、まず第一にリビングを覗くのは、すでに香藤の習慣だった。 最愛の人の姿を求めて。 「…岩城さん?」 その人は、いた。 ゆったりサイズのソファに身を横たわらせて。 夕陽がレースのカーテン越しに侵入し、リビングの一角をオレンジ色の陰翳に染め上げていた。室内に置かれた調度の角や面の所々でそれはまろく反射し、物の輪郭を薄めさせている。 夕陽のかけらは、横たわる岩城の漆黒の髪や、細い鼻梁にさえも触れていた。 「珍しい、ね。」 香藤はソファの前に膝をつくと、小さく囁きかけた。 視線の先、30センチと離れぬところに、岩城の寝顔がある。 枕代わりのクッションの上で、癖のない艶髪がさらりと散っていた。伏せられた睫毛が、眼窩の下に繊細な影を投じている。 香藤自身がこのソファでうたた寝することはよくあるのだが、その逆は滅多にない。 岩城は昼寝や二度寝の類をどちらかと言えば好まず、それでも休息の必要な時は、寝室まで引き取るのが常だった。 ……まぁ、香藤に押し切られ、昼日中からベッドイン(しかも寝室とは限らず)してしまうことは、ままあったにしろ。 「このところ、忙しかったものね。」 今朝、5時に香藤が家を出た時、岩城はまだ前日の仕事から戻っていなかった。 彼等の、時間に不規則な仕事では、そんな昼夜逆転の擦れ違いも仕方ないと、お互い目を瞑ることにしている ――― 長く続くのは、さすがに辛いけれど。 「ごはん、ちゃんと食べたの?」 岩城は、あまり食事に構いつけない。 味覚は雑ではないのだが、食に対する執着が薄いのだった。ざっくりとしたニットの寛いだ襟元からは、骨の形もくっきりと浮いた鎖骨が 顔を覗かせ、無言のうちに香藤を誘っている。 映画の役作りで大幅に削った体重を、やっと少し挽回したというのに。このところ連日のハードスケジュールで、その涙ぐましい(主に香藤の)努力も、水泡に帰しつつある。 そう思うと、心なしか眼前の岩城の肌色が、いつにも増して白々と、いっそ青褪めていさえするような気がしてくる。 今し方まで、辺りを包むオレンジの色調に惑わされ、見過ごしていたけれど。 「どうしよう…。」 香藤は愛する人を揺り起こしたい衝動に駆られた。 まともに顔を合わせるのは、実に三日半ぶりだった。 けれど、そうしてはならないとの理性の声に耳を傾けるだけの分別は持ち合わせている。 「今日の入り、何時だっけ?」 オフとは聞いてないから、多分夜なのだろう。 そう言う点で、岩城は抜かりないし、マネージャーの清水がしっかりとスケジュール管理をしてくれているので、心配の必要もない。 ちょっと……かなり淋しいけれど、疲れ切っているこの人から、眠りを奪うわけにはいかないのだと、香藤は自らを納得させた。 さて。 清水が迎えに来るまで、あとどれ位の余裕が残されているのか、分からないけれど。 せめて何か暖かなものを少しはお腹に入れてほしい、用意しなければ、と半ば無理矢理、一幅の絵にも似た寝姿から視線を引き剥がしたところで。 床に落ちている文庫本が目に留まった。 ページを開いた形のまま、フローリングの上で伏せられ、書店のロゴの入ったカバーが外れかけている。 岩城は普段、本をぞんざいに扱わない。 おそらく、睡魔に襲われて、読みかけの文庫が手中を滑り落ちたのだろう。 証左のように、彼の左手は、何かを取り落とした格好でソファの縁から垂れ下がっている。丁度、文庫本の真上あたりに。 「ホント…珍しいね。」 香藤は文庫を拾い上げ、カバーを直し、折れたページを伸ばしてローテーブルの上に置いた。 岩城は相当な読書家だが、手当たり次第に濫読するタイプではない。読むものは、一々と吟味して手許に揃える。多忙な日々の中でも書店に立ち寄った際は、時間の許す限りじっくりと内容を確かめるし、新聞の書評欄をチェックする姿は、香藤に馴染みのものでもある。 そして心惹かれた書物は、二度三度と繰り返しひもといた。 小説などで、お気に入りのタイトルが文庫落ちしたならば、すぐにそれも買い求める。 