| 「やっぱり東京じゃあ綺麗な星空は望めないね・・・・」 ビールの缶を片手に香籐が溜息をつく。 「そうだな・・・・街の光も強いしな」 そう答えながら俺は静かな、そしてすがすがしい風に身を任せる。 珍しく揃ってのオフ。 俺と香籐は早めの夕食を済ませてバルコニーでくつろいでいた。 七夕も近いこの時期、所々で家の光に照らされた笹が見える。赤や黄色の飾りで彩られたそれはほのかな明かりの中に幻想的に浮かび上がっていた。 「ねえ、岩城さんは七夕の思い出なんかあるの?」 「・・・そうだな・・・・小さい頃は兄貴と一緒に飾り付けなんかしたと思うが・・・・あんまり覚えてないかな」 「そうなんだ? 俺はねえ〜毎年笹を調達してた!」 「は?」 くすくす・・・と笑う香籐は昔を思い出したのだろう。子供のような表情になる。 「と言っても中学ぐらいの頃までだけどね・・・・家の近くにさ・・・・あ、近くと言っても子供の足で歩くと結構あるんだよ? そこにね、小高い山があって、そこに毎年笹を取りに行ってたんだ!」 「一人でか?」 「ううん、友達と。でもその友達も自分ちのを取るわけだから結局は一人で持って帰るわけだからね・・・同じ感じ。」 「・・・・結構大変だろう・・・・」 小・中学生の頃の香籐の体格がどうだったかは、分からないが、大仕事だっただろう事は容易に想像が付く。 「そりゃあ、もう大変っていうもんじゃないくらい大変だったんだよ?」 香籐は身振り手振りでその頃の苦労を話す。 途中、溝に落ちたり、ずっと擦って持っていった為に家に着く頃には葉が落ちてしまっていたこともあったこと。 野良犬に追いかけられたこともあったとかいう話・・・・・その1つ1つがおかしくて俺は大笑いしてしまった。 「・・・・岩城さん・・・・笑いすぎ;;」 「ああ、すまんすまん。その頃からそんなんだったのかと思うと、おかしくって」 「・・・・そんなんって・・・・・ああ!俺が馬鹿みたいってこと?!」 「あはははは・・・・」 「もう! 岩城さんったら! 酷いなあ〜子供の頃の思い出を語っているっていうのに」 むうっと拗ねた香籐の横顔に余計おかしくなって、俺は久しぶりに笑った。 「ああ、もう! せっかくロマンチックに愛でも語り合おうと思ったのに!」 ようやく笑いが収まった俺にふてくされて香籐が言う。 「ああ、悪かった、悪かった。でもお前がそんな話するからだぞ?」 「えええ? 俺のせい? まいっちゃうなあ・・・・もう」 そう言いながら、ぐいっとビールを飲み干す香籐に微笑む。 こうやってたわいのない話で笑いあえる・・・・きっとそれが今の自分には一番大切なんだろうな・・・・ そう思うと心が温かくなる・・・・不思議だ。 「あ、でも・・・・どうしてそんなに苦労して毎年お前が取りに行ったんだ? 誰かに変わって貰えばいいだろう?」 父親が休みの日でも一緒に取りに行くという手もある。 「ああ、それはね・・・・洋子と約束したからなんだよね・・・・」 「洋子さん?」 「うん。あいつさあ、今でこそあんな風だけどさ、結構小さい頃我が儘で、俺はいっつも顎でこき使われたんだ・・・」 「おまえも我が儘だって聞いたぞ?」 「全然! 例えそうだとしても俺の負け、洋子の勝ち! で、いっつも七夕が近くなると、『おにいちゃん、今年も飾るんだから取ってきて! 本物でないと嫌よ!』とか言っちゃってさ・・・・断ると泣き出したりして大変だったんだから・・・」 「へえ・・・・・それで毎年大仕事をしていたという訳か」 「そう! あいつが中学に上がってそういうのよりも他のモノに目が行くようになるまで続いたなあ・・・・・ああ、俺っていい兄貴だ」 「まったくだな」 そう言いながらまた笑うと 「ああ、また笑ってる!」 と、文句を言う香籐に笑った。 そうやって世間話をしながら、星のあまり見えない空を眺めていた。 「・・・・・今年は」 「え?」 話が途切れたあと、呟くように香籐が言う。 「七夕飾ろうっか、岩城さん!」 「はあ?」 俺は思いもよらない香籐の言葉に聞き返した。 「飾ろうかって・・・・」 笹でも取ってくるのか? でもここら辺にはもうそんな場所は残ってはいない。 