単行本と文庫では、本文の書き換えや書き加えの微妙な差異があったり、また、あとがきの書下ろしが新たに付く場合もあるのだそうだ。それらを読み比べるのも興味深いし、文庫は持ち運びに便利だから、と岩城は言う。拾い上げた小説も、そうした愛読の一冊だった。 香藤も勧められて借りたことがあり、大変読みやすく、面白い上に、しみじみとした情感が後に残った作品で、よく記憶している。 読書中に岩城が寝入るのは珍しい。それが愛読の書ならば、尚更。それくらい、疲労が蓄積されているのだろう。 今、収録している次クールの新番組で、岩城の配役は主演男優の兄の役である。とはいえ、このドラマの撮りは、岩城のスケジュール待ちのきらいがあったらしい。 ほぼ一年がかりの長期撮影となった主演映画がクランクアップして、ようやく、岩城の身が空き、他の仕事に集中できる態勢になった。それを待って組まれた、収録日程というわけだ。 尤も、映画に比べてはるかに短日のうちに一話分を仕上げねばならず、常に時間に追い立てられるテレビドラマのこと、兄役の登場しないシーンに関しては、ある程度先行して撮り溜めていたはずで ――― その分のビハインドを埋め、初回放送に間に合わせるべく、ここ数日、岩城は殺人的スケジュールをこなす破目に陥ったわけである。 (お疲れさま、岩城さん。) こうして、家で休む余裕が生まれたということは、山場を越えて一段落した、と考えてよいのだろう。 (できれば、一晩ゆっくり休んでもらいたいんだけど…。) 香藤は右手を伸ばし、クッションの上で乱れる黒髪に指先を滑らせた。 ひんやりとした感触を得る。 更に…と膨れ上がる欲望を嚥み下し、右手を拳に握り込む。 さあ、この場を離れなければ。 壊れるほどに抱きしめて、肌で触れ合って確かめて。零される涙まで味わい尽くして渇きを癒したいと泣き喚いている、胸の奥の我儘な子供を押し殺すために。 さあ…! 「…………………。」 数呼吸をおいて。 香藤は力なく項垂れ、尻をぺたりと床に預けた。耳も、垂れていたかもしれない。 30センチあった岩城との距離は、20センチにまで縮まる。 「ごめん、岩城さん……もうちょっとだけ、ここにいさせて?」 その代わり、うるさい子供はちゃんと黙らせるから、ね? 三十路に手が届こうかとの、大の男にあるまじく、瞳をうるうるさせて。とても人前に晒せる顔付きではない。 香藤は体育座りになり、立てた両膝の上で両腕を組み、その上に顎を乗せた。 岩城との距離、15センチ。 「…なんで、こんなに綺麗かな。」 だからいつも、不安で不安で仕方ないのだ。 やわらかく閉ざされた口元が、無防備にキスをねだっている。 そうして欲望を掻き立てられる半面、完璧な唇のラインは有るか無きかの微笑を含んでいるようでもあり。それが、聖母の慈愛にも通じる、不可侵の神々しさで見る者を圧して ――― 額づきたくもなる。 顔だけじゃなく。身体も、心も、何から何まで綺麗で、可愛くて。 奇跡のように存在してくれた、この人を。 欲しがっている人間は、きっとたくさんいる。自分たちが知る以上に、はるかに多く。 「目、開けてくれないかな。岩城さん。」 なぜか無性に、あの黒い瞳を覗きたくなった。 その瞳に映される自分自身を確かめて、安堵したいのかもしれない。 岩城の寝顔が、あまりに美しく整い、静かすぎたのだ。 まるで、息をする人間のものではないように。 「思い出しちゃうじゃん。」 白い雪が降りかかる、白い白い貌。 こそとも震えぬ睫毛。 色を失った唇。 対照的に、新雪をまだらに染める、鮮やかな朱の色。 「……ッ、」 香藤は口を開いた。言葉は、出てこなかった。 何を、言おうとしたのか。 分からずに、小さく首を振る。 「………。」 以前、岩城主演の医療ドラマに、ゲストで呼ばれた時。 香藤の演じる患者青年が危篤に陥った場面で、岩城は台本にない涙を流した。 臨終に立ち会う担当医として、己の無力を嘆じる演技などではない。 或いは、医療過誤で前途を閉ざされた青年に対する憐憫とも違う。 岩城京介という一個人が、恋人の、香藤洋二の死にゆく姿 ―― たとえ虚構であれ ―― を目の当たりにして、意図せず溢れさせた涙だった。 他の誰に分からずとも、香藤には分かる。 あの時、自分は岩城に言ったのだ。 あまり人前で涙は見せないで、と。 泣いている事にさえ気付かず、ただ静かに涙を流し続ける岩城の姿が、痛々しくて。同時にとても愛しくて。 他人の目に触れさせるなんてとんでもない! との、悋気がつけさせた注文だったが。 最近になって、あの当時の岩城の気持ちが痛いほどわかる。 岩城と香藤、二人の主演映画のクライマックス。 明治新政府の高官・草加の許に秘匿されていた旧幕臣の秋月が、草加を窮地に追い込むことを恐れて自害するシーン。 それは冬の朝。 降り止まぬ雪。 草加邸の、白銀に埋もれた奥深い裏庭。生い茂る木々。 その間に一条、延々と伸びる、片足を失った秋月の這いずった痕跡。恐ろしい予感を捩じ伏せながら、その跡を追い掛けた草加。 ―――― 嘘だ。嘘だ。嘘だッ…!! 大木の根方に打ち臥し、事切れている秋月を目の当たりに、慟哭したのは草加であり、同時に香藤だった。 秋月の、岩城の、死に顔は、美しく、切なく、香藤の胸を切り裂いた。 この世の終わりを意味していた。 虚構だと分かっていても、震える声を抑えられなかった。心臓が冷えていった。 昨夜、確かに腕に抱いた熱い身体が、同じ腕の中で白々と凍えてる。 いくら呼んでも、胸の中のものを全て吐き出し、逆さに振るって乞い願っても、愛する人は答えてくれない。 目を、開けてくれない。 もし、いつか ――――。 本当に、岩城を失う日を迎えたら。 (俺は、一秒だって耐えられない。) その事実をまざまざと思い知らされた。 雪の中の冷たい死に顔は、今でも瞼の裏に焼きついている。 「岩城さん…、」 香藤は堪らず右手を動かした。指先を眠り続ける岩城の頬へと伸ばす。 けれど届く寸前、指が止まる。 (もし、触れて、冷たかったら?) (息を感じられなかったら?) 「―――――。」 香藤はゆっくりと手を退いた。 自らの膝を抱いて、初めて、全身が震えているのに気付く。 馬鹿馬鹿しいと、有り得ないと、理性の半分は言い捨てる。 わかってる。 わかってるはずだ。 この人の寝息は、いつもとても静かで、呼吸を感じさせないほど穏やかじゃないか。 深く寝入った際には尚のこと。 だから、目の前の寝顔があの、雪に凍えた白い顔と重なるのは、単なる錯覚だ。思い込みだ! そう理解しながら、それでも。 15センチの隔たりを越えられない。 千万が一。万万が一。 もし…―――――――。 そうなったら……そこで世界が閉じてしまう。 歯の根がカタカタと音を立てた。 喉の奥が締め付けられる。 「岩城さん…、」 目を、開けて。 ねぇ。 お願い。 ぱたぱたと指先に降る温かな雫を感じた。 それを、何だろう…と訝しんだ思考の上昇気流が、岩城を覚醒へと導いた。 未だ焦点の定まらぬ視界に映し出された曖昧な輪郭は、それでも、見紛いようのない恋人の姿をかたどっており、意図せぬ笑みが頬に浮かぶ。 「香藤…。」 寝起きの掠れ声が喉から漏れ出した。 手を伸ばし、相手に触れようとして、新たな雫を指先に感じる。 「香藤?」 恋人の頬を濡らす涙だった。 「いわ…き、さ…っ、」 痞え痞え、名前を呼ばれる。 「…どうした?」 岩城の手を捉え、香藤は己の唇に宛がった。 ほぅ…と吐き出された深い息が、岩城の指を湿らせる。 香藤の唇は小刻みに震えていた。 「何があった、香藤。」 岩城の眉根が顰められる。 香藤の様子がただ事ではない。 「おい…?」 上体を起こしかけた岩城に覆い被さる格好で、香藤が身を乗り出す。 首を支えられ、再びソファに沈められた。 「何もない。」 「香藤、」 「心配しないで。」 言いながらも、瞬いた拍子に温かな一滴がまた、岩城に向かって落下する。 今度は口角の窪みに。 香藤は、まるで紅を引くように、それを岩城の唇の隅々まで広げた。 寝起きの乾いた皮膚が、見る間に水分を吸収する。 岩城は訳の分からぬままに、香藤の柔らかい癖髪を指で梳いた。