「んー飾りを作るのは面倒だからさ、短冊ぐらい書かない?」 「おい、香籐、飾るって・・・・笹は?」 俺の問いかけに、待ってましたと言わんばかりに香籐が笑った。 「今やっているドラマの撮影で使ったいたんだよね、確かあまりがあったからさ! アレを分けて貰おうかな〜って」 「・・・・・・」 嬉しそうに笑う香籐の顔を見ながら、やれやれと思う反面、心が穏やかになるのを感じる。 いつから自分はこんな時間を過ごせるようになったのだろう。 明日スタジオから笹を貰ってくるからと、短冊を先に書こうという香籐に苦笑しながらペンを取る。 「願い事を書くんだよね」 「そうだ」 「じゃあ、もう決まりだよね」 「ん?」 顔を上げた俺は額にキスを落とされびっくりしてしまった。 「お、おい!」 「もう、岩城さんったら。誰も見てないんだから、そんなに真っ赤にならなくても」 「恥ずかしいんだ」 「まったくいつまでたっても・・・・で、書くことは決まってるよね」 香籐は満面の笑顔で同意を求めてくる。 まるで子供のようで・・・・・またそれを可愛いと思ってしまう俺もどうかと思う。 「ま、そうだな」 へへへ・・・・と俺の返事に満足した香籐がさらさらと紙の上にペンを走らせた。 「じゃーん! 書きました!」 自慢気に見せた紙には・・・・・ 【岩城さんといつまでも一緒に過ごせますようにv】 案の定、こっちが照れ笑いをするしか反応出来ないモノを書いている。 すると今度は、岩城さんは?と覗き込んでくる。 「俺のは明日までの秘密だ」 「えええー! いいじゃん! 明日見るのも今見るのも同じだよ?」 紙を裏返しにする俺に不満の声を上げる。 「笹につけてから見ればいいだろう」 「そんなもの? 今見ても同じなのに・・・・」 と、ぶつぶつは言いながらも、こういう点では俺がひかないことを知っているので香籐は渋々と納得したようだ。 まあ明日すぐにでも見られるからいい・・・・と思っているのだろう。 「ね、岩城さん・・・・・」 短冊をそれぞれにしまうと、香籐が肩に手をかけてきた。 どちらかともなく唇を求めると、もう互いの熱しか伝わってこない。 「ん・・・・・・っ」 息をするのもきつくなるほどの熱い口づけに酔う・・・・・。 どさっ・・・とベッドの上に重なって、倒れ込んでもなお唇を求め続ける。 「岩城さん・・・・・」 ようやく解放され、呼びかけに目を開けると、香籐が見下ろしていた。 「俺たち・・・・幸せだね」 そう言うとにっこり笑った。 それは・・・・牽牛と織姫に比べてなのか?・・・・・・・・さっきまで交わしていた雑談の中で、ほんの少しだけ出てきた七夕の話が残っているかもしれない・・・・・。 河を隔てた所にお互いの存在を感じながらも会えない日の長さ・・・・香籐は自分だったら耐えられない! そう言った。 星の河を泳いでも渡るのだと。 星の河に水があるのか・・・そんなこと考えれば分かるのに、もうすっかりそう思いこんでいる香籐がおかしくて・・・・・・嬉しかった。 「ああ、そうだな」 ふっと笑って答えると、また口づけをしてくる。それが心地いい・・・・・・香籐のキスは好きだ。 その後はもう与えられる快感の流れに翻弄され、何も分からなくなっていった・・・・・。 翌朝、香籐より早く目が覚めた俺は、昨日の短冊をそっと取り出す。 昨日は何となく照れてまじめに書かなかった願い。 書き直すか・・・・・ 小さく呟く。 いくらなんでもこれじゃあ、かわいそうかも知れない・・・・。 ふとベッドを振り返るとすやすやと寝息を立てた香籐が枕を抱えていた。 その姿に微笑んで・・・・俺はペンと短冊の紙を持って部屋を出る。 「もう少し寝てろ・・・・」 そう囁いて・・・・・・。 その夜、笹を持って帰って来た香籐は俺の短冊を見て一喜一憂していた。 本当にかわいい奴だとその様子を見ながら、俺は珈琲を入れたカップに口を付けた。 短冊が風に揺れる・・・・・・ 【香籐に馬鹿と言うことが少しでも少なくなりますように】 そして・・・・・・ 【これからも星の河をいつまでも ふたりで渡っていけますように・・・・・・】 |
2003・7・2
日生 舞