映画の役柄に合わせて短くしたものが伸びかけた状態で、それが以前に増して、この男から精悍な表情を引き出す一助を担っている。 泣き顔すら、惚れ惚れする美男子ぶりだと思う。 岩城は香藤の首を引き寄せ、互いの唇を重ね合わせた。 舌を絡め、ようやく水を得られた旅人のように貪った。 どちらからともなく長い口付けを解いた頃には、香藤の身体から嫌な強張りがほぼ抜け落ちていた。 目元を紅く染めているのは、涙とは別の生理現象ゆえだ。 そう言うことにしておこうと、岩城は結論付けた。 「…やっぱり、マリア様だね。」 「何がだ。」 「惜しみなく与える。」 「……ばか。」 岩城は香藤を軽く小突いた。 「俺を女に譬えるなと、何度言えばわかる。」 「――― そうだね。」 香藤はふっと笑みを零し、岩城の胸の上に頭を預けた。 「岩城さんは他の誰でもない。俺の、岩城さん。」 「……。」 「俺だけの。」 「ああ、そうだ。」 岩城は胸に乗る重みをやさしく包み込んだ。 「時間、大丈夫?」 香藤が尋ねた。 岩城を背後から抱きこむ形で腕を回し、二人してソファに横たわっていた。 なにぶんにも体格のよい成人男子二名であるから、それはかなり窮屈な位置取りで、身体の隅々までを密着させている。 彼らの正面、少し離れた壁際で、大画面のTVがイヴニング・ニュースを流していた。 片隅には、緑色の時刻表示が現れている。 岩城が予めセットしておいたタイマーが、5分ほど前、指示に従い今では薄暗い室内で唯一の光源となっている画面を点し、低音量の排出を始めたのだった。 その時刻表示を確認して、 「あとは、夜の屋外シーンを残すだけだから…清水さんが6時半に迎えに来る。」 岩城が答える。 「そっか。……もうあんまり余裕、ないね。」 「そうだな。」 密着させた背中に、香藤の硬い部分を感じてはいたものの、応じるわけにはゆかない。それはどちらにも分かり切ったことだった。 岩城は香藤の腕の中で身を反転させ、向き合う形になる。そしてお気に入りの癖髪に指を絡ませた。 「岩城さん…。」 「まだ、話せないか?」 問われて、香藤は困ったように笑う。 その笑みの中に、岩城は泣き顔の片鱗を見た気がした。 「香藤、」 「なんでもない。……馬鹿馬鹿しいことだよ。」 岩城の強く真っ直ぐな視線に打ち負かされたかに、香藤は心持ち目を逸らした。 岩城は許さず、香藤の頬に手を添えて、瞳の奥を覗き込む。 「お前にあんな風に泣かれて、俺が気にせずにいられると思うのか。」 「岩城さん ――、」 へにゃり。 香藤の相好が崩れる。色男も台無しだ。 「それって、殺し文句。」 「香藤。」 俺は、真面目に話しているんだぞ。 岩城の真剣な表情が訴える。 香藤は苦笑を零した。 「簡単には誤魔化されてくれないね。」 「――― 誤魔化さなければならないことなのか。」 「違うよ。」 香藤は頬に添えられた暖かな手に自分のそれを重ね、ゆるく指を絡め取った。 岩城は静かに次の言葉を待っている。 その、潤いを帯びた瞳は、吸い込まれそうな深い色合いの縁で、室内の僅かな明かりを反射している。 形良い目元は、眦に向けてすっと切れ上がり、名工が丹精した手業を思わせる。…いや、描こうと思って描けぬ造形の妙だ。 そのラインに沿って舌でなぞりたい衝動に駆られる。 (この目に弱いのに……勘弁してよ、岩城さん。) 「―― 香藤?」 「もしかしたら、岩城さんに呆れられちゃうかなって。…怒られちゃうかも。」 香藤は互いの額をこつんと触れ合わせた。 暗すぎて、相手の目の中に映り込んだ自分の姿までは探せない。 「考えたんだよ。岩城さんの寝顔をずっと見ていながら。――― 秋月は、草加を守ろうとして、自分自身を切り捨ててしまったよね。その秋月を演じながら、岩城さんがどんな思いでいたかまではわからないけれど…、」 ぴくり、と反応したのを察し、香藤は空いた方の手で岩城の背を優しく宥めた。 「いつか。俺たちのどちらかが死ぬ時、」 「香藤…ッ!」 いいから聴いて、と岩城の唇に指を当てて窘める。 「いつか、その時。…俺は岩城さんに先に逝かれるのは絶対に嫌だなって。」 「香藤…。」 「でも、岩城さんを独りで置いてゆくのも嫌なんだよね。」 「……。」 「俺は、岩城さんに関しては際限なく我儘で欲張りなんだ。」 「…ああ、知ってる。」 「岩城さんのいない世界に、俺だけが生きている意味なんてないから。だから俺が生きている限り全身全霊で岩城さんを守る。他の誰にも、何にも、手を触れさせたりしない。」 「俺だって。」 岩城が絡まり合う指をぐっと握り締めた。 「お前を守るためなら何でもする。そのために惜しいものは一つもないぞ?」 「……。」 惜しまない、と言い切った言葉のうちに。 おそらく ―― いや確実に、岩城自身の生命まで含まれていただろう。 香藤には、恋人のそうした真っ直ぐな心情が愛しくもあり、歯痒くもある。 「岩城さんて、ホント心配。」 「…え?」 唐突に逸れた話に、岩城がきょとんとした。 「この可愛い人を独りで残していったら、他のヤツが放っておくはずないよね。 …そしたらいつか、俺じゃない誰かがこの唇に触れ、肌に触れ、愛し合う ――― そんなの絶対イヤだよ、絶対ッ!!」 「…そんなの有り得ないって知ってるだろう。」 「岩城さんにその気がなくても、強引にこの肌に触れるヤツがないとは言えないだろう? 無理矢理抱いて、捩じ込んで……俺がいなきゃ、守ってあげられないんだよ?!」 「それは…、」 絶対無い、と言い切れない過去の実例が ―― 未遂であるものの ―― 岩城には痛かった。 「心配で、心配で、俺は時々……。」 「時々。なんだ?」 「………。」 香藤は絡ませた指を解いて腕の中の身体を深々と胸に抱きこみ、その肩口に顔を埋めた。 嗅ぎなれた匂いが強くなる。香藤はぎゅっと瞼を閉ざし、深く息を吸い込んだ。 「いつか、死ぬ時には、」 「死ぬ死ぬ繰り返すな。縁起でもない。」 「でも、いつか必ず来るんだ。俺にも、岩城さんにも。」 「……。」 「その時、こうして岩城さんを腕に抱いたまま、一、二の三で一緒に逝けたらいい。」 「……。」 「どこまでも、岩城さんと一緒がいい。」 「……。」 「ねぇ、」 答えて、と。 頷いて、と。 香藤はその先をねだらなかった。 目を開くと、辺りは宵闇に閉ざされている。 緑色のデジタル表示が、殆ど恫喝の勢いで予定時刻までの残余を刻んでいる。 世界の中でただ二人。 あまりに愛しく短い一瞬。 明日には、この腕の中から奪われてしまうかもしれない。 保証はどこにもない。 だから、時々。 ……… 香藤の指が微動したのとほぼ同時に、岩城の軽い吐息が首筋を撫でた。 息は言葉を伴っていた。 消え入りそうに掠れて。 「そうだな。…いつか ――――」 …end ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― ――― 以上、香藤洋二(29才・推定)の、妄想爆走乙女の祈りをお届け致しました(笑)。 しかし、春抱きパロディの初書きがこれって…。 「エマージェンシー・ドアー(前編)」の見開きカラー扉でセンター張ってるカッコイイ人とは 180°別人としか言えません。香藤ファンの方、もしお気を悪くされたなら、申し訳ないことです。 (ちなみに岩城ファンの自分は)岩城さんの寝顔が目の前にあると想像しながら書いている間中、幸せでしたvv 最後に。ダラダラと長いだけで、起伏もアクションも潤いもない一篇にお付き合い戴き、ありがとうございました。 2005/05/07 エイリ |
微笑ましいシーンから段々気持ちが盛り上がって
きゅんと胸が詰まるような切なさへの移り変わりが素敵で・・・
やがて来るだろうその時を思い描いてしまった香藤くん
そしてその気持ちを静かに受け止める岩城さん・・・
ふたりの静かな・・・でも強い心の絆を別の視点で感じるようで
読んでいて涙ぐんじゃいました・・・
エイリさんありがとうございますv
いただいたその日に私も眠る岩城さんを書いていて・・・
素敵な偶然にとても嬉しくなりました(^o^)
大切にしますねv